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アラブの王と王妃  作者: 雪見だいふく
11/30

やっと気づいた気持ち

一瞬、何が起こったのか分からなかった――――


ただ唇に温かい感触がして。

指一本動かせれなくて。


視線の先には、夫がぼやけて見えて、ようやく事態が分かってきたと思ったら、唇を軽く(ついば)まれた。


「……っや」


アリソンは片手で夫の胸を押してもう片手で唇を覆い、一歩後ずさった。

恥ずかしさから涙もあふれんばかりに潤み、顔を背ける。


「…あ……」


背後から夫が小さく声をもらした。

アリソンがびくっとすると、身体を背けていたため伸ばされていた手がぴくっと動き、静かに下ろされたのに気づかなかった。


(私の初めてのキス…)


こんなムードもへったくれもない雰囲気でされたことに、アリソンは怒りたくなった。

初めてのキスはもっと…穏やかで、優しくて、むずがゆくて…。そんな想像を浮かべていたのに。

なのに、いきなりで少し強引なキスで思っていたのと違い、涙でいっぱいの瞳で夫を睨む。


「っ出ていってください!早く!」


夫はたじろぎ、アリソンの言葉に戸惑っているようだった。

アリソンはそんな夫に、待てないとばかりに駆け出した。


「陛下が出ていかないのなら、私が出ていきます!」


猛スピードで出ていった王妃に、ポツンと一人残されたラビは為すすべもなかった。




「アリシアー!」

「! 王妃様!?」


バンっと大きな音をたてながら入室してきた王妃に、ベッドメイキングをしていたアリシアは驚く。


「私、今夜からここで夜を過ごす。もう陛下といません」

「ど、どうされたのですか、王妃様。陛下に何かされましたか?」

「キ…」

「き?」

「キスされた…」

「え?キスまだだったのですか?」

「……」

「……」








「恥ずかしい…」

「いえ、私も言い過ぎました。申し訳ございません」

「ううん、き、気にしていないよ」

「…気にしていますよね」


アリソンは、アリシアと一緒のベッドに寝ていた。

王妃のベッドとは違い、広さが半分ぐらいになったので密着状態だ。

でも窮屈とは感じず、むしろ温かく心地よい。

うふふとアリソンが幸せそうに笑うと、アリシアは頭にはてなを浮かべた。


「ふふ…。こうして人と一緒に寝るの子供のとき以来だなあって」

「そうなんですか」

「うん。陛下とまだ一緒に寝たことないもの」

「…王妃様」

「ね、王妃様じゃなくて、アリソンって呼んで?」

「! …承知致しました」

「うん、あと押し掛けてごめんなさい。ゆっくり寝たいはずなのに」

「いいえ、とんでもないです。私も人肌恋しかったのです。それに王…アリソン様とご一緒に寝ることができるなんて、光栄です」

「アリシア…。色々と迷惑かけてるけど、これからもよろしくね」

「アリソン様、迷惑なんてとんでもございません。むしろ、アリソン様の側近をさせて頂き、色々と学ばせて頂いています」

「アリシア…。ありがとう!」


アリソンはアリシアに抱きつき、アリシアも抱き締め返してくれた。

いつの間にか二人でお話ししながら、寝落ちしてアリソンは幸せだった。




◇◇◇




「やってしまった…」

「何がです?」


ラビが自室のソファで頭を抱えていると、側近のニケが飲み物を運んできた。

事情を話すと、器がラビの目の前に置かれるが、ラビは飲む気にはならなかった。


「どうしました?あなた様のお好きなスープですよ」

「違う…。いや、違わないが…」

「王妃様のスープが飲めなかったから、お作り差し上げましたのに、飲んでくださらないのですか?」

「…いや、飲もう」


しかし、一口飲んだだけでラビは器を置く。


「…自業自得です。嫌われている者にいきなり接吻されたら、誰だって嫌に決まっています」


ガンっと頭に岩が落ちてきたように感じて、ラビは益々落ち込む。

ニケはさらに追い込んだ。


「それに、陛下は王妃様を(ないがし)ろにしすぎました」

「え」

「初夜に他の女に子供を産んでもらう発言は、終わっていますね」

「う」

「さらに侍女に毒をもられたということを信じ、それを確認しないままに王妃様を責めるなんて。もう男としてダメです」

「ぐ」

「ジャバード殿下に王妃様の名を呼ばれて嫉妬を(あらわ)にするなんて…。一国の王として心が狭すぎます。きもがられます。離婚です」

「……」


本気で落ち込み、何も発さなくなった王を見て、ニケははあっとため息をはく。


「何です?最初はどうでもいいと言っていたのに、今になって魅了されましたか?」

「……」

「私からみても王妃様は魅力的です。殿下だって、他の男性も王妃様のことはあなた様より先に、分かっていましたよ」

「……知っている」

「おや、ようやくですか?一生冷えた夫婦を見なければと思うと憂鬱でしたが、ようやくですか?」

「…何度も言うな。俺だって、最近のことじゃない」

「……」


陛下は疲れたかのような表情を浮かべていたのに、今は瞳に強い意志が宿っている。

まるで、独占欲が芽生えたかのような―――


ニケは、普段笑わない口角を少し上げた。


「そうですか。それは大いに結構。早く王子か王女を抱かせてくださいね」

「ばっ!…………努力する」


真っ赤になる陛下にニケは、くすくすと笑うのだった。

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