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ミリア5

 日が落ちるまでの合間にスライムコアを30個手に入れることが出来た。

 リットルにしておおよそ15リットル。3日は余裕だ。


 今日もマッハピラニアを食べ、やることも無いのでミリアと一緒に焚き火を見ている。


「ご主人様は経験値の振り分けどうするの?」

「経験値?」


 インフェルノスライムを倒した時に、スライムが持っている魔力源が俺の体に取り込まれていた。

 振り分けるも何も魔力源があれば魔力を大量に使うことが出来る。振り分ける必要なんて無い。


 にしても、魔力源を持つモンスターを倒すと魔力源を奪えるのか。日本じゃ魔力を持つ動物なんて居ないからな。

 居たら魔法の修行がどれだけ楽だったことか。 


「ご主人様の国って変だよ。経験値によるスキル習得も無いの?」

「いや、ある事にはあるんだけど」


 ゲームの世界、つまりフィクションであって現実では無い。


「じゃあ今何のスキルツリーをつなげているの?」


 完全にゲームだ。でも魔法をシステム化して人間全員に使わせようとしたら、むしろゲームみたいな形になるのか?


「ほらやっぱり、ご主人様の国とっても変。どうやって魔法を使ってるの?」

「術式を組み立てる」

「本格的な魔法なんだね」

「まぁな」


 魔法が使えなくて異世界に追放されるぐらいには。


「一般的な魔法はね。魔力源を使って術式を体に刻むの。その刻む模様をスキルツリーって言うの」


 魔力源を加工すると言う発想は日本には無い。この方法だと、魔法の範囲や威力がほとんど固定になって柔軟性が一切なくなる。


 ミリアの言う方法なら魔力源さえあれば誰にでも魔法が使えるメリットがある。

 全員魔法が使えると言うだけ合って、魔法を使いやすくする環境も整っていると言うことか。


「スキルツリーは持っていない」

「でもその人が固有に持ってるスキルツリーもあるよ。私は聴力の強化と、嗅覚の強化」


「せっかくだ俺のスキルツリーも見てくれ」


 ミリアのスキルツリーを聞いている限りだと、大した物は強化できないのだろう。それでも、より強くなれるのならばそれに超した事は無い。


「うん」


 ミリアの魔力が俺の魔力に触れているのが解る。


「アマネって書いてあるけど、アマネってご主人様の名字だよね? ご主人様って偉い魔法使いの一族なの?」


 俺は肩を揺らし笑ってしまった。


 天音。万物を支配する音の魔法。俺がここに来た原因。


 俺がいくら努力しても、手に入れることは出来なかったのに、こっちの世界でスライムを倒すだけで手に入れられる。これを笑わずして何を笑えば良いんだ。


 あんまりにも滑稽だ。


「ご主人様どうしたの?」

「続けてくれ」


 道化も良いところだ。俺の今までの努力は一体何だったんだ?


「後は、直感があるね」

「天音に経験値を全部入れてくれ」

「わかったよ。ご主人様」


 体の中に異物が刺さるような感触がある。質量が存在しない剣に串刺しされるような不思議な感覚。


 痛くもかゆくも無いけど、かゆい?


「これで天の祝福の音が使えるよ。どんな魔法なの?」


 天の祝福の音か。今日の成果を台無しにしてくれる魔法だ。


「ちょうど良い使ってみるか」


 起き上がって、声を軽く出す。天音の魔法は全て声を出すことが鍵になっている。


 使う魔法によっては詠唱するように、歌ったりする必要もある。

 この魔法は歌えば良い。頭の中に浮かんでくる言葉をそのまま口にする。


「ご主人様って歌上手だったんだね。でも言葉の意味がわからないし、何も変わらないよ」


「魔法の効果は明日になればわかるさ」





 天の祝福の音。その効果は…


「天気を雨にする魔法だったんだね」


 昨日まで雲一つ無い青空が広がっていたのに、突然の雨。これが天の祝福の音だ。


 ミリアは洞窟から抜け出して両手を広げながら雨に当たる。


「雨雨、あっめっあっめ~♪」


 口を真上に向けてくるくると回っている。


「この魔法を何度も使うと気候が狂うんだ。あんまり使わないからな」


 気候を強引に変える魔法だけ合って連続使用はかなりの危険だ。それに連続して使うと、雨量がだんだん減ってくる。


 天音の一族はこの魔法を使って天気の支配を一時期考えていたらしいが、割に合わないのでやめたらしい。


「とりあえず水はためておくか」


 俺は空容器を海岸に並べ始めた。


 雨の中行動しても体力を減らすだけと判断して、今日は洞窟の中でお休みだ。行動しなくても水は手に入るので、問題は無いのだが……


「雨だと暇だねー。お天気にできないの?」


「そっちも出来るけど時間がかかる。それに水を集めておかないと」


 天気を変えるのに最低でも六時間はかかる、酷いと一日以上だ。

「でも暇だね」

「そうだな…………ミリアの事が聞きたい」

「ミリアはどこにでもいるロップ族の女の子で奴隷だよ?」


 そのロップ族ってのも俺からしてみればかなり気になる話だ。みんなウサ耳で可愛らしいのだろうか? それとも女性だけがこういう容姿で男性はオークみたいだったりするのだろうか。


「どんな仕事をしていた……言いたくなければ、言わなくてもいいが」


 でも気になるのはミリア自身の事だ。


「生き餌。

 きっとご主人様は知らないと思うけど、モンスター達は基本的に弱いのから狙うの。

 だからミリアみたいな子供を一人連れて行って、モンスターに襲わせるんだ。

 死んじゃうといけないから、定期的に回復魔法はかけてもらえるよ」


 ミリアは全てを諦めた顔をしている。

 そんな顔なのに言葉のイントネーションは普段とあまり変わらない。

 怖かった。

 この年にして、絶望を知っていると言う事実が、

 そして、

 それを受け入れてしまっているミリアが。


「肉が引き裂けながら元に戻っていって、

 モンスター達がまたミリアを食べての繰り返し。

 それが一日中続くの。

 だからご主人様のやることが不思議だった。

 別に慣れてるのなーって」

「慣れたって痛みは消えないだろ」


 治せたってその経験までは消えない。天音の魔法を覚えても、屈辱と羞恥を忘れられないように。


「良いの。ミリアはロップだから、

 ロップはそういう生き方しか出来ないんだよ。

 生き餌でまだ良かったと思うよ。他のロップはね――」


「俺の国の子供はみんな学校に通っていた。奴隷なんて制度もとっくに廃止された。

 まだまだ問題もあるけど、それでも平和だった」


「いいんだよ。ご主人様、そんな嘘つかなくてもミリアは別に―――」


「痛くないならそんな表情しないだろ。

 見てて俺まで痛くなってくる。

 良いかお前は俺の奴隷だ。

 だから俺の好き勝手に使わせてもらうからな!

 俺の国に連れ帰って、学校に行ってもらう。

 それまでせいぜい俺に仕えてろ」


 耳が長いぐらい、魔法で認識を阻害させればどうにでもなる。戸籍を作るぐらい、天音のネットワークどころか、俺個人のネットワークで十分だ。


「……ご主人様、ミリア、本気にしちゃうよ?」


「俺は何時だって本気だ」


 電気が流れたようにミリアの耳が動く。


「ねぇ、草原の方からモンスターが来てる。それもとってもおっきいの」


「やれやれ、雨の日ぐらい休めよな」


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