メルセデス6
探索スキルで指定された場所は広間だった。前に採掘ポイントを見つけた場所と同じような場所で、違いがあるとすれば、モンスター共がわんさか居るって事かな?
一体だけでも面倒だったリザードスライムが十体以上おり、それ以外にも見かけないモンスター、定番のモンスターが大勢居た。
リースが剣を構えたので制止させた。
「どういうことですか?」
そりゃこんだけモンスターがいて剣を納めさせようとすれば当然の反応だろう。
「このモンスター達に敵意が無い」
モンスター達は俺たちを見ているが、攻撃態勢に入ろうとはしない。例えばレッドキャップのようなモンスター達は視線だけ俺たちに向けて、ナイフを構えていない。
俺はこの状況を知っている。
天音の魔法で支配されていた動物が、一時的に解除された時と酷似している。
いくつかのパターンが存在するがこの場合は。
「メルセデスはずいぶんとモンスターになつかれていたみたいだな」
普通は襲われるのだが、懐かれているとむしろ何かあったのか心配したり、助けてくれたりする。
敵対者には率先して襲っていったりもするが、襲っても来ないので、メルセデスは俺たちを敵とは見ていないと考えるべきだ。
もうそこまで来ると天音の魔法は要らないように見えるが、他の生命体を自分の体同然に使えるというのは想像以上に便利。
俺たちはモンスターを押しのけながら進んでいく。
モンスター達の中心に魔王メルセデスと王女ルカティアが寄り添っていた。
メルセデスは漆黒のローブを着ている。頭には羊のような角が生えており、緑色の髪が肩までゆるくウェーブがかかっている。瞳は翡翠で引き込まれそうな美しい色をしていた。
ルカティアは黒髪で雪のような肌をしていて、純白のドレスで身を包んでいる。体調が悪いのか床に寝かせられている。
「なぜボクたちを攻撃しなかった」
「君がモンスターを攻撃させてこなかったから」
魔法が使えない状況であったとしても、一体ぐらい奇襲させても良かったし、モンスター達の防衛本能を引き上げて、来る者全てを殺すような状態にも出来たはずだ。
なのにそれをしなかった。
対話する余地は十二分にある。
「ボクが怖くないのか?」
「俺も魔王だ。レニの奴からルカティアの回収とメルセデスを殺すように言われてきている」
「……お願いがある。ボクの事は君の好きにしていい。殺そうとも辱めようとも、何してもいい。だから、ルカティアだけは、ルカティアの事だけは助けてあげて欲しい」
レニから聞いた話の印象だと、人をゴミみたいに扱う凶悪な魔女だったのだが、ここにいるのはルカティア大好きなボクっ娘だ。
さてどちらが正しいのだろうか?
メルセデスが演技している可能性もあるし、レニが嘘をついている可能性だってある。
だから、
『―――わたしではどうにも出来ないから二人を助けてあげて』
マルーの言う事を信じようと思った。
しかしマルーではどうしようも出来ない事ってなんだ?
「本当に何でもするんだな?」
「あぁ何だってする。股から切り裂いて殺されようと、全裸で街中を歩かせたあげくに穴と言う穴の全てを陵辱されようと、四肢を全て切断された上に、その四肢を食べさせられようと」
「誰がそこまでするといった!」
滅茶苦茶引く。
俺は覚悟のほどを聞いておきたかっただけなのに、どうしてこうなった?
「もっと凄いのか? 魔王の名にかけて、どんなプレイにも耐えてみせると約束しよう」
メルセデスは小首をかしげて不思議そうにしている。
厭世と言うか、世間的に嫌われている理由を垣間見た気がした。
「本当はそういうことをやりたいのか?」
「ルカティアを助ける為ならどんな事だって出来ると言うだけだ」
「レニはルカティアが死んでいたら王冠だけ持って帰れと言っていたからな。王冠だけくれればそれで良い」
「そういうことでは無い」
メルセデスはルカティアのスカートをめくった。
足にはビッシリと魔力刻印が刻まれていた。
「レニの奴に呪われた。ボクがどうにかして進行を遅らせていたが、あと三日が限度だろう」
リースがルカティアの額に手を当てる。ルカティアは悪夢でも見ているようにうなされている。
「古式な呪詛ですね。現代でこの呪詛の使い手がいるとは思いませんでした。」
「治せるのか?」
「勇者の剣から出ていた癒水から霊薬を生成すればそうですね。一日あれば作れるでしょう」
「あの剣を引き抜いたのか!? これで証を探す手間が省ける」
正確に言えばへし折ったなのだが、まぁこの際説明しない方がいいか。
「薬学、錬金術のスキルツリーって持ってたっけ?」
「スキルツリーなんて無くても薬学ぐらい出来ます、エンジュもスキルツリー無しで魔法を使っているのでは?」
スキルツリーはある一定レベルまで簡単に使えるようにしてくれるだけで、ちゃんと修練を積んでいる人間にはかなわない。
もっとも、修練で出来ないようなことも平然とやってのけたりもするわけで。
「とにかく応急手当をしましょう。その合間にメルセデスがどうしてルカティアをさらったのが教えてもらえますでしょうか」
リースが応急処置をしている最中にメルセデスは淡々と自分とルカティアの話を始めた。
「事の発端は一年ほど前のことだ。
レドニクに戦鉤爪が襲来して国が滅茶苦茶になった。
どうにか追い返す事は出来たのだけど、若い男達は死に、娘達は連れ去られ、農地は焼き滅ぼされてしまった。
特に問題だったのは軍隊だ。
このまま他国に侵略されたら滅ぼされかねない。
そこでボクに白羽の矢が立った。
モンスター達が襲われない土地をもらう事を条件に、モンスター達をレドニクの軍隊に貸し出し、先代の王の相談役として城に出入りするようになった。
その時にボクはルカティアと出会った。
最初は無口で無愛想な少女だと思った。
でも、多くの者達がモンスターを忌避していたのに、彼女だけがモンスターの世話をしてくれた。
ルカティアは優しすぎる子だった。いつも戦鉤爪に殺された人々の事を嘆いていた。
ボクもそんなルカティアの為にこの国の再建に死力を尽くそうと決めた。
そんな日々の中、王が病に倒れ死んでしまった。
ルカティアが王位を引き継いだのだが、そのルカティアも徐々に体調を崩していった。先代の王と病状が被っていて何かがおかしいと思いボクは独自に調査をしたんだ。
レニがルカティアの食事に呪詛を仕掛けていたんだ。
レニは自らが王になってテスへ国を売り渡す気だったらしい。
ボクはその事をレニに突きつけたんだが、逆にボクへ責任をなすりつけようとしてきた。だからボクはルカティアをさらってここまで逃げ込んできたんだ。
国とモンスターをを守れないのならせめてルカティアだけでも守りたかった」
レニから聞いていた話とはまるで別物だった。あの話だけだとよくあるRPGの構図で解りやすかったんだけどな。
にしてもそれだと色々面倒な事が増えるな。
「ルカティアの王冠だけを取り戻してもレドニク王国は崩壊するのか」
むしろレニが想定している完璧なシナリオだろう。
「ボクはそこまでの事を望んでいない。ルカティアは悲しむだろうが、ボクには王への恩義程度の価値しか無い。だけどルカティアが望むのなら、ボクは何だってする」




