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壁1

 徐々に視界が晴れていく。


「ご主人様無事?」


 ミリアが俺に近づいてくる。どうやらテレポートに成功したらしい。


「あぁ大丈夫だ」


 近づいてくるミリアの頭をノリで撫でながら辺りを見回す。

 まず目に付くのは周囲を囲っている壁だ。壁にはツタが絡みつき、長い時間放置されていた事が解る。


 リースが感慨深く立っている場所の近くに廃墟がある。小屋程度の大きさで、屋根の一部が存在せず、壁もツタに侵食され、そこに生活の営みを見出すことは出来ない。

 俺たちが住むのは無理そうだ。新しく作った方が早い。


 地面には地下へ続く階段と古井戸がある。古井戸は使えるかどうか試すとして、もっと先に試すべき物がある。


 俺の足下に描かれている幾何学模様だ。スキルツリーに似ている。困ったら魔力で調べるのがこの世界の基本で有り、俺もようやくそのルールに慣れて来た。

 かなり高度な魔法で作られた魔方陣で……


「凄いな」


 テレポート問題を魔方陣で解決している。

 解決方法は言葉にすると簡単だ。空間の方を歪め、人間と物体が被るのを阻止している。

 しかし空間を歪めるのは膨大な魔力を消費する。普通に考えればここにあるマナを全部吸い尽くしても足りないが、一体どうやって魔力の供給をしてるんだ?

 しかもこんな高度の魔方陣があると言う事は、


「ここは無人島じゃない?」


 魔方陣だけじゃ無い。廃墟は明らかに人間が居た証拠になるし、立地から考えるとダンジョンにも潜っている。


「でもガイドブックにも書いあるし、普通の人間だとモンスターに勝てないよ」

「なぁ、リースはどう思う」


 リースは廃墟を懐かしそうに撫でていた。


「リース、お~い、リース、戻ってこい」

「勇者様! 勇者様!」


 至近距離まで近づいて喋っても全然気づかない。しょうがないのでエルフ耳に息を吹き替えて強引に現実世界に帰ってきてもらう。

「ひゃうぅううぅう!」


 とっても可愛らしい声だった。


「……違う。決して違う」

「今の反応可愛いな」

「断じて可愛くありません! 私は強くてカッコひゃう」


 息を吹きかける。リースは顔を赤くしながら睨む。

「これ以上やったらご飯作りませんよ!」

「リースは飯作らないだろ」


 基本的に料理はミリアの仕事だ。


「ご飯食べてませんよ」

「……別に困らないんだけど」


 リースの言ってることがピーマン嫌いの子供みたいだ。そんなにエルフ耳に息を吹きかけるのはダメだったのだろうか?


「と言うかご飯だな。とりあえず地上でれたし」


 考えてもわからない事を考えるのは無駄だ。今はもっと大事なご飯がある。


 ご機嫌斜めなリースを無視して、壁に一つだけある人が通れるぐらいのトンネルを歩く。


「ミリアの耳に息を吹きかけたら怒るか?」

「ご主人様はミリアの耳に息を吹きかけたいの!?」


 耳がわっさわっさと動いている。今まで見た中で最大級の動きで耳というか、犬のしっぽみたいになってる。


 喜びすぎだろ。


 エルフ耳とウサ耳じゃ全然別なのか? リースのエルフ耳は横に十センチほど伸びている。対してミリアのウサ耳はかなり長くて、胸元辺りまで垂れ下がっている。


「いや、そう言うわけじゃないんだ」


 本当は長い耳を使って結んでみたい。鼻の辺りで結んで『ミリアはどろぼーさんだよ』なんて言わせたい。


「違うんだ……」


 耳が一瞬にして動かなくなった。ため息まで吐かれてガッカリされてしまった。

 次からは頭じゃ無くて耳を撫でよう。

 早速撫でようと思ったタイミングでトンネルを抜けた。

 トンネルの先はなだらかな丘が広がっていた。

 取ってくださいとばかりに果実の付いた木があった。全長5メートルほどだが、ちょうど手の届く位置に果実が成っている。


 なんだろ? リンゴっぽい形ではあるがオウムのようなトロピカルな色をしていて。まぁ果物なのは間違い無い。


 先住民様様と言ったところだ。早速いただくとしよう。


 ミリアが駆け寄って果実に触ろうとした瞬間だった。


 地面から触手が生えてきた。


 違う。あれは触手では無い。根だ。

 根がミリアを束縛し、木の根元部分が口のように大きく開いた。

 木がミリアを捕食しようとする。


 見方を変えよう。


 木の根っこが表面に出てしまい、根元部分も半分以上裂けてしまい倒れる寸前だと。

 つまりここでの正解はミリアよりも先に食べられて内部から破壊だ。さすがに男一人を口に入れた状態で、ミリアまで口に突っ込むことはできまい。


 口に入るために走り始めると、根っこが妨害しようと手首に巻き付いてきた。

 バリツによって鍛え上げられた手はダマスカス鋼よりも強固だ。

 しかし真価を発揮するには、鍛え上げられた筋肉で振り回さなければならない。


 手首をバインドすることによって、バリツを封じようとするのは良い方法だ。


 普通なら。


 手首を構成する分子を超高速で動かす。分子の動きとはすなわち熱量そのものだ。さらに分子を狙った方向に動かし続けることで、チェーンソーと同じ効果がある。


 つまりバリツに不可能は無く敗北も無い。あるのは自己への探求のみ。


 巻き付いた根を一瞬の内にしてなぎ払う。

 ミリアの拘束が弱まる。

 どうやら一部の根はミリアに絡みついているのと同一の物だったらしい。

 木の化け物も食べる立場と食べられる立場を理解したらしい。

 根の部分が急激に出てきて、後方に走ろうとするがもう遅い。


 口の部分から俺の手刀が入る。

 こうなってしまえばケーキのようにもろい。木はそのまま真っ二つに折れてしまった。


「バーンランドは木まで襲ってくるのか」


 非常識も大概にして欲しい。そろそろついて行けない。


「ミリア大丈夫か」


 ミリアに絡みついた根を丁寧に剥がしていく。最後の一本を剥がすとミリアが抱きついてきた。


「怖かった。とっても怖かった。すっごいすっごい怖かった」


 ミリアの手が強烈に俺を抱きしめる。俺はミリアの肩に手を置いた。


「あんなのがいきなり襲ってきたら怖いのは当然だろ」

「違うの、痛いのも、怖いのも、慣れてるし、我慢できる。でも」


 ミリアの声に嗚咽が混じり始めた。


「死にたくなかった。

 死ぬのが怖いの。

 今も怖いの。

 今まで、

 何時死んでも良いと思ってた。

 やだ、やだやだ、

 死にたくない、死にたくないの、

 もっとご主人様と色んなことしたいの」


 最後は声と言うより泣き声で、俺のお腹の辺りで泣き叫んでいた。

 俺はミリアを落ち着かせる為に耳をゆっくりと撫でた。


「ミリアを死なせたりはしない」



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