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図書館4

 さて、帰ろうかと思った時にこの間見かけたのと同じゴブリンを発見した。

 すかさず本棚の後ろに隠れてゴブリンの様子をうかがう。

 ゴブリンは垂直に1メートル飛んで、本棚から本を取っている。ぱらぱらとめくるがお目当ての本ではなかったらしく、また飛んで本棚に戻している。

 どうやらこっちには気づいていないな。


「ご主人様、ミリアはお肉が食べたい」


 俺としては見逃してやりたい。と言うかゴブリン肉は食べたくない、しかしミリアの頼みとあってはしかたないか。


「ゴブリンって集団で活動するんだよな」

「そうだよ」

「あいつ一体しか居ないな」

「不思議だね」

「もしかしてあいつを追っかけていれば、ゴブリンの集団に会えないか?」


 集団活動が基本のゴブリンだ。逃げるとしたらその集団の巣だろう。


「もっといっぱい肉が食える」


 ミリアの耳がぴくっと動いた。肉。素晴らしいフレーズだ。たぶんこの単語は神様が作ったに違いない。

 どのぐらいの速度で走るのか解らないのでミリアを肩車する。

 この図書館で見失うと大変な事になるからな。


「ハイ! ニィ! ヤッ!」


 雄叫びを上げながらゴブリンに向かって走って行く。

 しかしこのゴブリンがかなり速い。体が小さいくせに縦横無尽に飛び回る。 本棚を蹴って道無き道を駆け回る。

 それに対応して俺も無茶苦茶な飛び回り方をする。ゴブリンに出来ることはバリツでも出来る。


 問題は……


「こわいぃいいいぃいぃいぃぃぃいいいい!!!

 おろしてええええぇぇぇぇぇえぇぇぇ!!!!!!」


 肩車されているミリアかな。ヘッドロックするみたいに俺の頭をつかんでる。

 膨らみが存在することにちょっと驚きを隠せない。

 足をがっしりつかんでいるから、振り落とすような事は無いが、振り回している事実は変わらない。


「くぉぉぉおおららあああああ! 図書館ではしゃぐなぁぁぁあぁぁああぁ!!!!」


 マルーまで飛んできた。

 ゴブリンと俺とマルーの三人でおいかけっこ、まるで青春の一ページ。こんな瞬間がずっと続けばいいのに。

 ごめん嘘。

 ミリアの為にもさっさと終わらせないとね。


 終わりと言うのはあっけなく訪れる。

 ゴブリンは自らの周りに魔方陣を作りあげる。帰還魔法を使うときに見たのと同一の魔方陣だ。

 あの魔方陣の中にいれば同じように移動することが出来る。

 この世界の帰還魔法が安全なのは身をもって体験済みだ。

 俺はゴブリンとの距離を一気に詰めて魔方陣の中に入った。




 真っ白な視界が徐々に晴れていく。

 燃えるように大地が煌めいている。

 いくつもの衛星が空に浮かんでおり、ここが地球でもミリア達の世界でもないことが解る。

 ゴブリンは仲間達の居る洞穴に走って行く。洞穴のすぐ横には近代的な扉が浮いている。状況を察したのか、ゴブリン達が洞穴からナイフを持って出てきて俺たちを取り囲んだ。


「とりあえず冷凍しておけば良いか?」


 これで当面の肉を確保出来る。俺は食べないけどな。

 ゴブリン達が何かを騒ぎ立てる。翻訳されているが、騒々しくてまともに聞き取れない。


「シズマレ」


 ゴブリンの喧噪が一瞬にして止まり、全てのゴブリンが杖を持ったゴブリンを見つめた。

 杖持ちのゴブリンが俺たちに近づいてくる。


「タスケテホシイ」


 ジャパニーズ謝罪スタイルDOGEZAであった。

 杖持ちがDOGEZAしたのに合わせて他のゴブリンもDOGEZAを始めた。このゴブリンがゴブリンの王様と見て間違い無いみたいだ。


「命乞いか?」

「チガウ。コンゴウマナコサマヲ、タスケテホシイ」


 金剛眼、リースが殺そうとしているエルダードラゴンの一人で、マルーが言うにはヒキコモリ、集めてた本から察するには非モテ。

 俺たちが金剛眼を助ける道理など無い。

 しかし困っている理由を聞く価値はある。うまくいけば簡単に殺せるかもしれないからだ。

 聞き取りにくいゴブリン王の話を長々と聞く。話は抽象画のようにぐちゃぐちゃで、知性はあるが知的とは言いがたい。


 そう言うわけで要約。

 いつも私たちと定期的に交易してくれる金剛眼が最近来なくなってしまった。彼は病弱な男なのでもしかしたら倒れているかも知れない。私たちから連絡を取りたいが、私たちだけではこのダンジョンを攻略することは出来ない。

 そこで村一番の勇者であるゴブ太郎(仮名)に追いつける貴方達に頼みがあります。金剛眼の安否を確認して欲しいのです。もちろん報酬は差し上げます。

 と言う話が時系列順に語らた。

 この時系列順というのが問題で、全く関係の無い夕飯の話や、洞穴でのいざこざ。ゴブリン同士の結婚の話などがセットで語られた。


「ご主人様はどうするの?」


 ミリアはおっきなあくびをしながら尋ねてきた。寝なかっただけ偉い。


「助けようかなと思う」


 渡りに船と言った所だ。むしろこちらが報酬を払いたいぐらいだ。さっさとエルダードラゴンを倒してリースに船を回収してもらおう。


「ユウシャドウコウサセル。タノンダ」


 ゴブ太郎(仮名)に先導され図書館の中を歩いて行く。マルーの居る階層から少し離れるだけで、ここはダンジョンなのだと思わせるような複雑怪奇な道になっている。

 にしてもよく迷わずに歩いて行けるな。

 それとなくゴブ太郎に尋ねてみた。


「スキル帰還。ツヨイ」


 こいつ、スキルツリーを理解しているだと!

 俺ですらスキルツリーはリースに付けてもらっているのに!

 これが村一番の勇者の実力か……


「ミリアが金剛瞳の場所覚えておくよ」

「あぁ頼む」


 図書館の内装を見ながら歩いて行く。この図書館はルネッサンス建築物みたいなので見ていてかなり楽しい。

 すでに三階階段を降りて、一回階段を登っている。その階段の長さもバラバラで意図的に自分がどこに居るか解らないようになっている。


 さらに階段を降りる。

 降りた先は石造りの通路だった。壁には灯籠がつるされていて、まさにダンジョンと言った風貌をしている。


 ミリアが耳を少しだけ動かした。


「なにかいる」


「キラーガクル」


 キラー、殺人者か、スキルツリーを理解する村一番の勇者が恐怖する相手だ。

 そこそこ強いに違いない。楽しみだ。

 バリツの構えを取る。神経を研ぎ澄ませる。

 直感スキルを使って、相手の予測を立てようとするが、ベジタブル! と出てきて全く役に立たない。


「アイツ、ミンナタベタ、カタキ、カタキ」


 1メートルほどの赤い玉のようなものが見えてくる。

 超高速で転がってくる巨大トマトだった。


 直感スキルが当たってたなんて…・・


 とりあえずゴブ太郎とミリアをつかんでトマトを回避する。確かにあの速度は人もゴブリンも殺せる。

 にしても、バーンランドだとトマトの方が食物連鎖が上なのか。


「ミリアはケチャップとトマトジュースどっちが好き?」

「ケチャップ!」


 ……ケチャップの作り方知らないや。まぁミンチにすればトマトジュースにはなるか。

 そう言うわけで、キラートマトをミンチにした。

 これでバリツは料理することにも使える万能拳法である事がここに証明された。

 バリツが流行らない地球は間違っている。


「……ご主人様血まみれだけど大丈夫?」

「……大丈夫だ」     


 手づかみでトマトを引き裂いたからトマト汁が全身にぶっかかってしまった。

 ……トマトの種は採取できたので、後で畑に植えるか。


 その後もトマトとの戦いが続いた。集団で現れるトマト、イヤーマフを付けて天音の魔法対策をするトマト、とにかく様々なトマトと戦いながらダンジョンを突き進んでいく。


「ご主人様、ほんとにトマト食べる気なの?」


 トマトはナス科の植物だから最初は食べられていなかったと、地球産ガイドブックであるwikipediaに書いてあった。

 もしかしたらこの世界にはトマトを食べる文化がないのかも知れない。


「ミリアはトマト嫌い、ぐちゅぐちゅだし、すっぱいし、げぇげぇするの」


 ただの好き嫌いだった。


「トマトを食べないとバリツで強くなれないぞ」

「絶対食べない」

「どうして!?」


 ミリアはバリツの何が嫌いだと言うのか? 今後のバリツの為にも、バリツを使った戦隊物を放送すべきだと考え始めたぐらいで、ゴブ太郎が足を止めた。


「ココ、コンゴウマナコサマ」


 石壁だらけのダンジョンで一カ所だけ不自然に扉があった。

 と言うかどう見てもマンションとかアパートの扉だ。

 さてどうしよう?


 この世界の常識は地球の非常識だったり、ゲーム的な事がおおかったりする。

 ゲームにおける扉と言うのはトラップである事が多い。しかもこんな不自然さバリバリなドアだ。


 何か無い方がおかしい。


 TRPGだと扉に耳を当てたり、鍵穴から部屋を確認してから入るのが鉄則だ。

 少なくとも直感スキルを使わない理由はない。

 と考え込んでいる合間にゴブ太郎が扉の隣にあった呼び鈴を押してた。

 地球で聞き覚えのあるピンポーンの音が響く。

 ミリアが呼び鈴を押したそうに指を突き出していたが、止めた。呼び鈴連打はスゴイシツレイにあたる。

 扉開けた瞬間に一斉放射される。と言うことはないはずだ。一応ゴブ太郎が連れてきた客人と言う扱いだし。

 直感スキルは安全と言っているが、どこまで信じて良いか解らない。

 いつでもバリツが出来るようにしておく。

 扉が開く。


「どなたでしょうか?」


 三十代ぐらいの白衣を着た男が出てきた。

 髪はぐしゃぐしゃでヒゲも少し生えている。身長は俺と同じぐらいだが、細身の体をしているために、かなりひょろっとした印象を受ける。

 しかし、思ったよりも非モテっぽくないぞ。髪とか服装を整えたら、女子に人気のある教師みたいだ。


「凄い出血じゃないか! ちょっと待ってくれ、せっかくだから僕の考えた魔法を使わせてもらうよ―――ってよく見たらそれはキラートマトの果汁じゃないか。いやぁ、ビックリさせないでくれよ。とりあえず着替えを持っていくからお風呂に入りなさい」


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