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アラブの王と王妃  作者: 雪見だいふく
14/30

繋がりあう気持ち

「待ってください!」


声に出せば、身体が勝手に動いていた。

アリソンはベッドから降り、夫の背中の(トーブ)を両手でぎゅうっと掴んだ。


夫は驚き固まっていたが、アリソンは(トーブ)を離さなかった。


「っ待って…。ちゃんとジャバードと話し合うべきです。お二人とも砂漠を愛しているのでしょう?」


アリソンは背中を向けたままの夫に、必死に話しかける。

その大きな背中は何を考えているのか分からない。

だが、ここで説得しなければ一生分かり合えない気がするのだ。


「…あいつとは馬が合わない。何度交渉しようが結果は同じだ」

「そんなことありません!ジャバードは話せば、きっと分かってくれます」

「――るさい」

「え?」

「五月蝿い!」

「あ!」


突然、夫が振り向き力強い腕がアリソンを壁に叩きつける。

両方の二の腕を掴まれ、間近から漆黒の瞳に見下ろされた。


「ジャバード、ジャバード…。もうあいつの名を聞くのはたくさんだ!あいつの肩を持ちたいならばそう言え!」

「ちがっ。私は…」

「ジャバードが気に入ったのなら、愛人にでもすればいい。あいつもお前に好意を持っているみたいだしな」

「…っどうして」

「どうして?お互い様だろう?お前も俺に愛人がいると思っているのだろう。お互い夫婦として成り立っていないのだから、何をしたって構わない。だから…」


パンッ――――


頬を叩く乾いた音と、ビリビリする手のひらでアリソンは正気に戻る。

怒りの感情に任せて、夫の頬を叩いたことに血の気が引いた。


「っあ…。ご、ごめんなさ…」


だんだん赤くなっていく夫の頬に、アリソンは逃げたくなった。


何てことをしてしまったの―――――。


夫を叩いた手に手を重ねて、胸元へ持っていくと、夫の瞳がぎろりとアリソンを睨んだ。

恐ろしさに身を(すく)める暇もなく、夫の腕が伸びてきた。


「んっ」


後頭部と腰を抱えられ、ぐいっと前に寄せられると熱い唇が重ねられた。

慌てて夫の胸板を押し返すが、反対に腕の力を込められ、抱きくるめられる。

前回のように、強引なところは同じだが、離してくれなかった。

何度も唇を啄まれ、苦しさに口を開けるとぬるりと舌が口内に侵入した。


「んん」


こんな強引なキス―――


夫に何度も求められ、アリソンの脚はガクガクと震え始めた。

(トーブ)を掴んでいた手にも力が入らず、身体を預ける。

窒息する前に唇を離されたが、頬にも口付けられた。


「や…へい、か」


「俺は…」


ぼそっと呟くと、唐突にアリソンの肩を壁に押し付け、寝室を出ていった。

アリソンは支えがなくなり、壁伝いにずるずるとしゃがみこんでいった。


強引なキスに、力強く抱き寄せられた広い腕。熱い眼差し。


そのどれもがアリソンを落ち着かなくさせ、自分が保てなくなる恐怖を感じた。

アリソンは自分の身体を抱き締め、しばらく嗚咽を噛み締めていた。




◇◇◇




俺は、一体なにをした―――?


王妃に無理矢理口づけをして、泣かせ…。きっと嫌われただろう。

だが、王妃から出る義弟の名に無性に腹がたち、その結果これだ。

最近の俺はおかしい。王妃のことになると、自分が自分じゃなくなる気がする。

王妃と会うと、込み上げてくるものがある。

この感情はなんだ――?


経験したことのない感情に、ラビは戸惑った。

ただ、独占欲があるのは認める。


誰にも触れさせたくない。奪われたくない。これは俺の女だ。と。


「っ…」


狂おしいほどの感情に、どうすれば楽になれるのか。解放されるのか。

まだラビは分からなかった。




◇◇◇




寝室の隣室が夫の執務室なので、アリソンは出ていくことにためらったが、執務室には夫はいなかった。

アリソンはほっとして、執務室を出る。

そのまま真っ直ぐに自分の部屋へ戻ると、アリシアが待機してくれていた。


「アリソン様!どちらへ参っていたのですか!?私…アリソン様?」


泣き腫らした目元に気づいたのだろう。

アリシアは近づいてくると、アリソンの顔を覗き込んでくる。


「アリソン様?何かございました…か」


アリシアが言い終わる前に、アリソンが抱きついたのでアリシアの言葉が中途半端になる。

アリソンが静かに嗚咽をこらえているので、アリシアもまたそうっと抱き締めた。







「ごめんなさい。アリシア」


アリソンは自信のベッドで、アリシアが入れてくれたお茶を飲んでいた。


「いいえ。落ち着きましたか?」

「ええ…」


お茶の入った器を膝の上に置いて、気まずそうにアリソンは俯く。


「アリシア…。私、自分の気持ちが分からなくなってきたの」

「どういうことでしょうか?」

「陛下に口づけをされて、驚いたけれど嫌な気持ちはなかったの。変よね。陛下のこと嫌いだったのに」

「アリソン様」

「私、陛下のことを嫌いなのかな。よく分からない」

「…。では、陛下がウルスラ様と一緒にいるところを想像してみてください」

「ウルスラ様?……嫌だわ」

「もう答えは出ていますよ。アリソン様」

「え…」

「陛下が他の女性といると、嫌な気持ちになるのは嫉妬です。でも、それは当たり前の感情です。ですから、何も変なことではありませんよ」

「…アリシア」

「それに、陛下だってきっとアリソン様のことを意識してらっしゃいます。だって、ジャバード殿下と一緒にいるだけで、殿下を射殺しそうな目をしてらっしゃいます」

「あ、アリシア!」

「まだまだございます。陛下がアリソン様に口づけをしたのだって、殿下に嫉妬したからです。妻が他の男性と一緒にいるのも嫌なんです。王なんだから、もう少し寛容になってもいいと思うんですけどね」


アリシアは淡々と説明してくれるが、アリソンは頭から湯気が出そうなくらい恥ずかしかった。


私たち夫婦は、まだやり直せるだろうか。

もう遅くないだろうか。


そうアリシアに問いただそうとしたけれど、答えは分かっている気がして。

アリソンは、口元に優しい弧を描いた。








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