表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第四話「出会い」

 モンスターに鋭い斬撃を入れ、後方に視線を移すと黒髪の綺麗な

ロングヘアを後ろで束ねているアサシンが苦無と短刀でモンスターと

激闘を繰り広げている。

 眼の前で苦戦しているアサシンの姿を確認して、灰塵の碧きエゴイスト

ことユメは、少し心配した顔で見守っていた。


 少し、手助けをした方が良いのだろうかとも思ったが、まだ敵からの

クリーンヒットを受けていないことから、しばらく観戦することにした。


 それに、相手はWorld Of Magic Sword(W. O. M. S.)初心者が

戦闘訓練するには丁度良いLV.3の猪型モンスターだ。

 攻撃も単調な突進しかしてこないため相手の攻撃パターンとタイミング

さえつかめば避けることは決して難しくない。


 もちろん、いつでも助太刀出来るように鞘から抜いた魔剣ウンディーネ

の加護は片手の中にある。


 しかし、先ほどからのアサシンの苦無による投てき攻撃は、モンスターの

顔面に当たっているが突き刺さることなく弾かれていた。

 地面には、苦無がいくつも散乱している。


 (少し、レクチャーが必要ね。)


 ユメは、剣を持っていない方の広げた手の平を口に近づけアサシンに

呼びかける。


 「落ち着いて!ちゃんとスキルを発動させないと攻撃力が足りないよ。」

 「ふぇっ!スキル!?そんなのどうやって使えばいいんですか?。」

  薄っすら涙を浮かべ、必死に猪の突進を避けながら鼻声で叫ぶ

  アサシン。

 「苦無を投げる体勢のまま少し我慢して!スキルが発動したら光の

  エフェクトが現れるわ。その後に投げれば、あとは勝手に当たる

  から。」

 「そんな…。突進してくるモンスターの前で構えるなんて怖くて

  出来ませんよ。」

 「じゃ、最初に猪が突進してきたのを避けてから構えてみて。

  大丈夫!一度攻撃を避けられた相手は、少しの間動きが止まるから。」

 「…分かりました。やってみます!」


 アサシン、手の甲で目を擦り軽く頷くとモンスターに意識を集中する。


 モンスターは、ちょうど次の突進に備え少女の方へ体勢を向けて地面を

前足で繰り返し蹴っている最中だった。

 獲物を狙う目は鋭く鼻息は荒い。

 短いが鋭く前に尖った太めの牙が太陽の光を反射して輝いていた。

 アサシンとモンスターの目が合った瞬間、猛突な攻撃が少女を目がけて

迫ってきた。


 アサシンは、軽快なフットワークで少し横に避けるとモンスターに

苦無を構えたまま体勢を維持する。

 すると、苦無を中心に構えた手が青白い強い光を放ち始める。


 「今よ!当てたい箇所に意識を集中して投げて。」


 ユメが叫ぶと同時にアサシンの手から青白い光をまとった苦無が

放てられる。


 苦無は、流れ星のように青白い光の軌跡の残像を残しながら、光速で

一直線にモンスターへ突き進む。


「ヒッィイイイ―――!」


 甲高く長い最後の鳴き声の後、地面へ倒れるモンスターの眉間には、

光束で放たれた苦無が深々と突き刺さっていた。


 横に倒れたモンスターは、無数の虹色のポリゴンに爆散して消えて

いった。

 すると、ユメとアサシンの耳元でファンファーレが鳴り響くと、

アサシンのLV.がLV.6へランクアップしたことを知らせる半透明の

ウィンドウが表示されていた。


 「初勝利とレベルアップおめでとう、シオンちゃん。」


 魔剣を鞘に納め、大きなVサインをしながらアサシンプレイヤーこと

シオンに近寄ってくるユメ。


 「ありがとうございます!お陰様で戦闘のコツをつかむのと必要素材

  アイテムの採取が間に合いそうです。」


 シオンは、W. O. M. S.だけでなくVRMMORPGで初めてモンスターと

戦闘して勝利したことに心の底から喜んでいた。


 初めての本格的な戦闘は、恐怖と戸惑の感情があったがモンスターを

退治したことにより達成感と未だ鳴り止まない胸のトキメキを感じていた。


 まだ、LV.5だったシオンと灰塵の碧きエゴイストの二つ名で多くの

プレイヤーに知られLV.90の前線組みとして活躍しているユメが

パーティを組むことになったのは、二時間前に遡る。


 シオンが初めてのVRMMORPGとして老舗で未だ圧倒的な人気タイトルで

あるW. O. M. S.の世界に来て、右も左も良く分からずにいたとき。

 始まりの城塞都市スクルドのギルド会館ホールのパーティ募集が張り出され

ている掲示板前でのことであった。


 W. O. M. S.では、初めてゲームを開始した際に基本的な操作方法と

武器屋や魔法店といった各町に立ち寄った際に重要な要所についての

チュートリアルがある。

 そして、チュートリアルの締めくくりとしてパーティ推奨クエスト

「手作りマジックバックを作成せよ!」に挑まなければならない。


 マジックバックとは、冒険する際に様々なアイテムやモンスターを

退治した際に一定の確率で手に入るドロップアイテムを持ち運ぶことが

出来るバックである。

 見た目は、少し大きめのショルダーバックだが見た目に反して最大

400kgまで収納可能であり、魔術によって重さを軽減出来るため

冒険者にとっての必須アイテムであった。


 マジックバックを作成するのには、素材アイテムである

「猪のなめし革」と「硬い甲殻」を必要数集めて町にある鍛冶屋の

NPCにお金と素材アイテムを渡すと作成してくれる。


 素材アイテムは、悠久の大草原で出現する猪がたモンスター

「猛突リトル猪」と緑色の甲虫を大きくしたような甲虫モンスターの

「グリーン・ビートル」から手に入る。


 モンスターLV.3と低く初心者が戦闘訓練するには、ちょうど良い。

 しかし、モンスターは、集団で行動することが多いため装備が整って

いない初心者にとってソロでの退治は決して楽ではない。


 そのために、シオンは自分と同じ境遇で「手作りマジックバックを

作成せよ!」のためにパーティを募集している女性プレイヤーがいないか

確認するためにギルドホールの掲示板前にいたのであった。


 ただし、VRMMORPGにおいて女性プレイヤーが男性割合に対して珍しい

ため、同じ初心者の女性プレイヤーが都合よく簡単に見つかるはずもなく

掲示板前で途方に暮れていたときのことであった。


(どうしよう…。初めてのパーティと男の人と組むのは、怖いし。

 やっぱり、女の 人がパーティ募集するまで待つしかないのかな。)


 シオンが考え込んでいると突然背後から肩に手を置かれた感触に驚き

振りかえる。

 

 見ると、ほどよく茶色に全身が日焼けしたスキンヘッドで黒縁の

サングラスに口ひげを生やし、服装は野戦服に漆黒のプレートを

装備した巨漢な男が立っていた。


 シオンが男の姿に涙目で少し怯えていると、男は整った白い歯を

のぞかせた笑顔でイメージぴったりのワイルドボイスな声で話し

かけてきた。


 「ハロー、お嬢ちゃん。驚かしてしまってすまない。ずっと掲示板前で

  悩んでいる様だが何か困りごとかい?」

 「あっ…ゴメンなさい!わた…し、じゃまで・・したか。…えぐぅ…ぐぅ…。」


 シオンは、鼻声で頭を下げて謝罪の言葉を男に言う。

 シオンに頭を下げさせたのは、謝罪の意味よりも男と目を合わすのが

怖いという恐怖心からだった。


 そんな、肩を震えさせながら怯えた少女を見た男の内心は、女の子を

泣かせた罪悪と焦りだった。


 「おい。そんな泣くことないだろう。何も危害を加えるつもりはない。

  頼むから、泣くのをやめてくれ。」


 男は、両手を広げ渾身の笑顔で危害を加えないという意思を少女に

訴えかけていた。

 

 その姿を見てシオンは、両手の手の甲で涙をぬぐってから、恐る恐る

男に顔を向けていた。


 (なぜ…。自分は、ただ掲示板を見ていただけなのに急に話しかけて

  くるなんて。)


 女子高育ちで、兄や弟もいない一人っ子のシオンにとって傭兵風な

巨漢の男が話しかけてくるのは恐怖でしかなかった。


 「…泣いて・・すみません。あの…あなたは、誰ですか?」

 「すまない。そう言えばまだ名のってなかったな。俺は、

  ファルコン!ギルド、ユグドラシルのギルドマスターをしている

  モンだ。」


 再び、サングラスと白い歯を輝かせながら満面の笑みを浮かべて

答えるファルコン。


 ギルド、ユグドラシルはW. O. M. S.がリリースされた頃から

創設された主に魔剣やレアアイテムを求めて冒険を繰り広げてきた。


 そのため、自然とギルドメンバーの平均LV.も高く参加者数も順調に

増やしてきた経緯がある。現在の規模と戦力は、加盟している連合軍

円卓騎士団の中で常にTOP3を争っている大手実力ギルドに成長して

いた。

 ファルコンは、ユグドラシルの3代目ギルドマスターであった。

それ故に、知名度は高い。


 「ファルコンさん…。わたしは、シオンです。わたしに何のご用ですか?」

 「そんな気構えなくていいさ。あんた、新人さんだろう?掲示板前で

  悩んでいたから気になったのさ。困りごとなら相談にのるぜ。」

 「は…い。最近始めたばかりで、まだ1ヶ月です。掲示板には、

  マジックバックの素材を集めるためにパーティを探していました…。」

 「ほぅ…。それで、良さそうなパーティは見つかりそうなのか?」

 「いえ、まだ初心者の女性パーティを探しているんですが、掲示板に

  募集はありませんでした…。」


 どこか、暗いシオンの顔を見ながらもファルコンは内心では、それは

運が必要だと感じていた。


 女性プレイヤー人口が少ないVRMMORPGで同じ時期に初心者として

始めるプレイヤーを見つけるのは面倒だ。

 しかも、運よく見つかったとしても性格などの個人の問題などで

上手くパーティを組めるとは限らない。


 そんな、VRMMORPGについて知り尽くしているベテランプレイヤーの

ファルコンは、再び満面の笑みで両手を広げる。


 「そいつは、なかなか面倒だ。どうだろう、君さえ良ければ俺たちの

  ギルド、ユグドラシルに参加してみないか?うちには、大手ギルド

  故にベテランからLV.がまだそんなに高くない女性プレイヤーも

  いる。君ならきっと仲良くやっていけると思うが。」

 「それは…。」


 シオンは、目を男になるべく合わさないように左右に動かしながら

考えていた。


 (きっと、ファルコンさんのギルドに入れば何不自由なく冒険が

  出来るのかもしれない。でも、人見知りのわたしが男性の多い

  集団に入って上手くやっていく自信がない。)


 シオンが再び下を向いて黙り込んでしまった姿を見ていたファルコン

も考えていた。


 是非、シオンというこの初心者女性プレイヤーをユグドラシルに

加入してもらいたいと。

 理由は、W. O. M. S.でも数少ない女性プレイヤーに多く参加して

もらうことでギルドとしての活動範囲も幅広くなる。

 また、今所属してくれている女性プレイヤーが何らかの理由で

脱退した後にすぐ補充出来るとは限らない。

 そのために小さいチャンスを逃したくないという思いがあった。

自分には歴史あるユグドラシルのギルドマスターとしての責任があるの

だから。


 そんな、思いを巡らせていたとき、後ろから大きな女性プレイヤーの

声が聞こえてきた。

 

 「ああぁあ~、ファルコン!何、女の子をいじめてるのよ!!」


 ファルコンが慌てて振り向くと、そこにはユメが般若の顔でファルコン

に迫っていた。

 

 (また、ややこしいのが来やがった。)


 ファルコンは、内心で思いつつも決して顔には出さずポーカーフェイス

で表情を変えない。


 「何を人聞きの悪いことを言っているのだ、お前は。俺は、そこの

  迷えるお嬢ちゃんの相談になっているだけで脅したり、いじめている

  訳ではない。」


 ファルコンが答えるとユメは、シオンとファルコンを交互に見る。

 シオンは、急に現れたユメの顔を見つめていた。


 「じゃ、何でこの子は暗い顔しているのよ。どうせ、珍しい初心者の

  女性プレイヤーを自分のギルドに無理にでも引き入れようと思って

  たんじゃないの?あなたの顔は、女の子にとって怖いってこと、

  いい加減自覚した方がいいわよ。…いいわ、ルリ姉に言いつけて

  やるんだから。」


 ユメが不敵な笑みを浮かべながらそう言うとファルコンが顔面蒼白に

なった顔に脂汗を流していた。


 「まて!誤解だ。俺は、如何わしいことは何もしていない。頼む、

  ルリに変なことを言わないでくれ。お嬢ちゃん、君からも何か

  言ってやってくれ。俺は無実だと。」


 急に話しを振られたシオンは、話の流れについていけず混乱した

頭で答える。


 「わた・・しは、パーティを探しに掲示板の前にいたらファルコンさん

  に声をかけられて。…そしたら、ギルドに入らないかって、誘われて、

  …ひっぐ…ぐっ…うぅ。」

 「おい!何で、そこで泣く。オカシイダロウ!」


 ファルコンが慌ててフォローする。シオンのそばに歩み寄ったユメは、

ハンカチを取り出しシオンの涙をぬぐうと深海のごとく黒く冷たい

視線をファルコンに向けていた。

 その目には、明確な死刑宣告を語っている。

 もはや、ファルコンに余裕はなく、両手の手の平を上に向け指先を

震わせながらただただ叫んでいた。


 「俺は無実だぁー――!」


 そんあ、絶叫しているファルコを無視してユメは、シオンにパーティを

探していた理由を聞いていた。

クエスト「手作りマジックバックを作成せよ!」の素材集めでパーティが

必要だということを。


 「なるほどね。だいたいの事情は分かったわ。それで、どうする

  つもりなの?ユグドラシルに加入して素材集めする?あそこは、

  ギルドマスターは変態だけど、確かに女性メンバーも優秀で

  わたしもお勧めね!」

 「俺は、変態じゃない!誤解しているぞ、お前。」

 「あんたは、黙ってなさい。このロリコン!」

 「ぐぐッ…、クっ。」


 少し、涙目になりながらユメと言い争っているファルコンの姿を

見ていたシオンが肩を震わせて。


 「ぷっ、くくっく…、あっははははぁ。」


 泣き顔が一変、笑い顔になっていた。


 「御免なさい…。二人の会話を聞いていると可笑しくて。えっ…と、

  わたしはファルコンさんのギルドには入れません。もう少し、

  この世界のことを知ってからギルドを選んでみたいから。

  生意気かもしれませんが…。」

 「何も、束縛するつもりはない。気に入らなければ遠慮なく途中から

  抜けてもらっていい。だからこそ、何も知識がない最初だけでもうち

  のギルドに入ってもいいんじゃないか?」

 「そうかもしれません。でも、やっぱりまだ大人数の集団に参加する

  のには…。」


 しばし、辺りのギルドホールを訪れる客達の会話と足音の中、会話が

止まった。

 

 「じゃ、わたしとパーティ組む?」

 「えっ?」

 「はぁっ、お前、何言って…。」


 突如の、ユメの提案に一同が驚きの声をあげる。

 シオンは、大きく目を開きユメの顔を見ている。

 ファルコンは、開いた口が塞がらないと言わんばかりの顔をしている。

 

 「だって、わたしも女の子なんだし、ちょうどいいでしょう。

  それに今日は天気良いから久々に散歩したいと思っていた

  ところなの。」

 「女の子って…。それにしても、お前たちじゃ、レベル差が

  あり過ぎるだろう。ここは、やっぱり俺達ユグドラシルが

  責任をもってだな。」

 「いいのよ、今回は。素材集め兼、戦闘指南ってことで。

  それにレベル差は、時間と努力が解決してくれるわ。もっとも、

  あなたが良ければの話だけど。」

 「そんな…。こっちらこそ、よろしくお願いします。わたしはシオン

  です。一生懸命頑張ります!」

 「シオンちゃんね。わたしはユメよ。よろしくね!」

 

 こうして、ユメとシオンはパーティとして悠久の大草原へ向かうことに

なったのである。


 ユメにシオンを取られたファルコンが、槍聖ルリにエゴイスト・パティ

のギルドハウスへ呼び出されたのは、このわずか60分後の出来事で

あった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ