図書館2
俺は自分の翻訳魔法を解いてもう一度本を眺めて内容も確認した。
教科書にも載っている有名な小説で、話も俺の知っているヴァニラ冒険記と同一の物だった。
「ご主人様?」
俺はとりあえず床をぶちこわすことにした。
「わたしの事が好きなら床をぶちこわそうとするの止めなさいよ!!」
殴ろうと構えただけでマルーが来てくれた。こいつ俺の事監視してるだろ。
「聞きたい事がある」
「ちょっと叫べば聞こえる距離でしょ! わたしの作業を増やさないで! ……それで、何を聞きたいのよ」
じとーっとした目つきだけど、何だかんだで教えてくれるマルーちゃんにべた惚れになりそう。
「遺産囲いはどこから本を入手してくるんだ?」
「わたしが知るわけ無いでしょ。わたしはね、戦鉤爪様の使い魔なのよ。渡されたのをそのまま整理しているんだから」
嘘を言っているようには聞こえない。そう言えば前にリースがエルダードラゴンは変身できると言っていたな。
つまりこの本は遺産囲いが日本に来て本を買った証拠と言う事か。
「それだけ? 考え込んでるんだったらわたしは帰るわよ」
「ありがとうマルー」
「まぁ、当然よね」
ふふん、と蠱惑的な笑みをマルルンはしていた。
「ご主人様どうしたの?」
「リースに今のこと内緒にしておいてくれ」
「わかった」
とは言ってくれたが、要領を得てはいない曖昧な返事だった。
そう言うわけで俺たちは一度集合場所に戻ってきた。
この図書館はありとあらゆる物が動いているので、集合場所を決めるのも戻るのも大変だ。
ただし一カ所だけ動かないところが存在する。
「私を目印にしないでくれる!」
そうマルーだ。
マルーのために本棚は動いている。つまりマルーは動かない。
さらに机のある場所もここだけで、場所も図書館のほぼ中央。
マルーが好きだろうと嫌いだろうと、ここに集まってしまうのは必然だ。
「こっちは収穫無かったけど、リースは何かあったか?」
「無視すんなぁ!」
「あぁごめん。マルーの仕事を邪魔しちゃいけないと思ってね」
「散々邪魔した人間が言う台詞がそれかぁ!? ふっざけんなぁ! うったえんぞ!」
正論だった。
リースは一冊の本を俺たちの前に出した。
背表紙には"神髄!農作業拳法"と書いてある。よく見ると、幾何学模様も描かれている
が、もしも俺が見ていたら見落としていた可能性がある。
「この本には農耕スキルが入っています」
リースが一ページだけめくると、他のページも勝手にめくられ始めた。
ちょうど真ん中と言う辺りで、めくるのが止まり、光り輝く幾何学模様が空間に投射された。
「畑もありますし今後の食糧事情を考えると、持っていて損は無いでしょう」
「農耕って言ったって、作物を収穫するのに何ヶ月かける気だ?」
短く見積もっても半年はかかるだろ。
「いえ、魔法を使った農耕になりますので、長くても一週間程度で作物は完成します」
「ならあった方が良いな」
「問題は誰が取得するかです」
スキルの振り直しはギルドで無ければ出来ない。バーンランドにギルドなんて物は存在しない。
長期間滞在する為には生活スキルが必要、エルダードラゴンを倒すには戦闘用のスキルが欲しい。
でも気にするような事か。
「俺にスキルツリーを全部突っ込めば問題無いだろ」
ギルドの受付嬢が驚くほどの魔力量がある。農耕スキルに全振りしたところ、さしたる違いにはならない
「ご主人様の経験値、ほとんど残ってないよ」
「どういうことだ?」
「天音の魔法にほとんど全部ふっちゃった」
そう言えば、『天音に経験値を全部入れてくれ』とミリアに頼んだことがある。
俺はインフェルノスライムで手に入れた分を天音の魔法に入れたのだと思っていたが、もしかして。
「ご主人様の持ってる魔力源ほぼ全部いれたの」
俺の努力を天音の魔法にのみ注力したとしても、天気を操る事しか出来ないのか……
「ご、ごめんなさい。ご主人様。ミリアが説明しなかったのが悪いの」
「いや、俺に魔法の才能が存在しなかったのが悪いんだ。ミリアは悪くない」
そうなると経験値が余っているのはミリアかリースと言う事になるな。
「リースはどんなスキルツリーを入れているんだ」
「ドラゴンスレイヤー、
ステップ、
集中、
オートヒール、
睡眠、
食事、
ですね。」
「剣や魔法のスキルは入れてないんだな」
「ユニークスキルや日頃の訓練がありますので、スキルツリーで補う必要はありません。それに訓練しようがない物をスキルツリーで強化する方が最終的には強くなれます」
スキルツリーの魔法はどうしても簡易的な物になってしまう。
それならドラゴンスレイヤーのような、スキルツリーでしか強化出来ない物を強化していく方が重要だ。
「今はドラゴンスレイヤーに経験値を振っておきたいのでミリアに頼みたいのですが、よろしいでしょうか」
「うん」
ミリアが本の上に手を置いた。リースもその上に手を置く。何かをぶつくさと呟くと、幾何学模様は閃光を放ち消えていった。
さて、これで農耕スキルを手に入れた訳だが、問題が一つある。
「それで何を育てるんだ?」
農作業出来ても、農地があっても、育てる作物が無ければ意味が無い。
図書館に作物の種まであるとも思えないし、ダンジョンにあるとも思えない。
あるとしたら地上だろうが、野菜の原種が都合良くあったりするのだろうか?
マルーを強請ったら種を持ってきてくれたり、は流石に無いか。
「ドリアード、ミリアはドリアードが食べたい」
「いっぱいあるだろ。それに木って育つのか?」
実を付けるのに10年単位で時間がかかりそうだ。そこまで来ると漂流したのでは無くて定住したと表現すべき。
「何が育ちやすいのかを知るためにも、ドリアードを植えるのはちょうど良いと私は思いますよ。エンジュの協力があるならドリアードでもすぐ育つはずです」
ならドリアードで良いか。
帰還すると早速農業の準備に取りかかった。
城壁の中にある岩畳で無い場所が畑らしい。現状は草が好き勝手に生えていて畑よりも秘密基地を作りたくなる。
リースはそんな場所から幾何学模様の発光体を取り出した。
大地からツタが伸び、ツタとツタが絡まり合い、木に育っていく。一瞬にして大木が生まれたかと思うと、一瞬に枯れ果ててしまった。
ついでに雑草も消えた。
ミリアがドリアードの種を土に植える。
「これで終わりなのか?」
俺はリースに尋ねた。
「まさか」
リースがやった魔法は凄かったけど、スキルを持っているのはあくまでミリア。今の所ミリアがやったのは種を植えるだけ。
まさか! 種を土に植えるだって! みたいな展開は許されない。おもに経験値的な意味で。
「如雨露で水をまけば終わりです」
……スキルはどこに行った?
「ちょっ―――」
「そうでしたね。如雨露を先に作っておくべきでした。これで作りましょう」
リースはスカートの中から金属を取りだした。どういう構造してるんだ?
俺はリースから金属を受け取る。
魔力を読み取ると土神の属性が付加されていた。
他にも斬撃耐性、交渉、存在感、などと色々付いているが、一番気になるのは
「毒攻撃って大丈夫か?」
ドリアードの果実に毒が付いたら食えなくなりそうだ。
「大丈夫です! 毒のある方が美味しく感じます!」
何も考えずに壊した。食事スキルがある事前提の食事にするな。
しょうがないのでミリアには他の金属を使ってもらう事にした。
土の加護と水の加護の二属性持ちの金属だ。土神よりも大分劣る能力らしいが、毒物よりはマシだ。
前にドラゴンソードを作ったときの要領で如雨露も作る。
如雨露の難易度が高いのか前よりも時間がかかってしまったし、不格好な如雨露になってしまった。
「鍛冶レベルが上がったよ」
「スキルを使ってもあがるのか」
「うん。魔力源を効率的に使えるようになって、経験値が増えたのと同じ状態になるんだって」
「……毎日天気を変えて良いか?」
天の祝福の音を使って他の天音の魔法まで覚えられるなら、俺は喜んで環境破壊にいそしむ。
一ヶ月もすればこの世界の気候そのものが変わっていることだろう
「ご主人様はお天気をなんだと思ってるの?」
「すまない」
できあがった如雨露に古井戸からくみ上げた水を入れて畑に水をまく、如雨露から出る水は星屑のように光っている。ようやく農作スキルの出番というわけだ。
「明日が楽しみだね」
「そうですね」
えっ、これで作業終わり?
「ちょっと待ってくれよ」
あんまりにもあんまりだろ。
「どうかしましたか?」
「農作業ってこれで終わりなのか?」
「えぇ、農作というのは土の神と水の神に頼んで植物を育ててもらう事ですから、エンジュの国は一体何の神に頼んで農作をしているのですか?」
仕組みで言えば鍛冶とほとんど変わらない。
しかし何故か納得できない。
「肥料は要らないのか?」
「捧げ物ですか? 種と水を捧げているではありませんか」
違う。農作業と行ったら定番のアレが足りない。
「ウンコとオシッコを肥だめにためて肥料にしたりとか」
「そんな物を要求する神なんていません!」
リースとミリアが少し後ずさった。そのあとお互いに耳打ち。
「ご主人様疲れてるんだよ。早く寝ようよ」
「私もそれが良いと思います。今日は読書で頭を使いすぎたのでしょう」
……肥だめの話をしただけでこれか。
俺の評価が糞になったのは間違い無い。




