表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

ミリア6

 前と同じようにミリアを抱きしめながら天井まで跳んでいく。

 

 ミリアを連れてきたのは失敗だった。

 モンスターの正体を見て思った。

 

 これもインフェルノスライムの一種なのだろうが、ありとあらゆる点で規格外だ。


 まずでかい。

 高さ5メートル横幅10メートルほどのサイズだ。だが、もっとも異常なのは長さだ。

 

 全長5キロを超えているだろう。


 それしか解らない。長すぎて全てを見ることが出来ないからだ。


 一メートルサイズのコアが真ん中にあるが、通常のインフェルノスライムサイズのコアが液体の中にかなりの数埋まっている。それと共に魚や小石なんかも混じっている。


 どうやらこいつが川の水源だったみたいだな。


 そりゃ川がどこにも無いわけだよ。ってか今までどこに隠れ住んでたんだこいつ。


「あのモンスターはインフェルノスライムで良いのか?」

「特別変異だからガイドブックには書いてないよ、でもコアの色はインフェルノスライムと一緒」

「スライム全般の情報を調べてくれ、後はいつもと同じように神竜のネックレスを俺に使ってくれ」

「解ったよご主人様」

「それと今回ばかりはドロップアイテムを諦めてくれ」


 スライムに触る。そこから絶対零度の冷気をたたき込み外側の部分を凍らせる。

 ここから、連鎖的にスライム全てが凍っていく。

 スライムは固まり動きが止まる。しかし氷がひび割れていき、結局中身が出てくる。


 凍ってはいるのだがそれ以上に回復速度が速いからだ。


 こいつが川を吸収して生まれたのなら、当然考えるべきだった。


 雨を吸収して回復しているんだと。


 今から天の祝福の音を使ったとしても、晴れにするのに一体どれぐらいの時間が掛かる? その合間どうやって逃げ切れと言うんだ。


 俺はいったん後ろに飛ぶ。


 手のひらが完全に焼きただれてしまっている。


 自分の体を治すのに魔法を使ってはスライムを削り切れなくなる。


 直接触れずに倒すしか無い。


 いくら雨が降っていようと、その回復量を上回るダメージさえ与えれば、いつかは殺せるはずだ。


 しかしスライムは回復していく。その回復に力を回しているおかげか攻撃してこないのが唯一の救いだ。


 二回目の竜の加護。

 魔法の威力増幅を期待していたが効果は見られない。

 今から天気を変えたとして六時間はかかる。それまで俺の魔力が残っているか?


 神竜のネックレスを装備するか?

 俺は振っている雨を強引に氷柱に変えてスライムへ攻撃する。これなら回復も阻害できる。


 スライムは凍るが、すぐにひび割れて、雪解けの氷河みたいに流れてくる。


 一歩また一歩と俺は後退をよぎなくされる。


 もしもこいつが海の水まで吸収できるとしたらどうなる?


 そうなったら、もう無理だ……


「ご主人様、無理だよ」


 三回目の竜の加護の後、ミリアは呟き前へ前へと歩いて行く。


「ミリアが生き餌になるから逃げてよ」

「何言ってんだよ!」

「もう、いいんの。ミリアに優しいご主人様がいた、それだけでミリアは幸せなんだよ」


 俺はこんなのを幸せとは呼びたくなかった。


 ミリアと一緒の生活がつまらないと言いたいわけでは無い。


 もっと、もっと、やりたいことがいっぱいある。


 だからこんなのを幸せとは呼ばせない。


 まだ始まってもいない。


「ミリア、モンスターの餌になるの上手なんだよ」


 俺より一歩前に出て諦念した顔を見せる。


「ざけんじゃねえ! その歳で悟ったような顔しやがって!」


 こんなに叫んだの何年ぶりだろうか。

 爺様に追放処分が言い渡され、弟の鍔鬼に殺されそうになった時だって、叫んだ記憶は無い。


 あの時の俺は諦めていた、今のミリアと同じように。


 あの時はやるべき事を全てやったと思っていた。


 今は違う!


「俺の奴隷として学校行けって言っただろ! 命令に逆らう気か! お前は俺の国に来るんだよ!」


 自分でも何を言ってんだが、訳がわからなくなった。

 体が燃えるように熱くなるのを感じる。


「もう、いいんだよ、そんな嘘、ミリアの為につかなくても、あるわけないよそんな場所!」


 俺は何かしら声を発しようとした。

 言葉としての連なりを持つ罵声だったとは思う。


 実際に出てきたのは、炎だった。


 この事実に、俺もミリアも目を丸くしたが、思いつく物が一つあった。


 神竜のネックレスの効果、竜の加護。

 竜の加護と言うか竜その物じゃねえかよ! 無料版はダメだな。


 ミリアも何かを発しようとしたが、代わりに炎が出てきた。

 意図していようが、意図していなかろうが、一回炎を吐けばもう一度吐く為のハードルはかなり下がる。


 俺は自分の喉に炎をため込む。


 自分の手が鱗に変わっている。頭から何かが生える感覚がある。


ミリアも同じように頭から角を生やし、手の皮膚が鱗になっていた。うまくしゃべれないので、俺はミリアの手をつかんだ。


 ミリアは俺の手をギュッと握り替えし見つめた。俺も見つめかえした。

 この状況をひっくり返すならやることは一つしか無い。

 ミリアが四回目の神竜のネックレスを使う。



 それと同時に俺はとミリアは口から炎を吐いた。




 スライムは蒸発していく。


 紫色に輝く魔力源が草原一帯に広がっていく。スライムからしゅーしゅーと音をたてて蒸気が流れ出す。


 俺はミリアを見つめる。ミリアも俺を見つめる。

「うぉっしゃ!!!」

「やったねご主人様!」


 嬉しかったからミリアを抱きしめた後、思いっきり高い高いして振り回す。


「ご主人様! 高いのダメ! 高いのダメェ!!」

「しゃああ!!」


 正直興奮しすぎた。


 俺とミリアはスライムが蒸発していくのを一緒に眺めていた。

 蒸気に乗って小さなスライムや、魚などが川の場所に戻っていくのが面白いし、剣などのお宝も発見できるからだ。


 どういう原理で川の形に戻ってるんだろ? あれは川の神様だったのか?


 どっちにしろ俺がその答えをしる術は無いしガイドブックにだって載ってない。


「ミリア、お前の使ってる無料版のガイドブックって書き足す機能ってあるか?」

「あるけど、どしたの?」

「今回のスライムについてお前の私見をまとめておけ。今後参考になるかも知れない」

「ご主人様の言いたいことは解るけど、でも私が書いたのじゃ役に立たないような」

「強かったとか、炎で倒したとか、怖かったとか、ぐちゃぐちゃしていたとか、そういうので良いんだ」


 俺が欲しいのは記憶だ。

 ミリアに生きていたいと思ってもらえるような、

 自分が生きていたと言えるような、

 思い出して楽しかったと言えるような、

 そういった物が必要なんだ。


「解った」

「それを毎日かけ。日記だ」

「えぇ~」


 ここまでハッキリと否定してきたのは初めてじゃないのか?

 それは俺に対して否定的な意見をだしても、怒ったりしないと思ってくれているからだろうか。

 俺はそうであって欲しいと願う。


「俺の通ってる国の子供達は毎日の出来事を書いてるんだよ。だからミリアも書け」

「は~い。書き込んでも書き込まなくてもご主人様には解らないもんね」


 ミリアは耳を揺らしながらにひひと笑った。


 ミリア日記


 名前 すーぱーインフェルノスライム

 大きさ とっても長くて、すっごい大きかった。

 弱点、ドラゴンの炎

 メモ1 雨だと回復。

 メモ2 ご主人様は竜の加護で倒していたけど、あの時のご主人様凄かったな。本当にドラゴンみたいなんだもん。ミリアにも効果あるから生えてたんだけど、どんな姿だったんだえお?

 メモ3 ご主人様が助けてくれたのすっごい嬉しかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ