第一話「灰塵の碧きエゴイスト、スクルドに出現す!」
「エーイッ!」
World Of Magic Sword(W. O. M. S.)のとある草原で女性エルフ族プレイヤーの甲高く覇気がある声が響き渡る。
始まりの城塞都市スクルドの城門前からそれほど遠くない悠久の大草原で一人のエルフ族女性プレイヤーが短刀で優雅な動きで猛突してくる猪の外見をしたモンスターの攻撃をかわしながら、モンスターの横腹から急所に精確な一太刀を突き立てている。
急所に的確な攻撃をくらったモンスターはHPゲージを一気に削り取られ0になった後、無数の虹色に輝くポリゴンの破片となって爆散した。
余裕の表情でモンスターを倒したプレイヤーキャラクターの外見は、20代前半と若く、白地のインナーに淡い紺色のロングのガウチョパンツに茶色の幅太の皮ベルトを巻き、上着に淡黄緑色のシルクで出来たローブを羽織っている。
細いウエストのため豊富な胸元がより強調されたスタイルは身長も174cmと高く、モデルのような体系である。
指には、紺青色のサファイアの指輪とルビーの指輪をはめている。
首には、緑色のエメラルドを装飾したネックレスを下げている。
さらに、少しところどころ黒味かかった焦げ茶色の上品なビンテージな皮で出来た海賊がかぶる末広帽子は、淡く長い黄金色に輝くロングヘアをより一層に引き立てていた。
防具としては簡素な見た目だが、どれも魔術によって強化されているため同レベルのエルフ族の平均防御力値200から見てもかなり高い260である。
メイン武器は、短剣「ウンディーネの加護(Divin Protection Of Undine)、二つ名「拒絶と碧の賢者」」と呼ばれる魔剣ランクⅤ(ゲーム内メイン武器最高ランクⅤ)のワールド級レアアイテムである。
柄が金箔と深青色のサファイアで装飾されており、青緑の絹糸で巻かれた柄は握ったときに良く手に馴染む。
ルーン文字が刻まれた刀身は、ほのかに青白く輝いている。
見た目は、短剣のため小型であるが細かい装飾とレアアイテム素材が使用され、洗練されたデザインによって芸術の域に達しているため人の心を魅了するには十分過ぎる美しさがある。
仮に市場で売却しようならば、二つ名が付く最高ランクのレベルⅤで特殊なイベントで手に入るオリジナル武器ということもあり、そのプレミア価格になると1億を超えるのも珍しくない。
魔剣ウンディーネの加護は、今から5年前のW. O. M. S.リリース10年の記念イベントとして導入されたソロプレイ限定の難関特別クエスト「碧の賢者を継ぐ者」を最も早く攻略したプレイヤーに与えられる世界に一つしかない魔剣で通称「オリジナル」と呼ばれる類のものである。
そのため、見た目以上の魔力を秘め、プレイヤーの筋力、俊敏といった各パラメータを大幅に補完する以外の特殊能力が秘められていた。
補助武器は、幻想弓「アルフヘイムの守護者」である。ランクⅢ(ゲーム内補助武器最高ランクⅢ)のレアアイテムだ。
メイン武器以外には、オリジナルの設定はないために努力次第で誰でもレア度に関係なく同じアイテムを手に入れるチャンスがある。
ただし、ランクⅢとなれば同じ補助武器を持つプレイヤーと出くわす確率はかなり低い。
アルフヘイムの守護者を手に入れるのには、神木ユグドラシルの周囲に生息するLV.78のダークエルフ族MOB「ニブルヘイムに墜ちた精霊」を倒すと低確率で手に入るレアアイテム素材「ユグドラシルの折れ木」を集める必要がある。
しかも、このダークエルフ族は、剣技による攻撃と魔術攻撃がかなり高い。
また、集団で行動するだけでなく回復魔術を多用するために短期決戦が可能な火力を準備しなければならないためにトップランナーのプレイヤーと言え、ソロでの狩りはかなり面倒なのだ。
こうして苦労した末に集めた素材をエルフの国アルフヘイム領に住むNPC鍛冶屋「ヴォルンド(Voundr)」に渡すことで報酬として作成してくれるレアアイテムである。
形状は、螺旋状に細い枝が蛇のように太めの枝に巻き付いており、弓の両端から中央に近くなるにつれ太くなっている。
弓の長さは60cm程だが非常にしなやかで強度があるユグドラシルを素材にされているため、弓から放たれる矢の飛距離は、400mを超える。
最も、有効的なダメージを敵に与えることが出来るのは魔術の力が加わって300m程である。
女性プレイヤー数が男性と比較して圧倒的に少ないVRMMORPGの世界で、これだけ多くのレアアイテムで身を整えた女性プレイヤーは珍しい。
そんな彼女がW. O. M. S.の世界で突如として現れ名が知られるようになったのは、魔剣ウンディーネの加護を手にしたときと同じく今から5年前に遡る。
当時、W. O. M. S.の世界で無名の一般プレイヤーだった女性エルフ族が始まりの都市スクルドの中央時計台広場で突如として現れ、W.M.Sの全プレイヤーに宣戦布告を行ったのである。
「わたしは、エルフ族のユメ(Yume)。今日は、この世界(W. O. M. S.)の全プレイヤーに宣戦布告をしに来たわ。」
ユメと名のった女性プレイヤーが勝ち誇った顔で両手を腰にあてながら続ける。
「わたしは、この世界を心の底から愛している。そんな、わたしの世界を勝手なエゴイスト達が縄張り争いでつまらないものにした。だから、私もお返しにエゴイストとして私による私のためだけの世界をプロデュースすることにしたの!邪魔するヤツは、地獄の業火で焼き尽くしてやるわ。分かったかしら?とりあえず、今後の行きがけの駄賃としてこれは頂いとくわ。」
血色のいい唇から可愛らしい舌を少しお披露目しながら、己が顔の前に魔剣ウンディーネの加護を構え言い放った。
突然の女性プレイヤーの宣戦布告と、今期話題性NO.1でトップランナーのプレイヤーや大手ギルドが我先に手に入れようと模索している魔剣ウンディーネの加護を見せつけられたプレイヤー達は、驚きと混乱でしばらく立ち尽くしていたのであった。
エルフ族プレイヤーことユメは、このセンセーショナルなデビューの後、様々な伝説や逸話を後世に残す冒険を行った。
時には、100人規模のギルドで挑むレイドフロアを数十人程度の小集団で攻略した。
また、誰も成し得なかった最難関フィールドの一つ氷の国ニブルヘイムの地下迷宮最深部を攻略しただけでなく圧倒的な力を誇る女巨人「モーズグズ(Modgud)」と契約を結び自身の召喚守護者として従えたのだ。
そんな、誰もが望むレアアイテムを数多く手に入れ、W. O. M. S.の数多くの難関ダンジョンを制覇していたとき、秘密結社「ヘイムスクリングラ研究会(The Society For Heimskringla Researches )」に所属する殺人ギルド「ウロボロス(Uroboros)」の集団に幾度も襲われた時期があった。
しかし、迫りくる敵をことごとく返り討ちにしたユメは、殺人ギルド「ウロボロス」を解散へ追い込んだ伝説をつくったのであった。
そのあまりにも偉大な偉業と彼女が通り過ぎた後のダンジョンの成りの果ての姿から他プレイヤーは、尊敬と畏怖の念で彼女をこう呼ぶ。
「灰塵の碧きエゴイスト」
こうして、W. O. M. S.史上最強なソロプレイヤーが誕生したのであった。
始まりの城塞都市スクルド近郊の悠久の大草原でユメと仲間達による新たな伝説の物語の1ページ目が始まろうとしていた。