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メルセデス5

 目を覚ますとミリアが腕の中に居た。ミリアが俺よりも遅く起きるのは初めてだ。

 起こさないようにゆっくりとベッドから起きる。


 ……結局、娼婦来なかったな。レニに伝えればそれとなく用意してくれるような気がする。もうレニからもらう報酬もこれで良い気がしてきた。

 ミリアとリースには聞かれたくないので、さっさとレニに会いに行く。通路をさまよいながら、メイド達から話を聞いて訓練場へ向かう。

 メイド達にレニの名前を出すとあまりいい顔をしなかった。上司が憎まれ口を叩かれるのはよくある事か。

 どうやら朝からの鍛錬がレニの習慣であるらしい。

 訓練場と言っても設備があるわけでは無く、広大な中庭を臨時の軍事施設として使っているだけだった。


「無理だといっているだろ!!」


 レニが叫びながらおばさんを蹴飛ばしていた。


「しかし、そんなことを娘にさせるなんて」

「騎士達がどんな思い出王女を探していると思っている! 国家の危機において個人の意思など知った事ではない! それ以上たてつくならば!」


 レニは剣を振り上げる。

 やれやれ、俺は女性とレニの合間に入り剣を指先で止めた。


「何があったか知らんが殺すのはやりすぎだろ」

「―――運が良かったな。さっさと消えろ」

「ほら、おばさん早く行きなよ。レニとは俺が交渉しておくから」

「あ、ありがとうございます」


 おばさんは礼をすると一目散に逃げ出した。


「んで、何があったんだ?」

「大した事ではありません。国家が危機であるというのにあの婦人は国に協力を惜しもうとしたのです。このような非常時にあのような者が一人でもいると、国の団結が乱れてしまいます。ですからケジメとして処罰を下さないわけにはいかないのです」


 レニの言う事はもっともらしく聞こえた。


「武力による統治は碌な事にならんからやめておいた方がいいと思うぞ」

 その理論は独裁者のする理論だ。

「それに、あのおばさん、えっーと、名前聞いてなかった――」

「エイダ フェザー」

「エイダ フェザーも国民の一人だろ。優しくしてやれよ」

「もちろん優しくしますとも、我々のやり方でね」


 含みのある言い回しに何か突っ込もうかと思ったが止めた。ここで思想をぶつけたところ、お互いの仲に亀裂が入るだけで、結局相手の思想を変える事など出来ない。


「それで、何かご用ですかな? まさかあのご婦人をお助けするために来たわけではないでしょう」

「今晩は娼婦を呼んで欲しい」

「それは失礼しました。ロップの奴隷をお連れでしたので不要かと思いまして」


 ミリアが聞いたら本気で怒りそうだが、そう見えてしまうよな。


「では、その子供と同じぐらいの年齢の子を今夜お連れしますので」

「いや」

「いえいえ、人に言いづらい趣味なのは解りますが、やはり素直になるのが一番かと」

「たまにはお姉ちゃんが良いかな」

「確かに趣向を変えるのも必要かも知れません。では今夜選りすぐりの者を送らせてもらいます」


 話の流れで自分がロリコンであるとカミングアウトする結果になった。

 まぁ……いいか……




 探索スキルを頼りにダンジョンを進んでいく。

「それにしてもどうしてメルセデスはルカティアをさらったのでしょうか?」

「魔王だからだろ?」


 古典的RPGだと理由も無く姫をさらうのはよくある事なので気にしていなかった。理由があっても結婚するとかそんな理由だろう。


「えぇ普通の魔王ならそれでも良いのでしょうね。問題は魔王メルセデスが融解するのはおかしいと言う事です。メルセデスならさらうよりも傀儡にして国を乗っ取ることも出来たはずです」

「魔法使いとして優秀だったりするんじゃないのか?」


 精神を支配するのは強力な魔法である反面、使い勝手が悪い一面もある。魔力による精神障壁によって簡単に魔法を阻害することができてしまう。

 強引に支配しようとするならかなりの実力差が必要になる。


「でしたら、連れ去られたりしないでしょう」

「国やルカティア王女本人ではなくて、物が欲しかったんじゃ無いのか? 例えば王冠とか」


 レニも王冠を取り戻すように頼んできたし、王位を示す以外にも何かしらの能力があっておかしくない。


「それならそれで、王女ごとさらうのはよりおかしくなります」


 知識なら操れば良いし、王冠なら王冠だけ奪えば良い。

 そう考えるとメルセデスがどうして王女をさらったか理解できないな。


「ミリアはどう思う?」


 俺は何となくミリアに話を振ってみた。基本的にミリアは今後の方針に関しては俺に一存しており、こういった話には口出しをしない。


「ご主人様と勇者様が考えて解らないのにミリアにわかるわけないよ」

「とりあえず何か言ってみてくれ、無茶苦茶なのでもかまわない。後で本人から直接喋ってもらうからクイズをするぐらいの気持ちでさ」

「ん~……かけおち?」


 魔王と姫の禁断の恋。周りに反対をされたので城から逃げ出してダンジョン生活。

 ロマンスの溢れる答えだ。


「意外と当たってそうだ」


 操らずにさらっていく理由としては完璧だ。


「メルセデスは女性です」

「そうなのか?」


 レニも特に性別に関しては何も言って無かったな。

 まぁそれでもマルーからもらった探索スキルで、ルカティアとメルセデスを見間違える事は無い。


「彼女は厭世の魔女メルセデスと呼ばれていました。

 闇深き森に住んでいる魔女で、森のモンスター達を支配し、人前には姿を現すことは無いと聞いていたのですが……

 私がバーンランドでさまよっている合間に情勢が大分変わったみたいですが」

「えんせい、ねぇ」


 世界に価値を見いだせない。たしかそんな意味だ。

 そこまで来るとルカティアをさらう以前に、どうやってルカティアの事を知ったのか、森から出る気になったのかが気になってくるな。


「女の子と女の子は恋しちゃいけないの?」

「いけないとは言いませんが一般的とは言いがたいです。種族間を越えた婚姻すら忌避すべき文化は未だに根強いですからね。それが性別となると」

「ご主人様はどう思うの?」


 ミリアの耳がちょっとだけ動く、感心があると言う事だろうけど……

 まさか、……ミリアとマルーってそう言う関係なの?


「個人の勝手だ」


 下手にダメと言って地雷を踏みたくなかった。


「ご主人様はどこまで許せるの? 兄妹が恋するのは大丈夫?」


 と言われても本当に困る。

 マルーに愛しているとは言っているけれど、心から人を愛した事は無い。もちろんリースやミリアは好きだけど、そこに恋愛感情は無い。

 いや、リースに関しては性欲をもてあます瞬間があったりするけど、それこそまた別の話だ。


「好きになったらそんなの関係無い。けど、妹を恋愛対象として見たことはないな」


 素直に尊敬する瞬間はあったけれど、桜を恋愛対象としてみるのは無い。


「そうなんだ」


 ミリアは安心したような不思議な表情をしていた。


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