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鍛冶2

「ほんとに役に立つのかなぁ?」


 一仕事を終えたミリアは首をかしげた。

 スキルを取得するのにかかる時間はほとんど無い。

 俺がスキルツリーの知覚が出来ないのでミリアに頼んでもらっているが、本来なら瞬きする程度の簡単さで出来る物らしい。


「約に立たないならスキルにすら成らないだろうさ。とりあえず使うよ」


 経験値を使って手に入れた直感スキルを使ってみる。

 つぎ込んだ魔力源の量によって、直感の正確さや具体性が増していくらしい。

 現現在の直感レベルは1。当てになるかは若干怪しいが、使ってみることにした。

 頭の中にある質量の存在しない針に魔力を通す。自然に目覚めた直後のように頭が冴え渡る。


「ダンジョンに潜ろう」


 直感はそう告げる。理性的に考えればあり得ない選択肢。大丈夫か、このスキル。


「ダンジョンって、魔王が出てきた穴の?」

「手近にあるダンジョンはあれしか無い。少し調べてみるのも悪くないだろう」


 ダンジョンのある穴まで歩いて行く。

 ミリアを抱きしめて、浮遊魔法を使ってゆっくりとダンジョンに落ちていく。


 穴の底は石と土が滞積していた。俺が井戸を掘るのに失敗した跡だ。

 地面に着地したのを確認すると、手から懐中電灯のように光を出す。


 まず最初に見えたのは壁だ。壁はプラスチックみたいな素材で出来ているように見える。

 叩いて見ると鉄のように音が響いた。俺のよく知らない素材であるのは間違いない。


「ここは本当に無人島なのか? それともこの世界のダンジョンってのはみんなこういう壁で出来ているのか?」

「このダンジョンおかしいよ」


 ミリアも壁を触っているが、驚きで目が見開いている。


「ご主人様、帰ろうよ」


 ミリアの言うことは正しい。しかし、直感がどれほど役に立つのか調べるべきだろう。


「不意打ちとは言え、このダンジョンを徘徊していた魔王を倒したんだ。即死するような状況は無いはずだ」

「そうかもだけど」

「迷うと死ぬかも知れないからな、左手で壁を触れ」


 迷路を解くための手法で左手法と言う。戻りたくなったら、逆の手順で帰れるはずだ。


「ご主人様なら天井に穴を開ければ何時でも脱出できるんじゃ?」

「壁を壊しながら直進していく事も出来るだろうが、ダンジョンがどれほど頑丈なのか解らない。だから、あまり壊したくない」


 ダンジョンを進んでいく。ツルツルしている地面は冷たく、足が冷えていく。

 モンスターも人間も宝箱も何も見つからない。

 時折T字路がある程度で、ハッキリ言って面白くない。


 ダンジョンに(金属との)出会いを求めるのは間違っているだろうか?


 俺がそう疑問に思った時、急に視界が広がった。

 まずその部屋には明かりがあった。壁には発光する板が張り付いていた。部屋の中央には枯れた噴水が存在しており、その周りにベンチがあった。

 部屋の大きさは教室二つ分程度で、この場所以外にも出入り口がある。


「ご主人様、ここで生活しようよ!」


 ミリアはさっそく部屋の中央へ駆けていった。


「何が出るか解らないよって言ったのお前だろ。罠があったらどうするんだ?」

「お部屋があるなんて思わなかったもん! ご主人様早く!」


 部屋よりも宝箱とか採掘スポットが欲しい……

にしても、最初は冷静沈着な感じがしていたミリアだけど、今では凄く子供っぽくなったな。俺に慣れたって事かな。やはり子供は元気にはしゃいでいるべきだ。


「ほら採掘スポットあるよ!」

「なんだと!?」


 俺はミリアが指さした場所を凝視する。確かに魔力が一カ所に固まっている場所がある。しかもご丁寧にその場所だけ石で出来たままになっている。

 俺は走ってその場所まで近寄った。


 さてどうやって採掘しようか。本来ならツルハシを使うのだろうが、無人島にあるわけが無い。


 もっとも、バリツが使える俺には石塊など、さしたる障害にはならない。


「ご主人様子供っぽい……」

「何とでも言え、それでこの石を壊せば良いのか?」

「ツルハシをつかって―――」

「よしきた!」


 俺は壁を人差し指でついた。ツルハシの形を考えると、面で打撃をするよりは点で打撃をするべきだろう。


 砂埃が部屋を舞う。


 魔力がたまっている為か、砂埃は様々な色に輝いている。

 ミリアも俺も咳き込んでしまうが、ようやく念願の金属が……


「ミリア、何も無いぞ」

「ご主人様が私の話を聞かないからだよ! ツルハシを使って、地面にたまった魔力を金属として結晶化させるんだよ」

「……すまなかった」

「本当は一週間ぐらいで採掘スポットが復活するけど、壊しちゃったらどうなるのかなぁ?」

「一週間後に来てみれば解るだろう」

「それこそ直感スキル使って当ててよ」


 なるほど。一週間後に復活しているかどうか、直感を働かせるのか。

 俺はミリアに言われたとおりに直感スキルをもう一度使う。


「ミリア、ここに何か来るぞ」


 それが俺の直感だ。何かが来る。


「え?」


 ミリアはピンと耳をたてて警戒している。


「何か来てる!」

「安心しろ、バリツは無敵だ」


 俺の耳にも音が聞こえてくる。

 何かが這いずる音だ。


 俺たちが来た場所とは反対にある出入り口から、大きな口が現れる。


 俺はミリアを抱きしめてから、氷の壁を作りあげる。

 口は氷を食べる事が出来ずにぶつかる。氷の壁にひびが入る。


 口の正体は大きな蛇だった。蛇の表面は全体的に銅のような色をしている。一部分は土塊がそのまま着いていたり、逆に宝石のように輝いていたりしている。


 全長は七メートルほどだろうか、今までのモンスターに比べれば速度は遅いが、あの口の破壊力は不味いな。


「ミリア、あいつは何ってモンスターだ」

「金属蛇。今だと絶滅寸前のレアモンスターで、こいつを焼かずに倒せば金属が手に入るよ」

「なんだと! ミリアはそこに居ろよ」


 蛇の体に付いているのが金属なんだろ? 身ぐるみ全て剥いでやる。

 蛇が俺の殺気に気づいたのか、逃げだそうとしていた。


 俺は蛇の頭を蹴り上げる。

 蛇はそのまま壁にぶつかり、動かなくなった。さて、お楽しみの時間だ。と思った所で、蛇は自然消滅していく。


「ちょっと待てよ! まだ金属取ってないだろ! まてよ金属!」


 一部の生命体は死んだらなぜか消える。魔力で出来てるからだろうか?


「炎使ってないなら、アイテムとしてドロップするよ。にしてもご主人様、生きてる金属蛇から金属をはぎ取ろうとするなんて無茶苦茶だよ」

「でも金属を手に入れるには―――」

「炎を使っちゃダメって言ったけど、はぎ取れなんて言って無いよ……」

「はぎ取った方がいっぱいとれるだろ」

「ガイドブックにはそんな記述無いよ。

 試そうとした人間が居なかったみたい。

 十人以上のパーティで狩るモンスターで、それでも勝てるかどうか解らないから、見つけたらお近くのグルグギルドに連絡してくれーって」


 結局広告か。


 しかし、多人数で挑むようなモンスターなら、大量のアイテムも落としてくれる事だろう。


 以前のスライムと同じように蛇が消えていくのを眺める。一瞬で倒してしまったが、こいつもボスモンスターみたいな扱いらしい。


「金属蛇は採掘スポットの匂いに敏感なんだって、だから来たんだよ」

「匂いか」


 採掘スポットを壊して粉状にしたんだ。嗅覚の鋭い金属蛇にはとても美味しそうに思えただろう。


 金属蛇が倒れた場所から徐々に金属が落ちてくる。俺とミリアはそれを一カ所にかき集める。

「俺としては二~三個あれば十分なんだが」


 どれだけ出てくるんだよ。すでに六個は落ちてるぞ。しかもあの蛇は部屋に入りきれずに、体の一部が通路にあったから、通路にも金属を落としているはずだ。


「今後も鍛冶をする可能性を考えると全部持っていきたいよね」

「しかしなぁ…」


 そう言っているそばからまた一つ落ちていく。


「しょうがない全部持っていくか」


 そう言うわけで、部屋中に落っこちている金属を一カ所に集める。最初は金属に含まれる魔力から、どのような効果が引き出せるかをミリアは鑑定していたが、途中から何も言わずにゴミみたいに扱い始めた。




「終わったぁ~」


 ミリアが最後の一個を金属の山の上にのせた。

 これで大小併せて三十二個の金属を一カ所に集めた終えた。金のようにきらめく物から、漆黒で光を吸収しそうな物、ゴムみたいな軟体物まである。


「大変だったね」


 ミリアは額をぬぐったあと、ベンチに座り込んだ。


「おかしいな。もうちょっと数があると思ったんだが」


 具体的には三十五個、落ちた時の音と実際にある数が違う。


「ご主人様の気のせいじゃない?」

「そう言われればそう言う気もする」


 見落とすほど広くないし、蛇も大きくない。俺が数え間違えたと考える方がよほど自然だ。


「どうやって運ぶつもりなの?私はくたくただよ」

「なぜ全てを運ぶんだ? 金属達に動いてもらえば良いだろ」


 俺は自分の髪の一部を切り取る。はさみなど無くても鍛え抜かれた指で簡単に切れる。

 切り取った髪を金属に振りかける。


「我が分身に命じる。俺の後ろを追いかけろ」


 自分の体の一部を与えることによって、簡単な命令を与える魔法だ。

 もっと解りやすく言えば式神を作る魔法だ。

 この魔法を使って、天音の魔法を習得したと嘘をついたこともあるが、一瞬で見破られた。

 天音式の式神術なら、この金属が液体状になったり、剣の形になったり、鳥の形になって空を飛ぶことだってできる。

 やりたい放題だ。


「ご主人様の魔法って不思議だよね。魔法のスキルツリーにそんな魔法無いよ?」

「俺の国じゃ普通の魔法だよ。さぁいくぞ」


 俺が一歩進むと、金属の一つがはねて俺の後ろに着いてきた。また一歩進むと他の金属も飛び出してくる。ペンギンが列をなしてよちよち歩くのを、金属がやってるような状態になる。


「ずっと見てたいなー」


 ミリアは上機嫌か耳を揺らしながら金属の行進を眺めている。


「あぁモキュキュが遅れてる」


 しかも勝手に名前までつけている。


「見世物じゃ無い。それに危ないだろ、ちゃんと前を見て歩けよ」


 とは言え、こういう息抜きも大事だ。


「鍛冶は明日やるぞ。今日は帰ったらピラニア食って寝るぞ」

「は~い」


 ミリアは元気よく右手をあげた。


 ミリア日記

 名前 おっきな金属蛇

 大きさ ガイドブックに載ってるのをすっごくおっきくしたの

 弱点 炎、バリツ

 メモ1 ガイドブックには大きくても人間の大きさを超えないって書いてあったし、多人数で狩りをするのも、逃げ足が速いから取り囲むためなのに、この島に居る蛇はとっても大きかったし、襲ってきた。

 メモ2 その蛇を殴り倒しちゃうご主人様は強いと言うよりとっても変。

 メモ3 ご主人様の魔法で金属が行進してたけど、とっても凄かった。一度だけ見た人形劇みたい。また見たいなぁ~。もう一回ぐらい出てこないかな金属蛇


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