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鍛冶1

 スライムを倒して手に入れた物はいくつかある

 飲み水の確保と川を元に戻した事、ミリアとの信頼関係。

 それにもう一つ。


「ご主人様、諦めたら?」


 ミリアは川で魚を捕まえようとしている。俺の奮闘を見ているのに飽きてしまったんだろう。


「嫌だ」


 俺はもう一度鞘から剣を引き抜こうと引っ張る。

 剣があれば今後距離を取って闘うことが出来る。

 もちろんバリツが最強である事実は揺るがないが、剣術も悪い物では無い。

 俺には天音式剣術、魔法を交えた実戦重視の剣術も体得している。持って損することは無い。


 ………本当は剣を使う方が格好いいからだ。


 そう思っていたのだが。

 何度やっても鞘から抜けない。


「川に沈んでいてさびちゃったんだよ。抜けても使い物に成らないよ」

「しかし今以上に強い敵が出てきたらミリアを守りきれなくなる」

「……ご主人様、剣を使いたいだけだよね」

「そんなわけ!」


 と踏ん張った時だ。剣が鞘から少しだけ動いた。

 茶色く濁った刀身だった。一度動くと、残り全てを出すのはそう難しい事では無かった。


「ほらやっぱりさびてる。ガイドブックでも記載されてないよ。きっと川に沈んでいる合間に、認識用の魔力刻印も削れちゃったんだよ」


 でもなぁ。何かしらの魔法が掛かっているのは間違いない。


「ミリアは鍛冶出来るか」

「むーりー」

「やり方は?」

「本当に直す気なの?」

「鍛冶が出来れば大分生活が楽になる。包丁、鍋、フライパン」

「魚以外の食材探そうよ」


 ここ数日間魚ばっかり食べている。栄養の偏りが気になる。


「鍛冶があれば風呂場が作れる」

「おふろ……」


 ミリアが少しおっとりした表情をしている。

 川が復活したから川遊びやら、体の汚れを拭くぐらいは出来る。

 しかしお風呂に浸かって体を休めるのとは違う。


「ご主人様、ミリアが鍛冶を覚えようか?」

「覚えられるのか?」

「うん。この間のスライムで魔力源がたまったから、鍛冶に振ろうかなって」

 鍛冶があれば今後の無人島生活は楽になるかも知れない。でも鍛冶スキルがあると言うことはだ。


「他にも無人島ライフに役立ちそうなスキル。あるんじゃないのか?」

「いっぱいあるよ。元々ミリアは雑用係もしているデキる奴隷だったから」

 

 そう言うわけで、口頭でミリアのスキルツリーを説明された。

 いろいろなスキルが存在していたがとりわけ重要なのが二つ。


「鍛冶スキルか、あるいは料理スキルか」


 悩むな。鍛冶スキルを取れば、この剣が使えるようになるかも知れない。料理スキルならば、この貧しい食生活からおさらば出来るかも知れない。


「そんなに料理大事なの? このスキルは味にしか影響しないよ?」

「大事だろ?」


 塩も醤油も無い、あるのは炎と魚だけの食生活。今すぐにでも脱出したい事の一つだ。


 肉が食べたい。栄養的に野菜も食べたい。


 ……食材の問題であって、料理スキルは関係無かった。


「ミリアは十分美味しいと思うけどなぁ……」

「ところでさ。一度振り分けたスキルってもう一度選び直す事ってできる?」

「ギルドでお金を払えばやってもらえるよ」


 金を払えばって事は、人の居ないこの島では振り直し不可能と同じだ。

 そうなると気軽に料理スキルを頼むわけにもいかないよな。


「ミリアはどうなりたいんだ?」

「ミリアはご主人様の物だから、ご主人様の好きにすればいいんだよ」

「ミリアがどうなりたいかを聞いてるんだ」


 ミリアは空を見上げた。俺も釣られて見上げる。今日は昨日と違いよく晴れている。


「ミリアは、強くなりたい」

「強く?」

「うん。ご主人様にばっかり戦わせたくない。ミリアも闘いたい」

「戦ってるだろ」


 俺は神竜のネックレスを指さす。スライムだってネックレスで勝てたようなものだ。ミリアは立派に戦っている


「ううん、ちがうの。そういことじゃなくて」


 ミリアは首をぶんぶん横に振った。


 しかし、戦いたいか。

 昔のミリアはモンスターからひたすら攻撃を受けていた。それなのに戦いたい。どうも不自然に感じるな。


「ミリアはもっとご主人様の役に立ちたいの! ご主人様みたいにもっと強くありたいの!」


 ミリアは俺に近づいて、服の裾をぎゅっとつかんだ。

 ……この世界の知識を教えてくれるから、現状でもすっごく役に立っているんだけどな。となると、俺のように強くありたいと言うのが、ミリアの目標なのだろうか?。


 俺は他人に自らの強さを証明するためいろんな事をやってきた。ミリアにはそう言う人間になって欲しくない。妹の桜みたいに、物事を楽しむことを覚えて欲しい。

 俺のように強くなれて、かつ楽しく出来る事。

 この二つが混ざり合う物それは。


「バリツを教えよう」

「バリツは嫌です」


 即答だった。


 残念だ。バリツは何時だって後継者不足で悩まされる拳法だ。多くの者はその特訓の過酷さで、諦めるか、死ぬ。


 そこで桜に教える為に俺が編み出した、誰でも出来て楽しいバリツ拳法を、覚えさせたかったのだがダメか。

 しかしここで諦めるわけにはいかない。

「腹筋がつくぞ、筋肉だぞ。筋肉こそが強さの象徴だ。バリツとはすなわち筋肉で有り、人間だ」

「ふっきん……」

「そうだ。腹筋だ、上腕二頭筋だ、大胸筋だ」

「そ、そんなのに騙されないよ!」


 ミリアは一瞬ぼけーっとした後、耳をピンと立てて首を横に振った。

 どうしてこの子はそんなに筋肉が好きなのだろうか?


「ミリアは役に立っている。それに俺は強くない。強いと言うのは、正義を貫くと言うことだ。暴力的な力は貫くための道具でしか無い」


 あの時俺の事をかばった桜こそが強いと言える。魔法やバリツで皆殺しにする方法を考えていた俺とは大違いだ。


「でも」


 ミリアは納得できないのか俺に詰め寄ってくる。


「鍛冶をするって結局何をするんだ? 俺にはよくわからないんだ。教えてくれないか?」

「無理してミリアの事を立てなくても別にいいのに。鍛冶ぐらい子供も知ってるよ」

「俺の国だと鍛冶をする事はほとんど無かったんだ」


 最高級品が欲しくなったら天音一族の力で取り寄せていた。自分で作る必要など皆無の環境で鍛冶をするなど趣味でしかない。


「鍛冶には最低でも炎、ハンマー、金属が必要だよ」

「金床は無くても良いのか?」

「本格的にやるなら必要だけど、最低限なら要らない」

「炎とハンマーはどうにかなるが、金属か……」


 鉱山で採掘するのだろうか? 他の場所も調べないとダメか。


「炎は魔法を使うとしても、ハンマーは無いよ?」

「俺の手で直接打てば問題無い。バリツは無敵だ」


 バリツの特訓には炎の中に自らの拳を入れる物が存在する。精神と拳、両方を極める事ができる特訓だ。

 それに魔力を使えば熱ぐらいは遮断できる。

 ハンマーなど要らん。


「武器要らないね」

「武器は大事だ。それよりも金属はどうやって入手すれば良い」

「金属を入手する方法は二つあって、一つはマナの溢れる採掘スポットから採取する方法。地上には魔力が多く集まる場所があって、そこの石は金属であることが多いの。ご主人様は金属っ言ったけど、武器が作れれば金属じゃなくて宝石でも良いよね?」

「作れれば問題無い」


 日本での鍛冶と、この世界の鍛冶は全くの別物と考えた方が良いだろう。宝石はマナを多く含むので、魔力を形ある物に変える技術と考えるのが自然だろう。


「もう一つはモンスターから手に入れる方法。一部のモンスターは石や土を食べて、体を宝石や金属にしているの。そのモンスターを倒せば金属が手に入るの。でも、乱獲されたから今はほとんど居ないって聞いたよ」

「どちらにせよ。探さないとダメか」


 このままでは魚だけの食事で栄養不足がどうしようも無い。

 すぐに出来ない鍛冶の事は後回しにして他の場所を開拓しないとな。


「ミリア、この辺りに採掘スポットはあるのか?」

「ご主人様なら見れば解るよ。他の場所と違って明らかにマナが濃いから」


 日本と比較するならこの場所だってかなりマナが多い。どれだけマナが多い場所なんだろうか。


「そうなると手がかり無しか」

「ご主人様は鍛冶を諦めて、別のことをやろうよ。ミリアは料理スキルを取るのは反対だけど、料理を充実させるのには賛成。もっと食べ物さがそうよ」


「そう言うなよ。試してみたい事もあるんだからさ。

 ミリア仕事だ。

 俺のスキルツリーをいじってくれ、スライムを倒した時の魔力源を直感に全て振ってくれ」




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