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プロローグ

 そよ風が顔のほほをなでた。そんな、優しく少し冷たい風に意識が覚めていくなか目の前が薄っすら白く、明るいことに気付く。

 少しまだ重たい瞼を開けると視界が白い光で覆われたため、無意識に小さな呻き声と同時に眉間に皺をつくりながら目を閉じてしまう。

 そして、自分が草原の中に生える数本の木が一つにまとまった大木の木陰で寝ていたことを思い出す。


 ここは見渡す限り辺り一面が青々しく少し長めに生えた草と、その間の所々に黄色や朱色、紺色の花が顔をのぞかせている大草原である。大分離れた遠くには、山頂に雪の帽子をかぶった高い山が薄っすらと見える。

 仮想世界の草原ではあるが眠りから覚めた目には現実世界の草原と思い込んでしまっても仕方がない程、風が吹く音、肌に当たったときの気候によって感じる温度、そして小鳥の鳴き声や川に水が流れる音色が現実世界と遜色が無い程再現されている。

 この草原は昼間に出現するモンスターのレベルも最高LV.3(ゲーム内の最高LV.90)と低く、イタチといった小動物や暗緑色の50cm程の甲虫のようなモンスター、猪型の中型動物モンスターが大半である。時々NPC(Non Player Character)が羊を放牧している姿が遠くに見える。

もっとも、夜間時間帯になるとLV.10の赤眼獣狼デッドアイ・ウルフが徘徊するので日が落ちた後でとても無防備で寝ることなど出来ないが。


 この仮想世界の舞台となる老舗VRMMORPGのWorld Of Magic Sword(W.O.M.S.)は、2030年頃に日本で初めて登場したVRMMORPGの中で圧倒的な広大なフィールドと自由度がプレイヤーの人気を集めたタイトルである。

 また、現実世界では、身体障害や重篤疾患、老いによる運動能力が低下した人でも仮想世界で自由に冒険や交易、武器・防具の生産系職業について商売や、仮想世界で購入した家で自由に手足を動かして余生を過ごすことが出来るといった仮想世界だから出来る要素を取り入れていた。

 さらに、簡易な日常会話なら自動的に英語・中国語・ハングル・日本語に翻訳出来るためコミュニケーションの垣根を低くし新規参加者の数を日々増やしていったのである。


 定期的に新規フィールドやモンスターの導入、そしてプレイヤーが使用できる魔術・剣技のスキルやキャラクターの拡張などを行うことで古参プレイヤーでも飽きずに楽しみ続ける工夫がされてきた。その甲斐もあり、2033年にリリースされてから12年間の永きに渡って世界を代表するVRMMORPGのトップリストに常に名を連ねてきた実績がある。

 プレイヤーがキャラクターとして選択出来るのは、侍・忍・剣士(人間族)、エルダーリッチ・魔物(アンデッド・魔族)、エルフ・ウォーリィアー(亜人族)である。


 W.O.M.S.は、世界中の神話や伝承からなる魔剣・妖刀を探し求め、より多くの魔剣・妖刀を所持した個人プレイヤーまたはギルドといった集団を定期的に運営が表彰し、通常では手に入らないレアアイテムを授与したりしている。

 そのため、ソロプレイヤーからギルド(プレイヤー集団)間での戦闘がかなりの頻度で発生するタイトルでもあった。

 また、キャラクターによって使用できる剣技・体術・魔術に大小の差があるだけでなく、使用できる装備や特殊アイテムの制限もある。故に、ある程度のキャラクターLV.まで成長し、装備などが充実していない初心者から中級者プレイヤーでは、キャラクターの相性次第で一方的な展開になる可能性が高いため大概のプレイヤーはパーティ(PT)もしくはギルドと呼ばれるプレイヤー団体に所属して活動している場合が多い。


 W.O.M.S.をプレイするに当たり、PCとオンラインネット環境、そして今や3世帯に一つはあるほど普及したフルライブ用コンソールとソフトを店舗販売かダウンロード版のどちらからを購入すれば基本プレイ料金無料で楽しむことが出来た。また、課金システムも搭載しており、一部のアイテム、アバター、実際に仮想世界で居住可能な家といったものまで購入可能である。

 通称コクーンと呼ばれているフルライブ用コンソールは、昆虫の蛹のような外形をした頭にかぶるヘッドギア型の装置とプレイヤーの脈拍からプレイ中の健康状態を簡易的に管理し、心拍、脳波の異常を感知した際に安全に緊急停止するために脈拍測定用ブレスレットのセットとなっている。


 W.O.M.S.のフィールドは、プレイヤーが自由に冒険を楽しめるように草原、大砂漠、大森林、湖沼、川辺、海原、海底フィールド、山岳、洞窟、地下迷宮路の他に主にNPCが統治する集落、城門都市、交易都市など数多く用意されている。

 特に草原は、都市間やその他のフィールド間の数だけ多種多様なLV.構成の草原が用意されている。

また、現実世界とは別に仮想世界独自の時間が設定されており、現実世界の8時間で仮想世界の一日となっており、仮想世界の1時間で現実世界では3時間相当となる。仮想世界では、朝時間帯を6時~12時、昼間時間帯を12時~18時、夜間時間帯を18時~6時で構成されている。そのため、毎日現実世界で同じ時間帯しかログイン出来ない人でも日によって仮想世界で異なる時間帯で遊ぶことが可能となっている。

 

 そんな、W.O.M.S.の日本サーバに初めてログインした際に必ず立ち寄ることになる始まりの城門都市「スクルド(Sculd)」の城門前からそれほど遠くない「悠久の大草原」の中で一人のソロプレイヤーが木陰から身を起こしていた。休日のほとんどを仮想世界で時間を費やすほどW.O.M.S.の世界の虜になっているプレイヤーがいた。

 漆黒でよく磨きあげられた鎧を装備した侍キャラクターの「フェイト(Fate)」は、瞼を擦りながら呑気なあくびをかぐ。

 この後に起こる自分の運命を変える出来事に巻き込まれるとは思いもせずに。


「…ん、昼か。寝すぎだな。そろそろ飯の調達でもするか。」


 フェイトは、遠目で放牧されている子羊をみて呟いていた。


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