ダンジョン2
通路を右往左往。アイテムどころかモンスターすら出てこなくて退屈し始めた時だった。
「なんか来るぞ」
直感スキルが告げる。この直感スキルはパッシブスキルとアクティブスキルの二つがある。危険を察知するパッシブスキルが発動したときはかならず危険が迫っている。
突っ込んでくる何かを捕まえて壁にぶん投げる。
壁にはナイフを持つ小型のゴブリンがめり込んでいる。
「ご主人様、レッドキャップだよ」
ゴブリンって弱いモンスターだよな。島とダンジョンだと出てくるモンスターが変わるのか?
そう思っている内にさらにゴブリンが突っ込んでくる。
しかも数えるのが面倒なレベルで突っ込んでくる。バーゲンセールに特攻するおばさんみたいだ。
バリツが最強といえどもこれほどの数は捌ききれない。なぜ人類の腕が二本しか無いのだろうか、もう三本ぐらい欲しい。
そう言うわけでまとめて焼いた。バリツにだって物理的な限界がある。そういう時は魔法で補うしかない。
周囲には肉の焦げる匂いが充満する。肉になる前の姿を知っているのに、お腹と鼻はとても正直だ。
消し炭レベルで燃やし尽くしているから、万が一にも食すような事は無いけどね。
さて、持ってたナイフだけ回収して先に進もうか。
俺がナイフを拾うために歩き出したが二人に動きが無い。
がしゃんと剣が床に落ちる音が聞こえる。
どういうことかと振り返ると、リースは頭を抱えていて、ミリアは口をぎゅっとすぼめて俺を睨んでいた。
「ご主人様どうして焦がしちゃうの」
ミリアが珍しく怒っている。
「しかし焼かないと危険だろ」
一匹一匹なら間違い無く雑魚だが、あれだけの集団を捌くには一気に殲滅するぐらいしかない。
「原型も無いほど燃やしたら食べられないよぉ!」
「ちょっと待って食べるの!?」
全員ナイフを持って襲ってきた事を考えると、あいつらには鍛冶スキルがある。つまり俺よりも鍛冶が出来る。立派な知的生命体だ。
「レッドキャップは美味しいんだよ? ご主人様の国だと食べないの?」
豚を食べない食文化がある。
虫を美味しいと食べる食文化がある、
愛玩動物のモルモットを食べる食文化がある。
ようするに生まれ育った文化の違いであり、ミリアを野蛮だの変態だのと罵ってはいけない。
「貴方……やはり魔王ですね。 私の好物を……よくも、よくも!」
リースは剣を拾って俺に襲いかかってきた。
……説得にはおおよそ十分かかりました。
その後も延々とダンジョンを歩き続ける。やはりモンスターもアイテムも無し。
「エンジュ、ご飯はどうするつもりですか?」
「ご主人様、そろそろご飯を食べようよ」
リースとミリアがご飯によって一瞬で仲良しになってしまった。ちょっとだけぎこちなく感じていたのでそれは嬉しいのだが……
ご飯と呼べそうな物は先ほど殺したレッドキャップのみ
幻影熊の肉を氷付けにして冷凍保存してあるが、できる限り残しておきたい。
「ちょっと待ってくれ」
あまりやりたい方法では無かったが、ダンジョンで物が見つからないとなっては仕方が無い。
天井に一度穴を開けて地上にでるか。
地下水を発掘しようとしたときのように、魔力で壁を作りあげ、ジャンプして天井に向かって拳を振り上げ、魔力を流し込む。
突如として、前方で岩が噴出するのが見える。
モンスターかと思ったが、直感では危険無し、ミリアも特に何も言わない。リースは剣を構えているが半信半疑と言った様子だ。
砂埃を魔法で吹き飛ばしたが、岩がごろごろと転がっているだけで、特に何も無いみたいだ。
「ダンジョンで落石か?」
俺がダンジョンに穴を開けたから地盤の変化が起こったのだろうけど、にしたって無茶苦茶だろ。
ダンジョン内の落石を考えると不用意に穴を開けるべきでは無いな。
でも、ダンジョン内でこうも何も無いとあっては、定期的に地上へ補給しないわけにはいかない。
……悩みどころだ。
とりあえず俺は今開け天井の穴へ飛び込んでみる。
飛び込んだ先もダンジョンだった。どうやら気づかない合間に下の階層にいたらしい。
もう一回穴をあけるべきか?
俺はもう一度構え……
「エンジュ待ってください!」
リースの声が聞こえる。
なぜか後ろと下から。後ろを振り向くとリースとミリアが居た。穴を覗き込むとやっぱりリースとミリアが居る
ローグライクのゲームかと思ってたのに、本当はportalだったらしい。
portalは遊ぶと無茶苦茶酔うから苦手だ。
「どうなってる?」
「私に聞かないでください」
「有料版ガイドブックに聞いている」
年間十万ゴールドはこういうときの保険だろ?
「ライセンスはこの前切れてしまいまして……」
リースは笑ってごまかそうとした。更新しとけよ……
「ミリアのガイドブックにも記載が無いよ」
「なら書き加えておけよ。きっと情報の提供でお金をくれるさ」
上下は繋がった、そうなれば次に気になるのは決まっている。
「横だ!」
物理的防御壁を作りあげ、横の壁も思いっきりぶち破った。
さっそく出来た穴を覗くと、目の前には穴の空いている廊下が見えた。ついでに俺の背中も見えた。ようするに合わせ鏡みたいに延々と続いている状態だ。
ゲームで例えるなら左と右が繋がっている昔のゲームそのもの。
「名案が浮かんだ。このダンジョンを壊そう。ここはエルダードラゴンの住処なんだろ? なら、そこをぶっ壊されるのはドラゴンだってイヤなはずだ。ドラゴンが来なくても手先ぐらいは来るんじゃ無いか?」
……とそれっぽい名目を言ってみる。
本当はこの空間を全部壊したらどうなるかを確かめてみたい。
何も無い空間が出来るのか、それともバグったゲームみたいになるのか。
さてどっちだ。
「エルダードラゴンには使い魔がいるとガイドブックには書いてありますね」
「ミリアのには載ってない。いいなぁ~有料版ガイドブック、色んな事が書いてあって楽しそう」
ミリアはwikipediaで三時間ぐらい時間を吹っ飛ばしてるタイプだな。
「今後のガイドブック発展のためにも、ダンジョンで使い魔を呼ぶ方法を試してみても良いよな」
「皆のために情報を集めるのも勇者の仕事だ」
「じゃあミリアが日記に書いておくね」
「だめ! ぜったいだめ! 直すの私なんだよ! 私が出てきたから壁をこれ以上壊すのは止めて!」
声が一つ多かった。
三人で声の方向を見る。
15才ぐらいの少女がそこに居た。ミリアはウサ耳だが、この子はなんだろ? タヌキ耳? ネズミ耳?
ふわっとしたロールの茶髪、温和そうに見える垂れ目、お人形さんみたいな服を着ている。
まぁ何者でもいいや。
とりあえず魔力で縄を作りタヌ耳少女を縛りあげた。この間わずか0.007秒。バリツを極めたらこれぐらい余裕。
タヌ耳少女は自分の身に何が起こったのか理解せずにわたふたしている。
さて、何から聞いてやろうか?
ミリア日記
名前 レッドキャップ
見た目 美味しそう…
強さ 一体一体は弱いけど、集団で襲ってくる。
メモ1 ご主人様のばか……
メモ2 ご主人様の国ってやっぱりおかしい。レッドキャップ美味しいのに食べないなんて…
メモ3 ゴブリンが持っているナイフは一つ一つ形が違ってて、形によっては高く買い取ってくれるけど、今回は高そうな形が無くて残念。