↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラブの王と王妃  作者: 雪見だいふく
16/30

熱で少し素直に




アリソンは自分の気持ちを自覚した後、夫にどのように接すればいいか分からず、もやもやしていた。


寝巻きの上にショールを羽織った格好で、夜の庭園にあるベンチに一人座っていた。

さあっと頬を撫でる風が心地よく、アリソンの高ぶった体温を下げていく。


昨夜の陛下はいきなり抱きしめたり、名を呼んだり、強引に口づけを……。


って、何思い出しているの、アリソン!


アリソンは恥ずかしくなって、首を横に振ったとき――――。


「王妃」


静寂な夜に、低い声が聞こえた。

アリソンがビクッとして振り向くと、夫が黒髪をさらしたままこちらを見つめている。


「…陛下」

「風邪をひくぞ」


夫は少し眉間にシワを寄せ、アリソンの隣に立つ。


「眠れないのか?」


伏せた目元に色気を感じ、じっと見下ろす黒目に胸がどくどくと速まる。


「あ…、は、はい」


歯切れ悪い返事に夫が顔を覗き込んできた。


「どうした?どこか具合が悪いのか」

「っ…、いえ、大丈夫です」


伸ばされた大きな手に胸の音が不規則に速くなって、アリソンは座ったまま後ずさる。

それに夫は固まっていたが、目を伏せた後、アリソンの目の前に手を差しのべる。


「おいで。散歩しよう」


静かに言うと、夫はショールを掴んでいるアリソンの片手を掴み優しく立ち上がらせる。


「あ…」


さりげない触れあいにアリソンの心拍数は、尋常じゃないくらい速くなっていった。

しかし夫は、アリソンの片手を自身の腕に掛けさせ、ゆっくりと歩く。


「陛下…」

「欧米では男が女を導くのだろう?」


エスコートのことだろうか。


だが、夫がアリソンをエスコートしたことは公務以外にはなかった。

それも民に向けてだったので、アリソンも平然としていたが。


アリソンの歩幅に合わせて歩く夫に、くすぐったい気分になる。

ちらっと夫の横顔を見ると、端正できれいな顔が月に照らされ、アリソンの胸がきゅうっと苦しくなった。

どんどん身体が火照り、息も熱くなっていく感じがした。


昨日の今日で、どんな顔をすればいいか分からず、言葉もでない。

アリソンは肌触りのいい夫の(トーブ)に、無意識に力を込めていた。

それに気づいたのか、夫が身を屈めてきた。


「王妃。やはり具合が悪いんじゃないか?部屋に戻ろう」

「い、いえ!大丈夫ですわ」


否定しようと顔を上向かせた時、夫の顔が間近にありアリソンは目を開く。

慌てて顔を伏せれば、夫の指が顎にかかり上向かせられる。


「顔が赤い。目も潤んでいるし、熱があるのだろう。湯冷めしたのかもしれないから、部屋に戻ろう」

「あ…」


夫がさらに(かが)むと、アリソンの膝裏と腰を持ち上げ、身体がふわっと浮かび上がる。


「お、降ろしてください。陛下…」

「さらに熱が上がったらどうする」

「あの、私、熱は…」

「いいから」


半ば強引に言い負かされたアリソンは、言い返す気力もなく力強い腕にもたれる。

夫の視線を感じるが、アリソンは浮遊感に心地よさを感じ、夫の胸に顔をすり付けた。

背中にある夫の手がビクッと動くが、アリソンは目を閉じたまま夫の香りを堪能していた。






私室のベッドに優しく降ろされると、夫はすぐに離れていく。


いや、待って―――!


離れていく(ぬく)もりと、寒さから心細くなって手を伸ばし、夫の(トーブ)を掴む。


夫は驚き振り返る。


「侍女を呼びに行くだけだ。喉も乾いているだろう」


気遣ってくれる夫に、アリソンはいやいやと首を振った。

朦朧(もうろう)とする頭で思考が鈍り、正常な行動が出来なかった。


「王妃」

「いや、ここにいて…。お願い」


涙で潤んだ目で見上げると、夫は目を開くが、すぐに苦しそうな表情になる。


「どうしたんだ。…すぐに戻ってくるから…」

「やだ。ここにいて」


息が熱い。徐々に上がっていく体温に、呼吸が荒くなっていく。

でも自分では何を言っているのか分からず、ただ目の前にいる温もりにすがり付きたかった。






「へ…か…」


熱で潤んだ目で見上げる王妃に、ラビは戦っていた。

己の欲望と―――。


王妃は熱でおかしくなっているだけだ。

心細いから温もりが欲しいだけで、目の前にいる俺にすがり付いているだけだ。


それだけだ。なのに―――。


ラビの我慢を(あお)っているとしか思えない王妃の姿に、ラビは拳を握る。

はあっと息を吐くと、(トーブ)を掴む王妃の手を握った。


「大丈夫だ、ここにいる」


そう言うと、王妃はほっと安心したように目を閉じていった。


愛らしい寝顔と、少し汗ばんだ首元にずくんと身体がうずき、まずいと思いつつも握る手を離せなかった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。