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閑話 ダイアモンドバーン1

 起きると教会のような真っ白な部屋の中だった。

 ドロシーはどうして自分がここに居るのか解らなかった。

 自分は仲間と奴隷を引き連れて、四大魔王の一人魔王ランボルギーニ討伐の為に船に乗り、船がドラゴンに襲われて――。

 そこまでは覚えている。

 しかしそれ以降は何も覚えていない。


「お目覚めになりましたか」


 ひょろっとした白衣の男がコーヒーを持ってドロシーの所まで来た。

 男はテネブと名乗り、ドロシーを海岸で見つけて介抱したと説明した。


「何も無い場所ですが、ゆっくりしていってくださいね」

 そう言うと男は部屋から去って行った。





 ドロシーは人間など信じてはいなかった。

 今では冒険者として活躍をしているが、幼少の頃は窃盗と強盗を繰り返していた。

 他者を出し抜くことが生きていくために必要な事だとドロシーは理解していた。


「すみません。僕はあまり料理が得意ではなくて」


 テネブがドロシーに出した食事は奇麗とは言いがたかった。美味しいと褒められた物でも無い。しかしドロシーは何も言わなかった。


「お気に召しませんでしたか?」

 無言。

「この場所は色々素敵な景色が見られますよ。後で一緒に見ましょう」

 無言。

「衣服は僕のと実験用のしかありません。取り寄せるので待っていてください」

 無言。


 会話とは心を通わすこと、搾取する対象に情をかけるのは二流だ。




 ドロシーが喋らないのもお構いなしにテネブはドロシーに尽くした。


「今日は、美味しく作れたと思いますよ。料理というのはこんなに楽しい物だったのですね。僕一人では解りませんでした」


 ドロシーは喋らない。

 ドロシーが知りたいのはテネブのことではない。テネブの財産がどこにあるかだ。


 ドロシーはテネブに連れられて色々な部屋を巡った。


「カニア城からの眺め」

「ここは鉄の世界の夜景。この広がっている光は星ではなくカガクと呼ばれる魔法で作られてます」

「最北端。あの鳥はペンギンと呼ばれてますね」


 ありとあらゆる場所であり、テネブはそういった場所に来るたびに歯が浮く台詞を噛みながら言った。


 ドロシーにはテネブの生活が理解出来なかった。ある時間になると幽霊のようにテネブは家から消えていく。


「料理……料理作りたいの」


 ドロシーは料理をまともに作ったことがなかった。しかしこうでもしなければ台所の場所が解らない。

 台所の場所が解れば魔法銀の食器の位置も解るだろう。

 もっと莫大な資産をこの男は持っているだろうが、ドロシーは妥協するしかなかった。

 ドロシーの作った料理は散々な物だった。今まで馬鹿にしていたテネブの料理以下であり、ミリアの料理とは比べものにもならなかった。。


「ありがとうございます。とても美味しいです」


 それでもテネブは美味しいと答えた。




 決行の夜だった。幼少の頃に学んだ鍵開けを使って部屋から脱出。

 台所に行き魔法銀の食器をあるだけ持っていく。音を殺しゆっくりと歩いて行く。

 ここがどこだか解らないが、ある程度あるけば人里ぐらいはあるだろう。

 しかし、


「どうかなさいましたか?」


 テネブにあっさりとバレた。


「迷子になったのですね。気をつけてください。ここは空間が入り交じっているのでどうしても複雑になってしまうのです」

「馬鹿じゃないの!」


 ドロシーの限界だった。

 優しさは心に触れる。傷つけずに触ろうとしても心は砂のように脆い。


「どうして盗んで逃げようとしてる私にそんなに優しく出来るのよ! あんた馬鹿よ! 大馬鹿者よ!」

「――――貴方の事が好きだからです」


 テネブの瞳に偽りは無かった。

 ドロシーの心にあった外壁は崩れた。




 槐とミリアが部屋を立ち去った後、ゴブリンも帰還魔法で村に帰っていき、ドロシーとテネブの二人が部屋に残された。


「ミリアさんと何かあったのですか?」


 ドロシーの中に葛藤があった。

 テネブに嫌われないために真実を話さないことと。

 テネブに全てを許してもらいたい渇望と。


「……彼女、私の奴隷だったの。あんな笑顔初めて見た。ずっと笑わない子だと思っていた」


 ドロシーは話すことを選んだ。ドロシーに生きるための貪欲さと狡猾さはもう残っていなかった。

 ドロシーは自分の事を話した。幼少の頃、冒険者だった頃、ミリアに酷く当たったこと。

 全てを話し終わる頃にはドロシーは泣きながら喋っていた。

 これでこの生活も終わると言う確信がドロシーにはあった。

 それでも良かった。

 自分にも人並みの優しさがあり、世界には本当に優しい人がいるのだとドロシーは気づけたからだ。

 テネブはドロシーを抱きしめた。


「大丈夫ですよ。きっとよくなれます」


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