メルセデス4
先ほどの牢獄からは一転して、ここは天国だと思えた。
ベッドは王族が使うような天蓋付きのベッドがあり、ペルシャ絨毯のようなきめ細かい模様が描かれている絨毯が敷かれている。
この絨毯を日本に持って帰って貿易商になれば大もうけだ。
と言うかそれが出来るならこの絨毯じゃ無くても良いな……
「ご主人様、この部屋すごいね。とっても凄いね」
ミリアが早速ベッドで横になっている。一応ミリアにも一室割り振られていたのだが、ミリアが俺と一緒が良いと聞かなかったので、同じ部屋になった。
そう言うわけで、一つのベッドに二人分の枕が置いてある。
表現は非常に官能的ではあるのだが、ミリアだとそういったお色気のある展開は全く期待できない。
リースだったらなぁ……と思うが、
そのリースと二人きりに成ったときに永遠に暮らそう! と即答出来なかったチキンが俺だ。
夢の中とは言え、あそこは二人で永遠の時を過ごそうがどう考えても正解だった。
一度掘り返された後悔は、芋づる式になって頭の中から沸いてくる。
今回の部屋割りだって、俺一人の個室を選んでいたら、自分で自分を慰める事ができたのに。
いや、まてよ?
個室を選んでいたらレニが気を利かせて、娼婦の一人や二人送ってくれたんじゃ無いのか?
やっちまった!
今更ミリアに別室にして欲しいなんて残酷な事を俺は言えない。
さて、この鬱憤と鬱屈した気持ちををどうやって晴らすべきか。
とりあえず俺もベットに転がる。ちょうど良いサイズの抱き枕もあったので使わせてもらう。
「ご、ご主人様!?」
抱き枕の名前はミリアだ。耳をわさわさするのも良いが、こうやって抱きしめてるのも良いな。抱きしめながら耳を触ってこの溜飲を下らせようじゃ無いか。
理由無き抱きつき&耳なでによってミリアは驚き耳をばたつかせているが、可愛いので良しとする。
「や、やさしくしてください」
「かゆいところはあるか?」
そんな馬鹿な会話をしていると、ノック音が聞こえてきた。
もはや寝るだけの時間で呼び出しもしていないのに来る人間。
そうレニが気を利かせてくれたと考えるしか無い!
もっと冷静に考えれば解ることでは無いか。
(自称)勇者と魔王それにロップの奴隷のパーティで、ロップの役割を考たら姓奴隷しかないと(違うけど)。
つまり、今夜はもう一人増やさなくても良いのか? と言うレニのありがたい心遣いだ。
ありがとうございます。せっかくだから大人の階段を登らせてもらおう。
しかしここまで気を回してしまうレニの事だ。
『魔王様は子供がお好きとは高等な趣味をしてらっしゃる』とか何とか言って、ロリっ娘を派遣してくる可能性がある。
ロリよりもおっぱいの大きい子をください。出来ればおっとりして優しく手ほどきしてくれるお姉さんを希望したい。
夢とか色んな物を膨らませつつ俺は扉を開いた。
……………
「……チェンジで」
「ちょっとそれどういう意味よ!」
マルーだった。
俺の期待と興奮を帰して。
「いや、この際マルーでもいいや、マルー俺初めてだけどよろしくな。大丈夫xvideoで練習はいっぱい積んできたから」
「はぁ? あんた何言ってんの?」
「いや、お前が娼婦として派遣されてきたのかと」
「はぁ!? なんでぇ!? ほんと何言ってんのよ! 変態! どぅへんたい!」
「違うのか?」
女がこんな時間に押しかけてくる理由なんて一つしか無いだろ。俺だって健全な男なんだから少しぐらい期待する。
「んな訳無いでしょ。大体私とレニに全く関係性が無いでしょ」
「だから俺に会うためにわざわざレニに娼婦として自分を売り込んだのかと」
「そんな野暮ったい事しなくても忍び込めるわよ。もダンジョンの中じゃないから性能が落ちてるけど」
ダンジョン内だと神出鬼没で、こういうときには部屋の中に直接現れてきそうなものだ。そう考えると性能が落ちてると言うのは本当らしいな。
そして忍び込んできたと言うのもたぶん本当だろう。
「ほう、つまりココでお前を侵入者として突き出すこともできるわけだ」
「……しないよね?」
「さてどうしようか?」
ここでレニの信頼を勝ち取っておくのも悪くないし、マルーが使えなくなったときの戦鉤爪の動きというのも見られるかも知れない。
戦鉤爪だって軍備の整っている場所に突っ込むような事はしないだろうから、極端な動きはしてこないはず。
まぁ動かなかったら脱獄させてやれば良いし。
試しに言ってみただけなんだが……意外と有りだな。
「ほ、ほんきでいってんの? じょうだんよね? 冗談って言いなさいよ!」
マルーの顔が青ざめてきた。
「まぁここまで来たって事は話があるって事だろ? とりあえず聞くよ。立ち話も難だしとりあえず部屋に上がれ」
マルーは安堵のため息を吐いた。
マルーにあんな悲劇が訪れるとは、この時夢にも思わなかったのです。と勝手にナレーションをつけたくなるぐらい、マルーの無防備さにあきれた。
マルーを部屋に招き入れると、俺は部屋に鍵を掛けた。
男とその奴隷のいる部屋に入ってくるなんて、マルーの迷える子羊レベルの無防備さには感動を覚える。
あるいはそれほど信頼されているのだろうか?
テーブルに行こうとするマルーを制止してベットに腰掛けさせた。
「マルーちゃんだ」
ミリアはベットから起き上がるとマルーの隣に座った。つまりマルーの左右を完全に封じた。
「一度マルーちゃんときちんとお話したかったんだ」
ミリアが人に尊敬的な態度をとらなかったのを初めて見た。
マルーが尊敬されるような事を一切してないし、泣きわめいたり、年齢が近かったりと、話しやすいのかもしれない。
「わたしもミリアだけは味方だと思ってるわよ。他の二人は拳とか、剣とかすぐ振るうんだもの、野蛮ったらありゃしないわね」
「本人の前で言うなよ」
「どーせ言った所あんたは傷つかないでしょ」
「ご主人様はマルーちゃんに酷い事をしすぎ」
ミリアの言葉に少々傷ついたが、マルーの言葉では何も傷つかなかった。
「で、ミリアと話に来たわけじゃないんだろ?」
「えぇそうよ。大事な話があるの」
「と言うわけだからミリア、俺はマルーと大切な話があるので、ちょっと席を外してもらえないか」
「うん」
マルーがミリア側にすりよっていたので、強引に肩をつかんだ。
「二人っきりでゆっくり話し合おう、二時間ぐらい」
「い、意味がわからないわよ! と言うかミリアが聞いても全く問題無いし」
「いやいや、大丈夫だ。天井のシミを数えてる合間に終わるから」
「こんな豪華な場所にシミなんて無いよ。部屋を貸してくれたレニ様に失礼だよ」
「ミリアにも話があるの。ミリアにも話があるから、この男と二人きりにしないで!」
怯えた表情でマルーはミリアの腕にすがった。
「そっかマルーちゃんはミリアと一緒に居たいんだね」
「そ、そうなのよ、ミリアが居ないとわたしってばとってもさみしいなぁ~って」
「マルーちゃんは寂しがり屋さんなんだー」
ミリアはとろけるようににやけながらマルーを抱きしめた。
「で、話ってなんだ」
「ルカティアの場所を教える」
この事態を最初から想定していたかのような話の早さだ。しかしありがたい話でもある。
これ以上はダンジョンをひたすら歩くしか無いと思っていたからな
「お前、ダンジョン内のモンスターがメルセデスによって強化されていることも知っていたな?」
「それは本当に知らなかったの信じて、戦鉤爪様から貴方達をずっと張っているように言われていたから、誰かが侵入していたことは知っていても、それが誰かまでは知りようが無かったの」
「本当か?」
俺はマルーの瞳をじっと見つめる。マルーは目線をそらすこと無く俺の事を見た。
――嘘ついてる時ってどういう瞳の動きをするんだっけ?
まぁいいや、こうしてじっくり見るとマルー結構可愛いな。
俺が表情を見ているのでは無くて、マルーの顔を見ているのがバレると、ぷいっと首をそらした。
「あんたはわたしを買いかぶりすぎなのよ。そりゃ美人で、可愛いとくれば仕事も完璧に思えるかも知れないけど、しょせんわたしは戦鉤爪の手駒の一つよ」
「で、俺たちは代わりに何をするんだ?」
戦鉤爪の手下であるマルーが俺たちに手を貸す理由は無い。
「別に何も、戦鉤爪様とは何も関係無しよ。わたしが、スライムとリザードが合体したモンスターに襲われてから個人的に調べ始めたのよ。ほら手を出しなさい」
言われたとおりに手を出すとマルーは俺の手のひらにスキルツリーを置いた。
「探索のスキルツリー。ルカティアとメルセデスの位置はこの中に入れてあるわ」
「助かるよ。話はそれだけ?」
「―――わたしではどうにも出来ないから二人を助けてあげて」
「ん? あぁ任せろ」
その言葉の意味を俺は理解できなかったが、とりあえず頷いておいた。戦鉤爪的な理由で手を出したいけど、手を出せないって事だと思う。
しかし二人ってどういうことだ?
「マルーちゃん私とのお話は?」
ミリアが耳をそわそわさせながら期待していた。対してマルーはそんなことは完全に忘れていたとばかりに指をトントンさせながら考え始めた。
「ミリアって何歳?」
「13」
マルーと思わず顔を合わせてしまう。
「どうしたの?」
「俺ミリアが10歳ぐらいだと思ってた」
誤差があっても1歳ぐらい。そりゃ大人の3歳ならば大した違いにはならないだろうが、成長期で3歳も見誤るか普通?
13歳ってたしか中学生1年だぞ。10歳だと小学4年。
身長も問題だが、ミリアの言動に幼さを思わせる言い回しが多いから勘違いしたのか?
「わたしも」
「ちっちゃいの気にしてるのに、ひどいよぉ」
結局、俺はミリアをなだめながら寝ることに成った。




