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ダンジョン1

 ポルトニアから脱出して大海原を全力疾走。

 さすがについてこれないだろうと言う位置で走るのを止めた。

 

さて、このまま帰るべきか、もう一度ポルトニアにまで戻るべきか。


 ポルトニアに戻ればドラゴンソードと神竜のネックレスを回収が出来る。

 問題点はギルドどころか街を敵に回し、スキルツリーの調達が出来ないことだ。

 回収を諦めて塩やコショウと言った調味料を盗むか?

 バレたらアイテムの回収したときと同じような事態が待っているし、何より本当の犯罪者になってしまう。


 バーンランドに帰るのが無難か。

 俺はそう結論づけて、もう一度走り始めた。


 日が傾き掛けた頃、ようやく無人島にまで戻って来られた。

 洞窟近くの砂浜でミリアが俺の帰りを待っていた。


「おかえりご主人様、コショウは!? コショウは!?」


 期待の眼差しが痛い……


「すまない。買えなかった。ギルドに入ったら魔王として指名手配されていてそれどころではなかった」


 俺は正直に話した。気の利いた嘘を思いつかなかったし、ミリアなら俺が魔王でも気にしないと思ったからだ。

 ミリアは一瞬だけしょんぼりした顔を見せたが、すぐに先ほどの眼差しに戻っていた。さすがデキる奴隷。


「ご主人様が無事で良かった。魔王が街に入ったら普通はその場で殺されちゃうよ」

「あぁ実際殺されかけたし、売ろうとしていたアイテムもギルドに起きっぱなしだ」

「でもどうして魔王なの? 私のガイドブックにご主人様は乗ってないよ?」


 それなんだよなぁ……

 ポルトニアに戻って聞き込みをすれば、どういう経緯で魔王になったか解るかも知れないが危険すぎる。

 リースとミリアが知らなかった事実から考えると、俺が漂流した直後に魔王指定されたのだろう。


 問題はどうして名前を知っているかだ。


 魔王アマネエンジュだと、他人のそら似ってのは考えにくい。

 でもこっちの世界で名前を知ってるのなんてミリアとリースぐらいだ。

 天音の一族がこっちに来て俺をわざわざ探すのも考えにくい。抹消しようとした結果、異世界に来てしまったんだ。向こうから俺が生きているかの確認なんて出来るはずが無い。

 でも、名前を知っているってことは誰かしらこっちに来てるはず。

 ………ダメだ。考えても全然解らない。

 考えてもわからない事を考えるよりも、島から脱出する方法を考えよう。

 その為にもまずは夕食だ。




 朝肉、夜肉の生活にも飽きてきたな……


 そう思いながら塩もコショウも無い肉を貪る

 人はパンのみにて生きるにあらず、だからといって肉だけで生きていける訳が無い。マッハピラニアは論外だ。


 むしろパンが欲しい。


 当面の目標はパンにしようと思ったが、小麦の収穫など不可能そうなので止める。

 俺とミリアが肉を貪る中で


「決めました。私はここから一歩も動きません」


 リースは俺のウォーターベットで惰眠を貪っていた。

 甲冑も上着も脱ぎ捨てて、シャツにパンツと威厳が無い。おっぱいも原型をとどめていない。


「こんな物がこの世に存在していたのですか」

「あぁ俺の国だと割と普通だ」


 本来は水を魔法で固めていたりしないけど、説明すると長そうなので省略。


「色々と世界を見て回ったつもりでしたが、まだまだ世界は広いのですね。驚きました」

「それで――」

「いや、これは私のです。譲りません」


 顔だけ戦っている時の表情に戻った。どうやら魔王を討伐するのと、ウォーターベットの死守は同一らしい。


「どうしてもと言うのでしたら、私のドラゴンスレイヤーと交換―――」

「……いや、あげますから」


 顔がぱーっと明るくなる。


「良いんですか? 後で、請求されても私に払うものなんて――」


 と言いつつリースは自分の体をすくませる。確かにそれで払う人も世の中にはいるだろうけど……


「あげますから―――それよりもリースさんは今後どうするんですか?」


 リースはわざとらしく咳払いをして、初めて出会った時のような威厳を取り戻そうとしていた。

 しかしシャツにパンツのお休みルックではどうやっても威厳は生まれない。


「これからこの島にいるエルダードラゴンを倒すために、またダンジョンに潜ろうと思っています。

 海を走り、水を固める水魔法のエキスパートである貴方が居てくれるととても心強い。

 報酬は差し出せませんが協力してくれませんか?」


 そのエルダードラゴンの中に次元喰らいも間違い無く含まれている。例え次元喰らいを倒して日本に戻れなくても、遺産囲いから"船"を奪取することぐらいは出来る。


「ダンジョンの中って食糧はあるのか?」

「ダンジョンでたまにパンを拾いますね。腐っていたら焼けば問題無く食べられます」


 どこのローグライクだよ。しかもローグライクって事は餓死する流れだ。


「ミリアはどう思う?」

「パンが食べたい!」


 即答だった。人はパンのために生きる!


「リースさんの手助けをするよ」

「契約成立ですね。リースとお呼びください」


 差し出されたリースの手を握った。

 リースの手は温かった。 




 翌朝、早速ダンジョンに……いけなかった。


「勇者様起きてよ」


 ミリアがリースに馬乗りになってもお構いなしに寝続ける。


「ねんがんのあいすそーどをてにいれたぞ……」


 寝ぼけるにしてももっと良い台詞はあるだろうに……

 俺はミリアをリースとベットから遠ざけた。


「そう、関係無いね」


 魔力の層を薄くした。当然体重の負荷に耐えられなくなり、リースは水の中に沈んでいく。

 さすがの寝ぼすけもここまでやったら起きるらしく、上半身を起こし寝ぼけ眼をこすっている。

 いまいち状況を飲み込めていないのかリースは周囲を確認して、どうやら自分が水浸しであることを理解したらしい。


「―――その、ごめんなさい」


 こんな派手な起こし方をして謝りたいのは俺の方だ。それに、シャツが肌にピッタリ吸い付いたおかげでおっぱいが透けて見える。むしろ感謝を述べたい。

 自分がどれほど恥ずかしい格好をしているのか理解したらしく、顔を真っ赤にしながらうつむけて、ぼそぼそっと喋った。


「―――おねしょ……しちゃったみたいです」

「おねしょにしては量が多すぎるだろ!」




 リースの服を乾かしたり、謝罪したりで、ようやくダンジョンにいけた。


 ダンジョンに入って最初に感じたのは違和感だ。

 降りた場所が十字路になってる。前に降りた時はただの通路だっただろ。


「このダンジョンどうなってるんだよ」


 本当にローグライクそのものじゃねえか。

「エルダードラゴンの巣ですからね。自らの身を守るために空間をねじ曲げて侵入者を困惑させるトラップになっています」

「どうやってそのドラゴンが入るんだ?」


 前に見たときは全長50メートルを越えていた。

 どう考えてもこんなダンジョンに入りきらない。


「エルダードラゴンは変身能力を持っていて、普段は魔力と体力を消費しない人間の姿で要ることが多いようです」

「詳しいんだね勇者様。ミリアのガイドブックにはダンジョンの事なんて書いてなかったよ」

「……私のガイドブックは有料版です!」


 あれだけ記述されてるのに誰が有料版を買うのだろうと思っていたが、ここにいた。

 最強クラスのモンスターが居る無人島のダンジョンまで書かれているとは、ガイドブック恐るべし。


 確かにそれなら金を出す価値はあるな。

 そこまで調べられている時点で入植出来るんじゃね? と思ったが口に出すのは止めよう。


「それと私はリースです」

「わかったよ勇者様」


 デキる奴隷には譲れないラインが存在する。


「どっちにしてもここへ戻ってくる事は期待しない方が良いんだな?」


 上着を風呂敷代わりにして、持てる限りのアイテムは持ってきたが、やはり食糧事情は心配だ。


 受肉剣は未だにあるが、受肉させるべきモンスターに出会わなければ意味が無い。金属蛇に使うような状態になったら肉になってもまともに食えたものじゃない。

 しかし島からの脱出を考えと今の所リースの船に乗せてもらうぐらいしか存在しない。


「安心してください。私が居る限り誰も死なせません

「惚れそうだから止めてくれ」

「ミリアも、ミリアもいるからご主人様の事絶対守るから」


 ミリアは俺の腕に抱きついてきた。

 ここまで言われて引き下がる理由は無い。


「行こうか」


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