ミリア4
漂流物の棒きれを洞窟近くの地面に指して、俺の上着を巻き付ける。これで簡易的な旗を作りあげる。
「ふっき~ん、ふっき~ん」
ミリアが俺の腹筋をべたべた触っている。楽しいのかウサ耳もちょっと動いている。
バリツで鍛え上げられた肉体だ。誰に見られようが恥ずかしくない。
が、触られるのは少し恥ずかしい。
「ほら、行くぞ」
「うん、ご主人様」
草原を歩いておおよそ三十分。
川だった物を発見した。
大小様々な石が転がって、水さえあればさながら河川敷みたいな場所なのだが、肝心の水が存在しない。川だと仮定するなら幅十メートル近くの浅い川で、俺とミリアの水分補給には十分なサイズだ。
「川だよな?」
俺はミリアに聞いてみる。
「川っぽいね」
川底と思われる部分には、藻が生えており少し前までは川だったはずだ。
どうして川が干上がるんだ?
殺気を感じ臨戦態勢に入る。体に魔力をまとわせて何時でも魔法が使えるようにする。
「ご主人様インフェルノスライム!」
名前からして強そうなスライムが、水の無い川の上流から向かってくる。
国民的RPGに出てくる可愛さは一切無い。
赤い核の部分と緑色のどろどろの体を持ち、全長六十センチほど、それが自動車ぐらいの速度でミリアに向かってくる。
国民的で無いスライムなら、物理的な攻撃は完全シャットアウトのパターンもある。ここは素直に凍らせておくかな。
右手の周りに冷気をまとわせ――
「焼くのと凍らせるのと核を攻撃するのはダメ」
「え?」
突然のミリアの言葉で俺の動きが止まってしまう。と、同時にスライムがミリアに突進。
ウォーターベットを作ったのと同じ仕組みで、スライムを持てる形に変換し投げ飛ばす。
ぐちゃっと気持ち悪い音が響く。幸いミリアにダメージはなさそうだ。
「弱点って解るか?」
「焼くのと凍らせるの核の部分」
……縛りプレイかよ。
スライムは何度もミリアに突進をしかける。攻撃が単調なおかげでミリアを守るのは簡単だが、こちらの物理攻撃が一切通らない。核の部分ならダメージを与えられそうだが、ミリアは駄目と言うしな。
……しょうがない。
俺はスライムの突進を避けない。スライムが張り付いてきた瞬間、電撃を体に走らせる。
スライムの核の部分だけを残して液体が地面に落ちていった。
元々は護身用に作っていたが、この魔法が使えるような奴には必要ないと気づいた没魔法だ。
まさか役に立つ日が来るとは。
「何で弱点を部位の攻撃が禁止なんだ」
「スライムコアを手に入れるには、弱点を攻撃せずに倒さないとダメなんだよ」
俺はスライムの核の部分、スライムコアを手に取った。ナタデココみたいなさわり心地で、リンゴほどのサイズだ。
これでウォーターベット作りたいな。
海水のよりもこっちの方が絶対に高品質なのが出来る。
「ガイドブックのドロップ条件に書いてあったんです」
「ガイドブックの内容をちょっと音読してみろ」
「インフェルノスライム
推定レベル749
水辺に生息するモンスター。他のスライムに比べ高い攻撃力と早さが特徴。大人一人を三分で解かす高い消化能力を持つが、攻撃自体は単調。
弱点 氷、炎、コア部分
耐性 物理
ドロップアイテムはスライムコア ドロップ条件 弱点攻撃なしで倒す。
グルグギルドで高価買い取り中。
スライムコアを使った料理ならミア料理店にどうぞ。」
どんな項目にも広告が載ってるんだな。商魂たくましいと言うか何というか……
「それで、スライムコアを手に入れてどうするんだよ」
ゲームなら売ったりアイテムを作れるのだろうが、スキルも無ければ知識も無い俺には関係の無い話だ。
「スライムコアは飲めるの!」
「そうか」
俺はミリアにスライムコアを渡す。
「ちょっと飲んでみてくれ。飲み方が解らん」
ミリアはスライムコアに前歯を立てるとそこからちゅーちゅーと吸い始めた。チューペットみたいな飲み方だな。
ミリアが半分ほど飲んだ所で俺に渡してくる。
「良いのか?」
「倒したのはご主人様だもん」
そう言うわけで残り半分ほどを俺が飲んだ。
味はほとんどしない。
「美容健康にも良いんだよ」
俺もミリアも気にするような年齢じゃないだろ。
「それよりもさ。インフェルノスライムって水辺に生息するんだよな」
「うん」
「ほんの少し前までここが水辺だったと考えるのが正解みたいだな」
しかしどうして水が干上がったんだ?
スライムが出るぐらいだから、ほんの少し前って感じに思えるが。
「明日から水源を調べる為に上流を目指すぞ」
「今日は? まだお日様高いよ」
「スライム狩りをして当面の水分を確保」
上流でビーバーみたいなのが川をせき止めているだけだと思うが、もしも原因がわからなかった場合は、水分の確保が難しくなる。
スライムだって何時までも出てくるとは思えない。
ならば当面の水分をここで確保しておきたい。
「ミリアはモンスターを引きつければいいの?」
「危ないだろそんなの」
ミリアはきょとんとした顔をしていた。俺何か間違った事言ったか?
しかしなぁ。ここで待っていてと言うのは、ミリアに要らないと言ってしまうのと一緒だ。
仕事熱心にならなくても良いのに。
「ミリアにはこれを使ってもらう」
俺はミリアに神竜のネックレスを首に掛ける。
つけたときは何とも思わなかったが、外すと体の感覚が鈍っているように感じられる。
全ステータス10パーセントアップと言うのは伊達じゃ無い。
「使え、それで俺を援護するんだ。モンスターが近づいてきたら俺に教えろ」
魔法道具として使うと竜の加護を得る。名前からしてみても強そうだ。
さっきからミリアの表情がおかしい。異国の言葉で突然怒られたような顔をしてる。
「もしかして魔法道具として使うと使い捨てなのか?」
ミリアの顔をのぞき込む。
それでミリアは自分がぼけーっとしているのに気づいたのか
「ううん、ずっと使えるよ」
「じゃあ頼んだ」
川だった場所をミリアと一緒にうろつく、ミリアがスライムの場所を教えて俺がその場所に向かってボコボコにしていく。
「このスライムって合体しないのか?」
そろそろ同じ動きしかしない相手に飽きてきた。
合体とか、メタルなのが出てきて欲しい。
「スライムって合体するの?」
国民的なのはね…