閑話 鍔鬼
テス城の玉座には男が退屈そうに座っている。その隣には王冠を被った少女が楽しそうに男を眺めていた。
「槐さんがポルテニアで発見されたみたいだよ」
王冠を被った少女が嬉しそうに天音鍔鬼に話しかける。
鍔鬼は少女がうっとうしく感じられたが、現状こうするしかない。マナが溢れているこの世界で広範囲で他者を洗脳するのは難しい。
「にしても本当に鍔鬼って凄いのね。全部のギルドを説得して、こうやって魔王に仕立てあげることができるんだもの、それに鍔鬼が来てくれてから国の収益もかなり上がったのよ」
テス国、ましてや、少女の為に鍔鬼が内政を行ったのではない。
全ては鍔鬼の兄、槐を討ち取るための算段にすぎない。
「それで槐はどうした?」
「海に逃げていったみたいだよ、鍔鬼のお兄さんも凄い人なのね」
少女は鍔鬼の首に腕を絡める。
財政難に陥りかけたテスを一瞬で解消した鍔鬼は少女にとって英雄だった。彼がどこの人で、どういう理由でテスを助けたのかなんて少女にとっては些事にすぎない。ただ、鍔鬼の為に役立ちたいと思っていた。
「どこへ逃げたと思う?」
「ポルテニアから海に逃げたなら、東にあるヴァンスじゃないかな?」
ポルテニアとヴァンスは交易路として非常に盛んな区間の一つであり、ポルテニアから逃げるとするならまず最初の候補にあがるだろう。
まっとうな神経をしている人間ならば、エルダードラゴンの住まうバーンランドに逃げると言う発想はまず出てこない。
「ならヴァンスとポルテニアの周辺を警戒するように連絡しておけ」
「はーい。鍔鬼はどうするの?」
「まずは世界征服だ。エルダードラゴンと槐を殺すにはそれぐらいの国力が欲しい」