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壁2

 ミリアが恐怖で泣いている合間、俺は内心喜んでいた。

 死ぬことも、傷つくことも、何も感じていなかったミリアが、生きていたいと願うようになっていたからだ。


『ロップはそういう生き方しか出来ないんだよ』


 あんな悟ったような事をもう言わせない。


 ミリアが泣き止むのにそこそこの時間がかかった。


「ゆ、ゆうしゃさまには内緒にして」

「解った。果実を拾い集めようか」

「うん」

「ところで、この木って食えるのか」

「……ご主人様の国は木を食べるの?」


 あぁこれは食わないんだ。でも俺の勘違いにだって理由がある。


「だって動くって事は筋肉があるって事だろ? 筋肉って事は肉だろ? 肉だぞ! レッドキャップと同じ失敗はしたくないからな。だから焼かなかった」


 あぁミリアの俺への尊敬が削れていくのが解る。


「今のはたぶんドリアードだよ。木になりすまして、その果実を取ろうとする人を食べちゃうの。おとぎ話だけだと思ってた」


 ガイドブックにも載っていないモンスターだったのか。


「そうか、じゃあ食べられるかどうかを試した方が良いな。今後のガイドブックの為にも」

「作るけど、食べられなくても知らない」




 ドリアードの果実を大量に拾い。(100は越えている途中から数えるのに飽きた)壁の中に戻った。

 ドリアードの肉は諦めた。切断してみたらどう見ても木にしか見えない。試しにかじってもやっぱり木だ。

 壁の中では未だにリースが廃墟の前に居た。どうやら何かを調べているらしいが、お腹が空いたら勝手に来るだろう。


 今夜の夕食はドリアードの果実だ。

 皮すら剥かずにそのまま食べる。

 みずみずしく、マンゴーみたいな味をしている。


 ミリアの反応を見ようと首を向けたが、一言も発しない。ただひたすらドリアードの果実を貪っている。手が汚れるとか衣服の汚れとか、果汁が口の周りに飛び散ってるとかそういうのは一切無視。


 カニ食ってるときみたいだ。

 ウサ耳が犬しっぽモードに入った。

 一つ目を食べ終わり、二つ目に手を伸ばそうとしたところで、ようやく俺が見ていることに気づいた。


「ご主人様、これすごい!

 甘くてすごいすごい美味しい! ほんとすごい甘い!

 ご主人様ひとつしか食べないの!?

 良いのミリアがいっぱい食べちゃうよ! ご主人様よりも食べちゃうよ!」


 まだ口に残ってるのかもごもごした口調だった。

 俺はドリアードの果実を手に取りミリアに手渡した。


「ご主人様、ミリア生きていて良かった。こんなに美味しい物があるなんて知らなかった!」


 ドリアードの果実>>>>>>>>>>>俺


 が確定した瞬間だった。

 少しだけへこんだ。





「食えよ」


 城壁を撫でていたリースにドリアードの果実を渡した。


「ドリアードですか」

「よくおとぎ話にしか出てこない食い物だって解るな」

「あ、あれだ、お前達と会う前に襲われたことがあるんだ」


 俺たちよりも先に島に居たのだから知ってても不思議じゃないか。ミリアみたいな超反応が見られると思ったのに残念だ。


「にしてもさっきから何を確認してるんだ」

「……何か使える物が無いか調べていました」

「あったのか?」

「畑が使えます、結界が生きてるから少し手入れをすればすぐにでも」


 畑が使えた所植える植物が無いけどな。受肉剣みたいに切ったらその生物の種が出てくる剣でもあれば別だろうが…

 パンを食べるのは夢のまた夢ってところか。


「古井戸も大丈夫ですね。これでウォーターベッドが作れます。もちろんエンジュは作ってくれますよね」


 そんなにキラキラした瞳に見つめられたら否定出来ない。もっとも言われなくても作る気ではあったけど。


「家は無理ですね。中に紡績機や裁縫道具があったのですが、やはり朽ちています」

「家は新しく作るしかないか」

「ダンジョンで寝泊まりすれば良いのでは?」

「最悪それでも俺は良いけどな」


 寝込み襲われたって死ぬような事は無い。ただミリアを守りながらだとさすがの俺でも微妙なラインだ。

 自分が襲われるのなら解るが、その範囲を周りにまで広げた時に反応しきれるかどうか。


「ミリアの為にもそれは避けたい。それでリースは今度どうするつもりだ」

「まずはダンジョン攻略の基盤を整える為にもダンジョンに潜っていこうかと」


 ……矛盾してね?


「ダンジョンの入り口だけあって入ったらすぐに遺産囲いの図書館になっています。探せばスキルツリーが入れてある本もあるはずです」

「なんだ。俺たちが食い物取りに行ってる合間に入ってたのか」

「えぇ、すぐに戻りましたが」

「じゃあ図書館でスキルツリーを探すのが当面の目標で良いのか?」

「私はそうしようかと。エンジュは無理して私の後を追わなくても良いのですよ」


 地上と地下で別れるって事か?


「いや、俺もダンジョンに同行させてもらうよ。蔵書を探すなら三人の方が早いだろ」

「助かります」

「……なぁリースはどうして勇者をやってるんだ?」


 魔王がギルドに指名手配されているから、勇者なんて物はこの世界に存在しないものだと思っていた。

 やはり王様から勅命を受けて、魔王討伐の旅に出ているのだろうか。是非聞いてみたい。


「エルダードラゴンと魔王を倒す、だから勇者と名乗っています」


 ドラゴン殺しの英雄を勇者と呼んでるのか。ゲーム的なのでは無くて、むしろ神話的な感覚か。


「王様から命令されてって訳じゃ無いのか」

「……どうしてエンジュはガッカリしてるのですか?」

「いや、俺の国だとそう言う物だったからさ。ちょっとあこがれてたんだよ」

「あこがれ、つまり格好いいと言う事ですね。 私の事を格好いいと、もっと褒めてもいいのですよ?」


 リースを格好良いと言った記憶は無い。格好良さよりも美人である事の方が優先されてしまう。


 しかもちょっとドジだしな。格好いいは無理がある。

 にしても勇者って自宅警備みたいな自称になるのか。

 世知辛い世界だ。 


「エンジュはどうして私を褒めようとしないのですか? 村人達だって勇者は褒めて伸ばす方針なのに」

「感謝してるだけだろ。それ」


 リースは果実を食べ始める。ミリアとは違って上品な食べ方だ。どちらも皮ごと食べている事実には変わりないけど。


 さて、ドリアードの本体でも切り刻んで薪にでもしようかな。



 ミリア日記


 名前 ドリアード

 見た目 普通の木と一緒。匂いも一緒だからとっても危険

 メモ1 果実を取ろうとしたら根っこに巻き付けられた。ご主人様がいなかったら絶対に死んでた。

 メモ2 ご主人様はやさしかった

 メモ3 果実がとっても甘くて美味しい。毎日これだけ食べてくらしたい。

 メモ4 ご主人様の国は木も食べる……

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