閑話 ダイアモンドバーン2
二日連続の来客にテネブは驚いた。
来客と言えばマルーが月に一度訪れるかどうかであり、そのマルーも直接対面するのではなく、メモで指示していた物資を置いていくだけだからだ。
「久しぶりですね。リース、何年ぶりでしょうか」
「"戦争"の時以来です」
「さぁ早く上がっておくれ」
テネブはミルクと四杯分の砂糖を入れた紅茶をリースに出した。
「覚えていてくれたのですね」
リースはテネブが今でも変わらずに居てくれていることをこの紅茶で確信した。
昔からリースはこの組み合わせでしか紅茶を飲まなかったし、そういったことを細かく覚えており、優しさに溢れているのが、リースにとってのテネブの印象だった。
「単刀直入に言います。他のエルダードラゴンを倒すのに協力してもらえませんか」
テネブはリースの発言に酷くガッカリした。
他のエルダードラゴンの事など、テネブにとっては何の意味も存在しない。例え、戦鉤爪や次元喰らいが世界を滅ぼそうとしても、テネブは止めようとすら思わないだろう。
テネブにとっての世界はすでに終わっているのだから。
「このままでは"戦争"の失敗を繰り返すだけです。エルダードラゴンが持つ"特異点"の力を破棄しなければなりません。
今ならまだ間に合うはずです。
私と一緒に戦ってください」
「もう僕の力なんて燃えかすみたいな物だよ」
「全ての世界を燃えかすにするつもりですか?」
「もう燃えたようなものだよ。
僕にとってこの世界などそれぐらいの価値しかない。
もう放っておいてくれないか。
君も残りの時間を有益に使った方が良い。
"終極"はすぐに来るのだろう?」
「まだトリーヴァの事を引きずっているのですね」
「君に何が解る!」
「貴方よりも解ります。少なくともトリーヴァは今の貴方をみたら悲しむでしょうね」
「あら、またお客さんなの?」
ドロシーが昨日と同じように部屋に入ってしまう。
昨日と違ってドロシーはリースと面識がなかった。
昨日と同じようにリースにはドロシーに見覚えがあった。
「とりー……う゛ぁ…… テネブ! 昔の貴方はもっと勇敢だったはずです! どうしてこんな事を」
「僕の悲しみなど君に理解されたくない! さっさと出て行け!」
「三日待ちましょう。
その合間に決めてください。"特異点"の力を使った時点で敵対行為とみなし殺しに来ます。
どうすることが貴方にとって、いいえ、トリーヴァにとって有益なのか。テネブ、貴方なら解ってくれるはずです!」
リースは立ち上がると扉から出て行った。
「ねぇトリーヴァって―――」
「五月蠅い!偽物!」
テネブはドロシーの体を払いのけてしまった。血の気が引いていく。自分のしたかったことはこんな事ではない。
テネブはドロシーを見捨てて部屋から出て行く。
リースがテネブのことを知っているように、テネブもまたリースのことをよく知っている。
リースが三日待つと言うならば、それは間違い無く本当であろう。"特異点"の力を使った時点で敵対行為と言うのも本当だろう。
テネブは複雑な通路を通っていき、実験室の扉をあける。
暗く血なまぐさい匂いを放つ実験室の中で、テネブは脇目を見ずに巨大水槽に向かった。
「結局僕には君しかいない」
テネブは水槽に語りかける。
「予定は狂ったが大丈夫だ。三日、三日あればうまくいく、最後のピースもそろった。後は魔力の供給だ」
テネブは試しにリースにバレない程度の"特異点"を燃やしてみる。
テネブはにやりと笑った。
魔力の供給すら簡単にできると解ったからだ。




