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メルセデス1

 金剛眼を倒してからひたすらダンジョンを潜る日々が続く。エルダードラゴンにたどり着くヒントは未だ無し、代わり映えのしない毎日……

 と見せかけて実際はけっこう変わっていて困惑している。


 まず一つ目、マルーが俺たちの後を着いてきている。

 俺たちから姿を隠そうなんて気を一切見せず、後ろからついてくる。


「仕事はどうしたんだ?」 

「暇な時期に入ったのよ」


 悪態をつきつつ背後から襲ってきたアイコリッド(よく解らない不定形モンスター)を2メートル近くあるランスで葬る。


「だったらあんたら見てた方がまだマシよね」


 ……どう考えても戦鉤爪がマルーを使って俺たちを監視している。帰還スキルを渡してくれたのも戦鉤爪の命令と考えてほぼ間違い無さそうだ。


「本当に暇な時期に入ったのか?」

「ほ、ほんとうよ! 本当に決まってるでしょ!」

「本当はリストラ候補に入って閑職に追い込まれただけじゃないのか?」

「そんなわけ………ないわよ!」


 一瞬躊躇する辺りどうやら何かしでかしたらしい。初めて会ったときにダンジョンの神と言った瞬間から株価の暴落が止まらない。


「俺たちと一緒に戦鉤爪を殺しに行こう」

「お断りよ。わたしには、わ!た!し!の!事情ってのがあるんだから」




 二つ目、モンスターが強くなった。

 モンスターがどれほど強くなったところ、バリツの敵ではないが……問題はその強くなる方法が不自然であると言う事だ。


 最初は違うモンスター同士が同時に出現するだけだった。

 一部のモンスターを除けば、モンスター同士は敵対関係であり、同時に出現することは希だ。

 たまにはあるだろうと思い気にせず殺し、ドロップアイテムを回収していた。


 次にドロップアイテムが減った。

 正確に言うと、すでに食べた跡のあるパンや、食べ終わった後の骨、折れた杖、と言った不良品が増えてきた。

 マルーに聞いても「知らない。わたしのせいじゃない。リストラ候補じゃない!」としか答えない。



 

 そして最後に……


「マルー聞いてんのか!! これは明らかにおかしいだろ!」


 ボーンリザードとブラッドスライムの組み合わせ、そこまでならまだ理解の範疇だ。

 しかし、骨だけで構成されているボーンリザードの体にブラッドスライムが入り込んでいる。

 ブラッドスライムがボーンリザードを捕食しているのならまだ解るが、ボーンリザードは一切溶けていない。


 つまり、ボーンリザードの弱点である打撃攻撃をブラッドスライムによって補い、さらにブラッドスライムのコアをボーンリザードの骨の中に収納することによって、ブラッドスライムも弱点を補う事が出来ている。


 これがモンスターの知性で行えることなのだろうか?


「知ったこっちゃないわよ!」


 マルーがランスで一刺ししようとするが攻撃が外れてしまう。

 マルーの攻撃は間違い無く当たってはいた。しかしスライムに打撃攻撃など意味をなさないし、リザードの部分もスライムによって、別の場所に移動していた。

 ボーンリザードが打撃に弱かったのは、一度骨が外れてしまうと、戻すのに時間がかかってしまうからだ。

 スライムリザード(命名)は骨をスライムの中に入れることによって、本来ならば存在するはずの骨の可動域を完全になくした。

 つまり、リザードの形を保つ必要性が全く存在しないと言う事だ。


 スライムリザードはランスを伝ってマルーに近づき、ボーンリザードの形を取り戻して、マルーに殴り掛かる。


 ボーンリザードの骨は呪詛によって作られている。一度攻撃を直に食らってしまうと、その呪詛が体を蝕み、精神面を狂わせる。

 そして精神が狂った所を見計らいブラッドスライムが肉体を解かす。

 完璧なコンビネーションだ。


 マルーを押し飛ばし、俺が代わりボーンリザードの呪詛を喰らう。

 頭が割れるような頭痛、切り裂くような悲鳴、漆黒の視界、寒気。

 一瞬にして、最悪の風邪みたいな状態に変貌してしまう。


 バリツで鍛えた集中力ですら、そのまま気絶しそうになってしまう

 ブラッドスライムがそのまま俺を飲み込もうとする。


 良かった。


 まだ完全に弱点を克服している訳じゃないことに感謝しないとな。


 俺は自分の体ごと燃やした。


 ブラッドスライムも、ボーンリザードも、その攻撃方法は近接攻撃のみ。

 つまり俺を殺そうと思うなら一度近づかなければならない。

 なら俺の周囲そのものを攻撃すれば、攻撃してくるブラッドスライムも、ボーンリザードもそのまま殺せる。


 一万度を超える超高温によってスライムリザードを一瞬にして葬る。

 高温から自らの体を守るために、魔力を消耗しすぎたのか、そのまま俺は落ちるように気絶していった。



「ごしゅじんさまぁ!」


 突進するような勢いでミリアが抱きついてきた。

 朝の挨拶にしては度が過ぎる。と思っていたら、リースが俺に魔法を掛けていたのでどうやら朝ではないらしい。


 リースが俺より先に起きている可能性はない。


 では、何があったのか? ミリアを撫でながら城壁の周りを見回すと、少し遠くの場所でマルーが俺の事を見ていた。視線が合うとすぐにマルーは視線をそらした。


「もう無茶しないでくださいね」


 リースは継続して俺に魔法をかけ続けている。

 そうだ。俺はマルーをかばうためにボーンリザードの直撃をもろに喰らったんだ。リースがかけてくれているのも解呪の魔法だ。


「……すまなかった」


 こんな事態になったのも己の力を過信しすぎたからだ。もっと、もっと強くならなければ……


「それにしても驚きました」

「あぁ」


 ボーンリザードとブラッドスライムが知性を持ったとしか思えない連係プレイ。

 何者かが操っているとしか思えないが……


「エンジュは水魔法以外もあんなに上手だったのですね」


 ………………そう言えばリースの目の前で水以外の魔法を使うのは初めてだった気がする。

 天賦の才によって使える属性が決まる……訳ではなく、単純な習熟度の問題として大半の魔法使いは一つ、多くて二つの属性あるいは魔法を極める事が多い。

 天音の人間なら、天音の魔法にプラスアルファに一つが基本。

 俺の場合は一般的な物は全部極めている。

 もっともこれは人よりも多い魔力量を使ったごり押しであり、純粋な魔力効率の話になると極めている魔法使いからいくらか見劣りする。、


「いや、魔法じゃなくて、モンスターの方だよ」

「不思議なモンスターでしたね。私のガイドブックにも載っていませんでした」

「……あれはどう見てもボーンリザードとブラッドスライムだろ」


 単体ではどちらも日常的に殺しているモンスターだ。なぜそんなボケが出来るんだ?


「一度まじめに調べないとな」


 戦鉤爪かマルーが嫌がらせの為にモンスターを強化していると思っていたが違うみたいだ。少なくともマルーはモンスターの強化を知らなかった。

 マルーを見る。マルーは俺の方をちょろちょろ見ながら髪の毛をいじっている。


「礼なんて言わないわよ。あんな奴わたしだけでもよゆーだったんだから、むしろわたしの出番取らないでよね」


 スライムリザードに襲われたときのマルーは、虚を突かれた人間の顔をしていた。もしもあのまま放置していたら死んでいた可能性がある。


「怪我してないな?」

「するわけないでしょ」

「怪我してないなら良いんだ」


 マルーはぽかんとしていた後、顔を少しだけ赤くしてうつむき、髪の毛をいじり始めた。


「―――あんたう゛ぁっかじゃないの! う゛ぁーっか! う゛ぁーーーっか!!」 


 言い終わるとマルーは光の粒子になって消えていった。

 確かに馬鹿かも知れない。マルーは敵の手先であり、仲間ではない。それでも俺はマルーを助けられて良かったと思っている。



ミリア日記


名前 アイコリッド


ぐちゃぐちゃでよくわからないのは全部これ

色々種類があるみたいだけど全部これ

マルーちゃんが八つ当たりする相手もだいたいこれ



名前 スライムリザード(ご主人様命名)


形 ブラッドスライムの中にボーンリザードが入ってる。


本来ならそのままボーンリザードが溶けちゃう。

前にご主人様が言っていた合体するスライムはこれなの?って聞いたら

違うって答えてた。

ご主人様が言うには王冠と合体するみたいだけど、

王冠のモンスターなんていないのに……


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