表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラブの王と王妃  作者: 雪見だいふく
12/30

亀裂

陛下にキスをされてから一週間、変化したことがある。

それは、陛下との公務が今までよりも多くなった。

今まで王妃だけでも良かった公務に、陛下も一緒にと報告され行っている。


今日はジャバードが話したいことがあるらしく、アリシアを連れて、アリソンは夫の執務室をノックする。


「入れ」

「失礼致します」


執務室には、夫とジャバード、側近のニケがいた。

ジャバードが自分の座っている隣を指差し、おいでと手招きをする。

アリソンは迷うが、すかさず夫が立ち上がり、目の前にやって来るとアリソンの手首を掴み、引っ張られる。

ぐいっと引っ張られ、前のめりになりながらも夫と並んで座った。


(強引すぎます。陛下)


ニケが目を細めて、陛下に訴える。

陛下はわざと知らんぷりをした。


「兄さん。そんなガチコチに守らなくったって、アリソンを奪いやしないよ。……まあ、分かんないけど」

「……」

「ジャ、ジャバード」


ジャバードの挑発に、夫は睨み付け本気なのか冗談なのか分からず、アリソンはなだめるしかなかった。






「では、始めましょうか。殿下の望みはなんですか?」


ニケの声で話し合いが始まる。


「ああ。俺は王室を捨てたはぐれもんだからな、兄さんに頼み事をするのは正直申し訳ないんだが、まず、オアシスを壊す計画をなしにしてくれ」


ジャバードは真剣に話し始める。

先程のにやにやと笑っていたのが、嘘のようだ。


「…何故?」

「砂漠をこれ以上なくさないでくれ。俺たちは砂漠を旅することが、何よりも生きがいなんだ。これ以上、町を建てたら砂漠がなくなる」

「砂漠は広い。それに近年は観光客や移住民が多くなってきている。彼らに住み心地のよい環境を与えるのは、王として当然のことだ」

「俺たちのことも考えてくれ。俺にも仲間がいる。あいつらを路頭に迷わせたくないんだ」

「俺には何百万人もの人々の生活がかかっている。少人数の方を優先することはできないんだ」

「人の命の重さはみんな一緒だろ?多勢のほうだけ考えるなんて、そんなのおかしい」


兄弟が口論をし始め、アリソンはおろおろする。

ニケは、平然と二人の言っていることをメモしているし、アリシアは苦笑いだ。

アリソンがどうしようと思っていると、ジャバードがガタンと音をたてて立ち上がった。

眉間には深いシワが寄せられている。


「…ようく分かった。あんたは民のことはよく考えているが、身内には冷たいんだな。まあ、昔からそうだったよ、あんたは」


吐き捨てるように、ジャバードは言いドスドスと足音をたてながら出ていこうとする。


「あ…。ま、待ってください!」


アリソンが慌てて引き止めると、ジャバードは一瞬ピタッと止まったが、振りきるように大股で出ていった。


パタンと閉まった扉に、アリソンは居てもたってもいられず立ち上がろうとしたが、腕を掴まれる。


「どこへ行く。あいつを追いかけるのか?」

「そうです」

「放っておけばいい。頭を冷やしてからまた来るだろう」

「また同じように口論になるのが目に見えています。陛下の言うことも最もですが、ジャバードの言うことも考えてあげてください」

「無駄だ。あいつの言っていることは自己満足に過ぎない」

「そんなことありません。オアシスは誰が見ても素晴らしいと言うはずです」

「それに何の利益がある?あいつの自己満足で国を潰すわけにはいかないんだ」

「利益があるとかの問題ではありません!」


アリソンが思わず、語尾を強めると夫は驚いたが、すぐに無表情になった。


「もういい。あいつのとこでもどこでも行け。勝手にしろ」


夫は疲れたかのようにはあっとため息をはくと、腕を離され、顔を背けられた。

アリソンの胸がつきんと痛むが、下唇を噛みながら失礼致しますと言い、退出する。

アリシアも慌てて、ペコリと頭を下げてから退出していった。




◇◇◇





「まあた、やってしまいましたね。どうして、あなた様はそんなに不器用なんでしょうか?」

「……五月蝿(うるさ)い」

「あーあ、こんな不器用な主を持って、私は苦労もんですよ」

「五月蝿いと言っているだろう」

「はいはい。ところで、追わなくていいので?殿下だけではなく、王妃様にも逃げられますよ?」

「……」

「あなた様も頭を冷やしたほうが良さそうですね。お飲み物をお持ち致します」


五月蝿いニケが退出すると、ラビはソファに深く身を沈ませた。


(疲れた…)


片手で目元を覆い、しばし暗闇に落ち着かせた。


何故、こうなる――?

俺が間違っているのか――。


自己嫌悪に陥っていって、ラビはふと癒されたいと思った。

こんな時、結婚前は女性のところへ行き、慰めてもらったが結婚してからはない。

もう他の女性の顔が浮かばない。


たった一人しか――――――――



(馬鹿か。俺は。その一人に求めても拒絶されるだけだ。もう嫌がられるのはごめんだな)


どうしようもなく発散できない欲望と戦っている主に、ニケはこっそりと扉の隙間から見て、ふむと頭を捻るのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ