第二話「交渉」~顔合わせ~
過去に秘密結社「ヘイムスクリングラ研究会(The Society For Heimskringla Researches )」に所属する殺人ギルド「ウロボロス(Uroboros)」の集団を解散に導いたことで瞬く間に知名度を高めたユメは、悠久の大草原にいる。
そして、近くでモンスターと戦闘をしている新たな仲間の女性アサシンプレイヤーの姿を見て、自分のギルドを創設したときのことを思い出していた。
それは、当時話題性NO.1のユメが様々な団体から勧誘を受けていたときのことであった。
W. O. M. S.では、複数のギルドが集合した大連合・結社システムが採用されている。
現在、このシステムによって結成されている連合は3つである。
主にPKもしくは他プレイヤーの活動を妨害しながら、自分たちが所属する集団と個人の利益を最大限に追求するギルド集団を「秘密結社(Secret Society)」。
その名を「ヘイムスクリングラ研究会」。
そして、結社に対抗してPK集団からプレイヤーを守り、自由に冒険や生産活動といった環境やサービスを提供することで、個人とギルドの強化を目的とするギルド集団を「連合軍(Allied forces)」。
その名を「円卓騎士団(Knights Of The Round Table)」
最後に、結社にも円卓騎士団にも加わらない中立の立場のギルド集団を「オーブ連合(United Of Orb)」として分けられていた。
W. O. M. S.は、大きく三層に分割された構造となっており神族の住む天上を第一界、人属や亜人族と一部の魔族が住む地上を第二界、主に魔族と天上から追放された神族が住む地下を第三界と呼んでいる。
各層でさらに海や川、山岳、砂漠といった広大なフィールドを形成している。
結社は、W.M.S第三界にある死者の国ヘルヘイム(Helheim)領の死都「ブランジュ(Branges)」に本拠点を置くエルダーリッチ、魔物といった魔術に長けた高LV.プレイヤーが多く所属している。
また、個人が必ず最低一つの魔剣レベルⅣ以上の装備をしているだけではなく、高レベルモンスターを使役しているため個人の能力は一般的なプレイヤーを大きく上回る実力を持っていた。
そのため、所属数が三大ギルドの内で最も少ないが広大な範囲の支配地を有しているのであった。
対する円卓騎士団は、始まりの城塞都市スクルドに本拠点を置いている。
プレイヤーは、剣士を代表とする人間族からエルフ族、少数ではあるがエルダーリッチといった様々なキャラクターが混在しており、プレイヤーLV.も初心者からハイランカーまで幅広い。
所属数が3大連合(秘密結社・連合軍・オーブ連合)のうち最も多い。
最後に中立のオーブ連合は、本拠点を円卓騎士団と同じくスクルドにあるが、ギルド会館の大フロアーの一つを各ギルドが協力して維持、管理している。
ただし、平常時は定期的な連絡会を開催しているだけで連合の体裁を保っておらず、各ギルドが様々な都市で自由な活動をしている。
有事の際に各ギルドの代表がギルド会館に集まり、オーブ連合として統制を行うのであった。
特に3大連合で結社と円卓騎士団は、対照的な行動目的からしばしば大規模な戦争と呼ばれる互いの占領都市や領土を巡りプレイヤー同士の激しい組織的な戦闘が繰り返されている。
この戦争状態は、現実世界で一か月かけて行われる大型イベントで、プレイヤーにとって自分が育てたキャラクターの力量が試される絶好の機会であり、プライドをかけたものであった。
内容としては、一ヵ月の間に、各都市やフィールドに設置した敵の砦を破壊することで相手の領土を奪っていくのである。
また、この期間に導入される特別クエストをクリアして占領ポイントや占領戦で有利なレアアイテムをゲットするといった戦略が重要なものとなっている。
こうした2大勢力の結社と連合軍の対立によりW. O. M. S.の領土の多くが占領されている。
そんな2大勢力で世界のパワーバランスが成り立っていたところに、新たに規格外の伝説をつくるユメが後にギルド「エゴイスト・パーティ(Egoistic Party)を創設したのであった。
エゴイスト・パーティが出来た当初、結社と円卓騎士団はユメに自分たちの集団に所属するように幹部の椅子やレアアイテムの提供、一部狩場の優先権といった破格の条件で交渉を求めたのであった。
また、オーブ連合も最近の結社と円卓騎士団による領土の占領により、自分たちの活動範囲が制限されてきたことを理由にエゴイスト・パーティを自分たちの猟兵部隊として雇い入れたいと要望してきたのであった。
こうした、3大勢力の各代表者とエゴイスト・パーティのギルドマスターことユメが始まりの都市スクルドのギルド会館にある会議室で交渉の席を設けることとなった。
秘密結社「ヘイムスクリングラ研究会」の代表は、エルダーリッチLV.90の「ヘイト(Hate)」と付き人兼護衛の女性ヴァンパイアLV.90の「アスワン(Aswang)」である。
二つ名「死の賢者」と呼ばれるヘイトの外見は、頭にヤギの太く鋭い二本の角を生やしている。
また、肩幅が広い男性の太い骨格を思わせる人骨で全身が構成されている。
装備は、光沢のある漆黒のローブで縁に金糸で刺繍された魔術を秘めたレアアイテムを頭から全身を覆いかぶっている。
指には、大きな宝石のサファイア、エメラルド、ルビーの指輪を両手に装着している。
首からは、これも魔術を秘めた漆黒のオーラが微かに渦巻いていて見る者の目を奪う魅力を感じさせる宝石でできたネックレスを下げている。
靴は、漆黒の皮でできた足先が尖ったブーツであった。
メイン武器は、魔剣LV.Ⅴの「死の秘宝(The Deathly Hallows)」と呼ばれる刀身にルーン文字を刻み、漆黒のオーブを宿す短剣であった。
柄は金と銀で装飾され鮮やかである。
二つ名を「暗黒の死を呼ぶ賢者」と呼ばれるオリジナルである。
後ろで控えるアスワンは、二つ名「純潔のヴァンパイア」と呼ばれ、肌の血色は白いがきめ細やかな肌は美しく身長も174cmと高い。
また、モデルのような体系と輪郭が整った深みのある顔立ちに整えられたまつ毛がより美しさを引き立てているが、その目には冷酷さがあった。
服装は、黒色のワンピースの上に薄い淡い紫の布に縁が金糸で刺繍され、小さなルビー、サファイア、エメラルドが縁沿いに飾られているローブを頭から全身に覆いかぶさっている。
また、靴は焦げ茶色のブーツである。髪型は綺麗な艶のある黒上のロングヘアであった。
メイン武器は不明。
連合軍の「円卓騎士団」の代表は、団長の女性剣士LV.90の「ヘイゼル(Hazell)」と付き人で副団長(副官)の同じく女性剣士LV.90の「ユリコ(Yuriko)」である。
二つ名「剣聖」と呼ばれるヘイゼルの外見は、黒のインナーに深紅のプレートを装着している。
プレートの上から純白で中央に深紅で大きな十字架と縁が金色に刺繍されたマントを付けている。
髪は、金色に美しく輝くロングヘアを後ろで束ねている。
身長も高く175cmだろうか。
顔は細いがくっきりとした鼻と深みがあるえくぼが可愛らしい。
茶色のまつ毛で優しみがあるが、どこか芯のあるオーラを放っている。
メイン武器は女性プレイヤーには珍しく中央に赤の十字架が描かれた盾と中太の剣である。
これは、盾と剣でセットとなる魔剣LV.Ⅴの「ヴァルキュリアの加護(Divin Protection Of Valkyrie)」である。
二つ名を「英雄を導く賢者」と呼ばれていた。
付き人のユリコは、二つ名「疾風の剣士」と呼ばれるフェンサー(細剣)使いである。
装備は、団長ヘイゼルと同じく深紅のプレートと純白のマントを付けている。 ただし、マントの縁は銀糸で刺繍されていた。
体系はヘイゼルより少し小柄で身長170cmといったところか。
細身の体系で、顔も小ぶりで少し少女の幼さを残すが冷静で聡明な雰囲気である。
髪の毛とまつ毛は淡い青色でショートヘアであった。
メイン武器は、魔剣LV.Ⅴの「ワイバーンの加護(Divin Protection Of Wivern)」である。
二つ名を「風を導く賢者」と呼ばれる細剣は二刀一対の魔剣である。
全身を銀色に輝かせ、柄の縁に金で刺繍されている美しい剣であった。
刀身には金色のルーン文字が刻まれている。
そして、オーブ連合の代表は、男性エルフLV.90の「シーク(Sheik)」と付き人の女性エルフLV.65の「ルシファー(Lucifer)」である。
シークの二つ名は「長老」と呼ばれている。
装備は黒色のインナーに純白の鳶職がきるような幅広のズボンに紺色のマントを羽織っている。
髪は、淡い緑色のロングヘアである。
メイン武器は、魔剣LV.Ⅴの「バジリスクの加護(Divin Protection Of Basilisk)」と呼ばれる中太の剣である。
二つ名を「盲目の賢者」と呼ばれる剣は、銀色に輝く刀身に黒でルーン文字が装飾されており、柄には金の蛇の文様がある。
付き人のルシファーには、二つ名はない。
装備も商人のような軽装で薄ピンク色のワンピースに純白のスカーフをまとっている。
髪は林檎のように赤いロングヘアをしており、身長は165cmと小柄だ。
顔には幼さが残っており、少し怯えたような表情をしている。
メイン武器は魔剣LV.3の短剣を持っているだけであった。
オーブ連合が今回の交渉の場に参加したのには理由があった。
規模として大きくなり過ぎた円卓騎士団の一部のギルドが中立の立場を貫くオーブ連合に所属するプレイヤーの活動を妨害するようになったこと。
決め手となったのは、占領された都市で商品を販売したときの税金や都市を通行した時の通行税が値上がりし、自由な活動の妨げとなっていることであった。
最後に、エゴイスト・パーティはユメと、その背後にもう一人の女性エルフが立っていた。
名前は「ルリ(Ruri)」。
エゴイスト・パーティの数少ないギルドメンバーにして現実世界でユメの実の姉「瑠璃」である。
古流武術の宗家であり中道夢想流槍術師範代・中道心眼流弓術師範代を若くして受け継ぐ女性である。
二つ名は、「槍聖」と呼ばれる。
外見は、淡い青のロングヘアを後ろで束ねており、顔は整えられた青の眉毛で弁財天のような頬がふっくらとしているが決して太っている訳ではない優しい表情が絶えない。
身長は168cm程度と少し小柄である。
巫女のような純白の衣装と袴に朱色の刺繍で装飾された姿は欧州の女性が和服を着たような清潔感と品のある美しさがあった。
メイン武器は、魔剣LV.Ⅴの「ロンギヌスの槍(Holy Lance)」である。刀身は鈍い黒色で金による装飾がされている。
二つ名は、「神速の賢者」と呼ばれていた。
普段のルリは、サークル「白猫槍術の茶会」の代表をしている。
サークルとは、ギルド登録していないプレイヤー集団のことである。
ギルドより特典は劣るが、共通の趣味を楽しむ団体をつくるときに便利が良い。
ユリがエゴイスト・パーティを創設する際に必要人数を確保するために姉妹である姉「瑠璃」と妹「沙知絵」に協力を依頼したのだ。
今回交渉することを聞きつけたルリは、ユリの心配をし、わたしも連れて行かないとギルドを脱退するわよと泣き叫ぶので仕方なく同行してもらったのである。
もっとも、ユリも現実世界では中道無双改心流師範代のため実力は現実と仮想世界ともに折り紙付きなのだが。
こうした、豪華メンバーが一室に集まったところで、まさに今交渉が始まろうとしていた。