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メルセデス2

 モンスター達の進化はついに最終形態を迎えた。


「スタァァァァァプ!」


 ついに鎧を装備して人間の言葉まで喋るようになった。

……と言うか人間だよこいつら。重装備で中身は見えないが、知的な生命体であることは疑いようもない。

 敵兵は六人こちらは四人と思ったら、マルーの奴はさっさと姿をくらましていた。

 敵兵達は俺たちに槍を向ける。リースも剣を構える。

 一瞬即発の事態だったので、とりあえずリースの剣をたたき落とした。


「なにするですか!」


 怒るリースに俺はそっと耳打ちする。


「ご飯がもらえるかも知れない」


 敵兵6人はそろいもそろって同じ装備をしている。つまりは組織化された軍隊である。軍隊を運営すると言う事は、それ相応の組織力が無ければならない。それ相応の組織であると言うことは相応の資産がある。


 つまりご飯ぐらいはある。絶対にある。


 ここで敵兵を殺したり、拷問したりすれば友好的にご飯にありつける可能性はなくなる。 それどころか、拷問に失敗して彼らがどこから着たのか解らなくなる可能性すらある。 それだけは阻止しておきたい。


「解りました降伏しましょう」


 兵士達の手で俺たちに魔法を防ぐ効果のある手錠をかけられた。まず外せないらしいが、これぐらいなら余裕ではずせるので、あまり危険ではないな。

 と言うわけで俺たちは遭難者から無事に捕虜に格上げされることになった。


 兵士達につれられながらダンジョンを歩く。どうやってダンジョン内でモンスターと戦っているのかと疑問だったが、答えは簡単だった。

 最初から戦ってない。

 神の保護と、モンスターを近づけない匂いに、隠密スキルの合わせ技。そこまでして一体このダンジョンとバーンランドに何の用があるのか?


 それとなく、兵士と会話をしてみようとするが、無口なのか全くの返答無し。道に迷うことなく彼らは歩いて行く。 

 一時間ほどダンジョンの中を歩き、作りの違う階段を登った。


 まず最初に感じた違いは温度だ。


 冬のように寒さがそこそこの薄着である俺たちを襲う。

 バリツによって耐えられるのと寒くないのは全くの別問題だ。もっとも痛覚その物を切り離してしまうことも出来るが、敵に捕らわれている状況でそんなことをするのは自殺行為そのものだ。


 階段を登った先は遺産囲い図書館によく似ているが、あそこほど豪華でもなければ美しくもない作りをしている。兵士二人がこの階段の守衛をしている。もしかしたらこのダンジョンからモンスターが出てくるのかも知れない。


 俺たちはそのまま似たような作りの通路を歩かされた後、持っているアイテムを全て没収された上で、三人まとめて牢屋にぶち込まれた。


「毛布をくれ、寒いんだ。あと飯も欲しい」


 看守がめんどくさそうに毛布をくれたが、それ以上の事は何もしてくれなかった。


「ご主人様どうするの?」


 ミリアが不安そうに尋ねてくる。


「もうちょっと情報が欲しい」


 最初はダンジョンを探索する組織がバーンランド内にあるのだと思っていた。しかしそれにしては様子がおかしい。

 兵士達はモンスターと戦わないし、まずバーンランド内にここまで寒い場所が存在するとは思えない。


 そうなると、金剛眼の住処のように時空間を歪めた、ここにたどり着いたと考えるのが自然だ。

 しかしこの兵士達がエルダードラゴンの使い魔だとは思えない。それならマルーが逃げ出すような事をするはずがない。

 それともマルーはエルダードラゴンの使い魔ではなく、別の勢力である可能性もあるが……


 やはり推論するには情報が足りない。


「リースは何か知らないのか?」

「ここがバーンランドでは無い―――ってことですね」




 三人でここがどうなってるのか話し合ったが徒労に終わった。こういうときに天音の魔法が使えれば看守から好き勝手に情報を聞き出せるのだが……

 カツカツと足音が鳴り響く。ようやく飯が来たか。飯食ったら逃亡するか。

 と思ったら、ご飯では無かった。

 派手な鎧を着た壮年の男と兵士達が俺たちの牢屋の前まで来た。

 男とその部下と思われる兵士達が俺に立て膝を付いた。

 ……この世界ってDOGEZAじゃないんだ。

 ゴブリンもしてたし、マルーにも通じていたからずっとDOGEZ文化だと思っていた。


「これは部下達が失礼しました。魔王アマネエンジュどうかお許しください。」

「エンジュ、魔王とはどういうことですか?」

「後で詳しく説明するからちょっと黙ってくれ」

「私レニ レドニクが、レドニク王国を代表して魔王アマネエンジュに協力してもらいことがございます。どうか一対一で話を聞いてもらえるでしょか?」


 兵士の一人が牢屋の鍵を外し、俺から手錠を外す。


「断る。まず二人の安全を保証しろ。話はそれからだ」

「魔王様のお連れは要人として手厚くもてなさせてもらいます」


 ミリアとリースにつけられていた手錠も外された。

 どうやら敵意は無いみたいだが、俺とミリアとリースを分断させたいらしい。単純に俺だけと話をしたいのかそれとも、戦力を分散させたいのか。

 自分の身を守るだけなら簡単だし、この場所を壊滅させることすら出来る。

 しかしミリアを守るとなると……


「リース、ミリアの事はたのんだ」

「解りました。エンジュを滅ぼした後は私が新しいご主人様として」

「だから俺が魔王扱いされてることについては後で説明する」


 おっかねえ。




 レニに先導されながら通路を歩いて行く。人々が俺たちを見ているが、その見ている人々が多種多様だ。レニのような貴族じみた人も居れば、ミリアみたいな貧困層も入り交じっている。


「ここはどこなんだ?」

「勇者生誕の地シクサルですが?」


 どうやらバーンランドのダンジョンは別のダンジョンにも繋がっていたらしい。もう驚く事でも無いな。日本の風呂よりはよほどまともだ。


「すまない。ずっとダンジョンに居たのでね。どうもここ最近の情勢に疎くて」


 どう情勢が動こうとも場所は変わらないだろ。と言った後に思ったが、レニはそれで納得してくれた。


「レドニク王家の非常事態でして、国民総動員で事態の収拾に努めています」


 レニはここ数ヶ月の情勢を簡単に説明してくれた。


 前国王が亡くなりルカティア姫が王位を継承したのだが、二週間ほど前に魔王メルセデスがルカティア王女を拉致し、シクサルにある試練の間に逃げ込んでしまった。試練の間に住むモンスター達は強くて、私たちではルカティア王女を見つけることが出来ないでいる


 と言う話を英雄譚のように語ってくれた。




 レニの説明が終わる頃にはすでに昼食は終わっていた。庶民的な料理が欲しいとリクエストをしていたので、昼食はスパゲティのような物だった。お味は最高です。


「そこでアマネエンジュ殿にはルカティア王女の救出を依頼したい」


 あのダンジョンで平然と生活していた俺たちなら、ダンジョンのモンスターを倒してルカティア王女を救出にいけると言う事か。


「俺が助けたとしよう、魔王を匿ったとしてレニ達は危なくないのか?」

「その辺の心配はなさらなくて大丈夫です。何、ギルドを誤魔化すぐらい簡単ですよ」

「……そうか。ところで、あのダンジョン試練の間って言うんだな」

「試練の間で証を三つ持ち帰ると、封印されている剣が引き抜けると言い伝えられています」


 俺の中でリースの扱いが、勇者から勇者(笑)ぐらいに格下げされた。

 ちゃんとした勇者もいるじゃなか。


「それで、俺には何のメリットがあるんだ? 先に言っておくけど釈放は無しだ」


 この時点で俺はすでに引き受ける気満々だった。

 魔王メルセデスの能力は心を操る能力らしい。つまり天音の魔法と言う事だ。この世界で使う奴が居るなら是非会ってみたい。

 それとは別に、とりあえずもらえる物はもらっておくに限る。

 とりあえず魔王としての力を見せつけるために、手元にあったナイフを投げてレニが着ている鎧を壊す。

 物質に存在する固有の周波数を当てる事さえ出来れば、ミリアにでも簡単に壊せる。

 だが、それを知らなければ魔法のようにしか見えない。

 本当なら手錠を引きちぎってやるのがベストなのだが、手元に無いのならしょうがない。

 鎧が砕け散り中に着込んでいた鎖帷子の姿になったが、レニは慌てる様子を一切見せなかった。


「捕まったんじゃ無い。捕まらせてあげたんだ」

「さすが魔王様。それだけの力があると心強いですな。報酬は我々が用意できる物でしたら何でも用意しましょう」


 それが一番困る。

 俺が捕まった理由は美味しい物が食べたかったからで、もうけっこう満足している。

 今まで問題だった衣食住の事は要人として扱われている限り全て解決してしまう。


「そうだな。考えておくよ」

「ではルカティア王女の救出と魔王メルセデスの討伐をお任せしてもよろしいですね」

「任せろ」

「それと、もしも、もしも王女が死んでいた時ですが、その時は王冠を持って帰ってきてください」



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