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ミリア1

 気がつくとそこは砂浜だった。

 白い砂浜に透き通る海、


 そして目の前を横切る真っ赤なドラゴン。


 翼を含めて全長百メートルを超える大きなドラゴンであり、翡翠のような瞳をしている。

 そのドラゴンが空間に出来た裂け目に飛び込んでいった。


 ・・・・・・どうやら地球では無いみたいだ。

 色々可能性はあるけど一番高い可能性は、存在を消去する魔法が、異世界に転移させる魔法である可能性だ。


 元々人間の存在を地球上から消す魔法だ。消した人間がその後どうなってるかまでは追跡出来ない。


 夢や記憶の錯乱などもあるが、状況を考えれば転移してきたと考えるべきだ。鍔鬼が魔法を失敗するなどありえない。


 それにしてもあのドラゴン、強いのかな?


 強そうな奴を見ると闘いたくなってしまう。


 今回の会議だって桜を人質に取られていたから、素直に受けてやっただけの事だ。あの人数なら一分かけずに全員殺せる自信がある。


 あのドラゴンとも闘ってみたいが、とりあえずはこの世界を散策しよう。

 地球に戻って復讐するのはその後からでも遅くない。




 散策する候補は二つ、海岸線を歩いて行くのと、島の真ん中を目指して森の中を歩いて行くのと。


 前方は海、左手には砂浜が続く海岸線、右手には森林、背後は断崖絶壁になっている。


 とりあえずジャンプで断崖絶壁を飛び越えてみたが、見渡す限りの草原で特にめぼしい物は見つからなかった。


 俺は海岸線を歩くことにした。天音の家から出るなんて二年ぶりだし、海は初めてだ。


 海岸線を歩いて三十分。足下の砂が波に持っていかれる感覚が気持ちいい。


 先ほどのドラゴン以降ファンタジーな物が全く見つからない。それ以前に人っ子一人見つからない。

 全裸になって海を泳ぎたい衝動に駆られるが、それで人間と出会ってしまったら捕まってしまう。

 もちろん俺なら逃げ切れる自信はあるが、全裸のまま逃げてしまったらそれ以降が大変だ。


 前方に黒い点が見える。


 駆け寄ってみると黒い点は木箱だった。漂流物らしい。

 ゲームで言うなら宝箱。異世界といえどもゲームでは無いので大した物を期待せず開いてみる。


 中にはワインらしきボトルが12本入っている。

 とりあえず一本開けて匂いを嗅いでみるとワインの匂いが漂ってくる。食料になりそうな物も見つかっていないので、とりあえず一本もらっておく。


 ワインを飲みながらさらに歩いて行く。想像していたよりも酸っぱくてあまり飲みたくないが、海水を飲むよりはマシだ。


 日差しが少し傾き始めたのにあれから何も見つけられない。


 もしかしなくてもここは無人島らしい。


 文明らしき物と言えばさきほど拾ったワインだけ、それ以降は生命体すら見ていない。森の方へ行けば何かしら発見があるかも知れないが、ここに戻ってこれる自信が無い。


 それとも思い切って海を泳いでみるのはどうだろうか?

 しかしなぁ。文明があるとは言っても、ここからどれぐらい距離が離れているのか想像がつかない。


 そうこう考えている内に、天然で出来た洞窟らしき物が見えた。


 近づいてみると大型トラックでも通れそうなサイズで、トンネルと言った方が正しい。天井が開いているのか上から光が差し込んできており、思ったよりも暗くない。


 ……探検したい。


 むちゃくちゃ強いモンスターとか出てこないかな? 出来れば松明とか、剣とかを持ってダンジョンちっくに行きたいが、手元にあるのはワインボトルのみ、ワインボトルを脳内で剣に見立てて、松明代わりに指から炎をだしていざ、洞窟へ!


 洞窟に入ってみると内部はさらに広がっていた。光が届いて見える範囲でも体育館程度の広さがある。


 洞窟に入ってまず見つけたのが、焚き火の後だった。


 ……なんだ。人間が住めるって事は、ダンジョンみたいにモンスターとか出てこないのか……


 って、人間いるよ! 人間!


 心臓がバクバクしてる。頭が少し眩む。手に力を入れてしまう。

 俺寂しかったんだ。

 寂しいのを隠したいから、テンションを上げていたんだと思う。

 緊張が解けたからなのか思わず笑みがこぼれてしまう。

 肩で笑っているとしだいに体に力が入らなくてその場で崩れてしまう。

 さて、こんなところで座っててもしょうが無いよな。


「お~い」


 とりあえず大声で叫んでみる。

 洞窟で声は何重にも重ねって自分の元に返ってくる。

 ……洞窟の奥から女の子の声が聞こえてくる。

 走ってくる足音もセットだ。歓迎されてるのかな?


 女の子が見えた。


 一瞬妹の桜が来たのかと思った。それぐらい小さい頃の桜に似ている。

 肩まで伸びる黒髪とちょっとつり目の瞳で、すらっとした体型。


 違うと判断出来たのは耳だ。


 本来人間の耳がある部分にロップイヤーのようなウサ耳になっている。

 ぼろぼろのワンピースを着ていて、あまり裕福では無い事がうかがえる。

 女の子は俺に抱きついてきて、泣きながら何か喋っている。聞いたことの無い言葉だけど、何となくヨーロッパっぽい響き。


 ダメ元で翻訳魔法を使ってみる。

 翻訳魔法は俺が天音の家に居たときに作った魔法で、地球上の言葉なら日本語として聞き取れるようになる上に、日本語で話しても相手の言語に翻訳してくれる。

 作ったは良いけど俺しか使えなかったので、天音では全く評価された無かった。こういったことも俺が天音で迫害を受けていた理由の一つだ。


 意外な事に、この翻訳魔法は未知の言語にも対応していた。


「やった! ついに助けが来たんだね! 怖かった! 凄く怖かった!」


 ……どうやら女の子も遭難者だったらしい。

 

 

 

 女の子が泣き止むのにおおよそ五分。俺も遭難者だと告げてさらに五分も泣かせてしまった。


「そうだよね……他の場所ならともかく、この島に助けなんて来ないよね」


 女の子はうつむきながら消えてしまいそうな声で喋る。


「どういうことだ?」

「ここはバーンランド。知性を持つエルダードラゴン達の住処で、最強クラスのモンスター達が独自の進化を遂げてるの」


 そんな恐ろしい島までわざわざ探しに来る奴は居ないと言うことか。

 助けに来たのにモンスターに襲われて被害が拡大しては意味が無い。


「それにミリアを助ける価値なんて無いもん」

「そんな事言うなよ」

「いいの。ミリア、奴隷だから、貴方の国では違うのかも知れないけど、ロップ族は奴隷階級なの。だからミリアの事なんて誰も必要としない。居なくなったら他のを買えばいいんだから」


「俺はお前に会えて凄く嬉しかった。だから誰も必要としてないなんて言うなよ」


 俺は少女の頭をなでた。見た目よりもゴワッとした剛毛だ。

 俺にもそう言う時期があった。自分は誰にも必要とされていない、邪魔だとすら思われている。


 だから魔法を作りあげて自らの価値を示そうとした。

 天音の魔法が使えなくても独自の魔法で自らの力を示そうとした。

 結局、意味が無かった。


 天音が必要としていたのは天音の魔法が使える魔法使い、独自の魔法も強さもその価値基準の前では何の意味も無い。


 そんな俺にとって唯一生きていても良いと思えたのが、桜の存在だった。

 桜だけが何も言わずにそばに居てくれて、それだけが救いだった。


 だから俺もそういう存在でありたいと思う。


 価値観は一つでは無いと、他の価値観もあると、居てくれるだけで救われるのだと、教えたい


「あ、ありがとう」


 少女はきょとんとした表情をしていた。褒められ慣れていない人がいきなり褒められると、喜びよりも先に疑ったり、驚きが先に来たりする。


 この少女もそう言う反応だ。


 あんまり良い生活をしていないのは本当みたいだ。

 最低最悪の無人島だが、そこそこ幸せに過ごして欲しいと思う。


「さっき空間の裂け目に飛んでいったドラゴンが居たけど、それがエルダードラゴンか?」


「次元喰らいかな? 異世界へ渡る力を持ってるエルダードラゴンだよ」


 ならその次元喰らいって奴を説得したら日本に帰れるかな。


「俺の名前は槐だ。天音槐」


「ミリア、ミリア ハートフィールド。これからよろしくお願いしますご主人様」


 スカートの裾をつかんで軽くお辞儀をした。その姿まさにメイド。


「ご主人様?」


 でも俺はミリアをメイドにする気は無い。むしろ妹にしたい。


「ロップ族は奴隷なの、だからエンジュがご主人様」

「そういうの気にしなくても良いんだけどな」

「解りました気にしないようにするね、ご主人様」


 ミリアの無垢な笑顔を見てると毒気が抜かれる。

 無理して価値観に合わない事をさせても、ストレスになるだけかも知れない。

 自分はまともに仕えることの出来ない駄目な人間だと。


 なので適度にメイドとして扱おう。でも小さい子だからな無理をさせないように気をつけないと。


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