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マルー

 ……色々考えるまでもなく、最初に言う事はこれに決まっている。


「どうして出てくるんだよ!」


 逃げる気を無くさせるために威嚇として壁をぶち抜く。

 と言う名目で実験続行。


「呼ばれたから私出てきたのに! どうして怒るの!? もう壁壊す必要ないのに! なんで壊すの!?」


 なんでも糞もあるか!

 壁をぶちこわす理由が無くなったじゃないか!


「それより縄ほどいてよ! わたしってばこのダンジョンを任されてるんだよ! 言ってしまえばダンジョンの神様だよ!? あんまりじゃない!?」

「こいつ使い魔なのか?」


 使い魔って動物じゃないのか。猫とかカラスとか。


「わたしは戦鉤爪いくさかぎづめの使い魔マルー。マルー様と呼びなさい!」

「ところでこいつは食えるのか?」

「わたしがお肌ピチピチのプニプニのスベスベで絶世の美女で、美味しそうに見えちゃうのは理解するけど食べるのはダメよ! もちろん性的な意味もダメ! わたしはとっってもお高い女なのよ! それに初めては――――」


「ご主人様の国は食べるものの基準がおかしいよ。ラドグ族は食べちゃダメだよ」


「しかし、俺の直感スキルは食べられると言っている」


 むしろ美味しいらしい。直感スキルマジ便利。


「食べられるのと、食べてもいいのは違うよぉ。どうしてご主人様の食生活はおかしいの?」


 ゴブリンはオーケーだけどタヌ耳はダメなのか。この世界の食文化の基準がいまいち解らない。


「ひぃい!?」


 タヌ子(マルルルだっけ?)の悲鳴が轟く。タヌ子の髪が床に少し散らばっている。首筋には剣が当てられている。


 リースだ。これだけ見ると勇者様に見える。


「早く戦鉤爪を呼んでください」

「知らない! 知らない! 私知らない! 神に誓って知りません!」


 首はブンブン。涙はぼろぼろ。美少女は形無し。一部の人間にはご褒美。


「命だけは助けて! エルダードラゴン様達には内緒にするから! 内緒にした上にスキルあげちゃうから!」

「でも殺したら結局全部手に入るな」


 罪の無い人間は殺したくない。人殺しを楽しむ異常者でも無い。

 しかし、勇者の敵になるようなエルダードラゴンの使い魔なら、容赦なく殺せる。

 今までだって天音を裏切ったり敵対してきた魔法使い達を何度も殺してきた。

 そうやって功績をあげれば何時か認めてもらえると思ったからだ。


「わたしが管理してるのはダンジョン部分だけだし! わたしが呼んでもエルダードラゴン様は来ないの」


 どうやらダンジョンの神様は偉く無いらしい。


「スキルツリーも凄いのあげる! 地上に出られるのあげるから!」


 リースは剣先で少しだけ髪の毛を切った。


「わたしが死んだって戦鉤爪様は来てくれないわよ!」


 リースは剣を下ろした。


「本当に知らないみたいですね。密告してもらえるのなら、誰かしら手先を派遣するでしょう。そいつから聞き出しましょう」


「スキルツリーってもらえる物なのか?」


 魔力源を特定の形にして、魔法や肉体を使いやすくする物だと思っていた。魔力源加工職人みたいな物がいて、ご丁寧に掘っているものかと。


「えぇ、取り扱うには専門知識が必要ですが大丈夫です。ほら早く渡してください」


 タヌ子の前に光の粒子が現れた。複雑な幾何学模様をしており常に変化し続けている。

 リースはそれらを手でつかんだ。


「エンジュ、手をつかんでください」


 言われるがままにリースの手をつかんだ。

 魔力源に何かが書き込まれるのが解る。


「これは帰還のスキルのようですね。全部同じ場所に帰るよう設定されています。ミリア手を握って」


 ミリアとリースが手をつないでいるのを見る中、一つ気になることがあった。


「なんで帰還のスキル三つも持ってるんだ?」

「新人にあげたりするのよ。中間管理職って面倒」

「帰還する位置はこれで正しいのか?」

「えぇ、大丈夫のはずです。この位置なら―――ダンジョンの正規の入り口になってますね」

「もういいでしょ! ほどいてよ! それとも束縛ずきなの!? 変態なの!? 変態でしょ! この変態!」


 タヌ子さん滅茶苦茶うるさい……

 俺は魔力の縄をほどいた。


「いーっだっ」


 タヌ子は光の粒子になって消えてしまった。

 壁を破壊する名目が完全に消えてしまった。

 ええと、その前はたしかご飯をどうにかしようって話だったな


「さっそく使ってみましょう!」


 スキルツリーには最初から経験値が振られていて、すぐ使えるようになっている。しかもレベルアップ機能も搭載。


 そりゃ早速使いたくなる。普段の俺なら言われる前に使っていた。

 詳細を知らなかったほんの一瞬前まで。


 テレポート系の魔法だけはダメだ。


 全力で阻止しなければならない。




 無理だった。





 帰還のスキルを使うに当たって、俺はいくつかの条件を提示した。

 スキルを使うのにおおよそ三分ほど感覚を開けること、

 スキルを使ったら、すぐその場から離れること、

 この二つだ。リースもミリアも不思議そうにしていたが、俺が断固として譲らない意思を見せると条件をのんでくれた。


 さすがに全裸になって抗議しようとしたら俺の本気が解ってくれたらしい。

 色々な物が犠牲になったがしょうがない。

 別に俺が脱ぎたかった訳では無い。それだけテレポート系列の魔法は危険だと言う事だ。


 俺だってテレポート系列の魔法ぐらいは使える。

 ただ、この魔法は極力使いたく無い。

 使ったとしても目に見える範囲であり、その目に見える範囲も確実に安全と言い切れる場所だけだ。


 ウィザードリィのテレポートと全く同じ問題が現実のテレポート魔法でも起こりえるからだ。

 つまり石の中に飛ばされるとそのまま死ぬ。そうでなくても体の一部が欠損するなどよくある話。

 そう言うわけでテレポート系列の魔法と言うのは基本的に殺人用途で使われる。俺の処分方法として、石の中にテレポートもあるレベルの信頼できる殺し方だ。


 今まで居た座標を考えると地表に設定されているが、俺の直感が危ないと告げている。

 直感スキルは安全だと思っているのがさらに危険度を跳ね上げている。

 直感スキルは楽しいけど、危険予知に関しては何の信頼性も無い。

 まずはリースがテレポートしていき、その三分後にミリアが飛んでいく。

 どうやって三分計ったかと言えば、自らの心臓の鼓動で把握している。

 バリツとは人体を支配することであり、これぐらいは初歩中の初歩と言える。


 その三分後、俺は意を決して帰還スキルを使った。

 目の前が光に包まれていく。


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