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図書館1

 朝起きると、俺たちは果実を貪り(ミリアの食べっぷりは見ていてほほえましい)もう一度ダンジョンに潜ることになった。


 階段を一歩一歩降りていく。階段は普通の石で出来ているみたいだ。穴を開けて侵入したときの謎物体っぷりはどこに行ったんだろうか?

 ……と、思ったが、光源であるぽわぽわした物体だけでも十分謎か。

 そう考えながら階段を降りていく。

 階段を降りてすぐの手すりに捕まりながら見渡す。


「きれー」


 ミリアが感嘆の声をあげる。

 俺が何も言わなかったのは、あまりの美しさに言葉を失ったからだ。

 まず眼に入るのは壁面に描かれた宗教画だ。絵画は人々の営みや世界の情景を描き、視線誘導されるまま徐々に首を上に傾けていく。


 天井に描かれているのはドラゴンだ。

 大きな翼を広げた深紅のドラゴンの周りを人間やロップなどの種族が頭を下げている。

 絵画に描かれたドラゴンが急に動き出し炎をはき出す。

 その炎は絵画から抜けだし天井を照らす。炎は輪郭を変えて本棚に変わっていき、ゆっくりと地面に落ちていく。

 階下を見下ろすと大量の本棚が行儀良く並んでいおり、壁はルネッサンス建築を思わせる作りになっている。


 本棚が地面に着地した場所には一人の女の子が立っていた。

 タヌ子だ。タヌ子は一冊だけ本を抜き出してぱらぱらめくるとすぐに本棚に戻した。手で追い払うジェスチャーをすると、本棚は勝手に動き出して、他の本棚の中に隠れていった。


 俺は手すりを越えて飛び降りた。目測で三階ほどの高低差があるが、これぐらいの高さなら威力を分散した着地さえすれば、ダメージは受けない。

 タヌ子の前で着地。


「ひぃい!!!」


 タヌ子が驚いて倒れてしまう。俺から逃げようと這いずりながら後退するが、本棚を背にして俺を怯えた眼で見つめる。


「俺たちに帰還スキルを与えたのはお前だろ。」

「常識的な現れ方があるでしょ!」


 初登場時にいきなり出てきたタヌ子に言われたく無い。

 ぱんぱんとホコリを払いながらタヌ子は立ち上がった。


「ところで、タヌ子お前は何をしているんだ?」

「マルーよ! マルー様と呼びなさい!」

「マルーは何をしているんだ?」

「……遺産囲い様のコレクション整理よ。ここの本は他のエルダードラゴン様も使えるように管理しているわけ」

「戦鉤爪の使い魔なんだろ?」

「色々あるのよ。エルダードラゴン様にもね」

「俺たちも本を探してるんだが手伝ってくれないか?」

「お断りよ! わたしは仕事で忙しいの。読むぐらいは見逃してやるから、勝手にしなさいっての!」

「さて、この空間も床をぶち抜いたらループするのかな?」

「なんでぇ!? 虚空間を修復するのだって大変なのに、図書館になったら、わたし滅茶苦茶怒られるんだから! 絶対に止めてよ!」

「ご主人様、マルーちゃんをいじめちゃダメ!」


 こつこつと足音を鳴らしながら、ミリアとリースが歩いてきた。


「いや、いじめたいわけじゃ……」


 こいつは敵だ。殺しても問題無――――というのは嘘で、リースの殺さない判断に俺も従うまでだ。

 この子の反応が可愛くてついついやってしまいたくなると言うのが正解。

 好きな女の子をいじめたくなる男の子の心理と一緒だ。


「マルー好きだ。愛している」


 なので告白してみた。

 好きな子をいじめたくなるのなら、いじめたくなる子も好きだと思う。たぶん。


「なんで、なんで、なんで、今の話のながれ、え!? どういうこと、何言ってるの!?」


 顔を真っ赤にしながら俺を叩いてくる。全然痛くない。


「好きな子をいじめちゃもっとダメだよ」


 ミリアはまっとうな事を言って、


「おめでとうございます」


 リースはボケていた。


「ありがとう」

「勝手に了承したことにすんな!! わたしは良いだなんて一言も言ってない! わたしは告白されるプランを決めてるんだから、こんな無茶苦茶な展開なんてノーよ! 金輪際よ!」

「そうだな。じゃあ本でも探すか」

「なんでよぉ! それはそれでムカって来るんですけどぉ! もっとかまいなさいよ!」


 ほらいじめている訳では無い。これは漫才のような物だ。こういう形が俺とマルーのコミュニケーションだ。


「子供は三人ぐらい欲しいね。元気だったら男の子でも女の子でも良いかな」

「ぶっ飛びすぎよぉ! 話も! あんたの頭もぉ!!」


 ぽかぽか叩くよりもツッコミの平手打ちの方が強かった。そうそうこれぐらいの強さが心地よい。

 なお、これでこの世界にも平手打ちでツッコミをする文化があることが判明した。

 …………どうでもいいな。




 マルーとの楽しい会話もほどほどにして、三人で本棚を漁ることにした。スキルツリーが入っている本は、文章の代わりに幾何学模様が描かれているらしい。

 マルー情報によると、この階層でもモンスターは出るので油断するなとのこと、

 あと破壊するな、

 絶対に破壊するな。

 あと、頑張ってわたしのダーリンみたいな事を言っていた気が……気のせいだった。


 俺たちはリースのチームと、俺とミリアチームの二つに分かれることになった。

 図書館内でも敵が出てくる可能性があるのと、ミリアに翻訳魔法をかけなければいけないからだ。

 本棚の中身は整理整頓されているみたいだが、肝心の本棚が整理整頓されていない。

 魔法に関する本棚が並んでいたと思ったら、次の本棚は歴史についての本、の隣はエロ本棚だったりと忙しい。

 さらに本棚自身も忙しく動き回っている。同じ本棚を調べてしまう事が頻発してしまう。


……にしても、エロ本棚は捨てても良いと思うよマルーちゃん。

 でもマルーちゃんが『遺産囲い様のドっ!変態!』って言いながら整理したエロ本だ。これは使わないとね!


 ……とりあえず今欲しいスキルは日常性活用のスキルだ。

 特にミリアが持っていない錬金術、鍛冶、紡績、建築、が最優先だ。

 ミリアと一緒に一つ一つ本棚を調べていく。

 

 どれぐらい時間がたった頃だろうか。スキルが入っているような本が一切見つからなくて、そろそろリースと成果報告も兼ねて休憩をしようかと言う所だった。


「ご主人様、この本ミリアと同じ名字が書いてある」


 俺はミリアから手渡された本の背表紙を読んだ。


『ヴァニラ冒険記 著 デレク ハートフィールド 翻訳 川上ハル』

 日本で出版されている本だ。  


ミリア日記


 遺産囲い図書館はテスにある大聖堂と同じぐらい素敵な場所でした。天井の絵画も、通路に置かれている彫刻もどれも美しくて今にも動き出しそうだった。でも、入り口が高い場所にあったからとっても怖い。ご主人様が飛び降りた時に、勇者様が隣に居てくれなかったらきっとあそこから一歩も動けなかったと思う。


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