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リース2

 リースが海岸に来たのは俺が洞窟の前で待ち始めてから三時間ほどだった。


 リースが宮本武蔵みたいな戦略を考えていた……わけではなくて、単純に時間を合わせていなかった。


 日本だったらケータイで確認すれば良いけど、異世界では相手と連絡を取ることどころか、時刻すら判別することが難しい。


「四天王ですか。早く魔王を出してください」

「私はここにいるだろ?」


 できる限り悪役っぽく俺は笑い、服を脱ぎ捨て、上半身裸になる。


「……そういうことですか。魔王はやることがいやらしい」


 リースは冷笑する。どうやら俺の作戦に引っかかってくれたらしい。


「私が魔王レクサスだ」 


 リースはミリアが魔王だと思い込んでしまっている。どうしてそう思い込んだかと言えば、神竜のネックレスをミリアが付けていたからだ。


 ならば発想を逆転させよう。


「まさか、ネックレスが本体だとは思いもしませんでした」


 ネックレスを付けている人間が魔王レクサスであると認識させてしまえば良い。

 そうすればリースの攻撃対象をミリアから俺に切り替える事が出来る。

 後は適当なところでネックレスを破壊すればリースの魔王討伐は完了。


 俺は神竜のネックレスを使う。


 体がドラゴンに変わっていく。見た目はかなり派手に変わってしまうが、体の機能としてはあまり差を感じない。

 ミリアが言うにはパワーが全然違うそうなのだが、俺としては炎がはけるぐらいしか違いを感じない。

 さらに使えばもっとドラゴンの力を体感できるのだろうが、魔王っぽい変身をしたいだけなので、これ以上は使わない。


「あの時私を拾ってくれたら、私はより良い体を手に入れることが出来たのに――今からでも遅くありません。私の体になりませんか?」


 リースは剣を握り直す。人を殺す目つきに切り替わる。

 さぁ早く襲ってこい。こっちは何時でもネックレスを壊せる。


「ネックレスに魅入られたロップも人もまとめて殺してやる!」


 ……あれ?

 ネックレスだけじゃないの?

 リースが飛び込んできた。

 剣をすれすれで避ける。

 手の甲が焼けるように熱い。

 ドラゴン化している手は金属のように硬い。ましてやバリツの修行によって洗練された手だぞ?


 それなのになぜこんな簡単に切れるんだ?


「ドラゴンスレイヤーですよ」

 勝ち誇るようにリースは語る。

 ようするにリースの使う剣は対ドラゴン特化の剣と言う事らしい。


 俺は火を吐いて応戦しようとするが、リースが炎を着ると、炎は水蒸気のように蒸発していく。

 炎まで切り裂けるのかよ。


 まぁ良い。バリツがあれば俺は無敵……手をじっと見つめる。

 手が鳥のようなかぎ爪に変わっている。これではバリツが使えない。


 あれ? マジで死ぬ?


 一瞬の動揺。一秒にも満たない精神のゆらぎ。

 しかしリースにはそれだけあれば十分だった。






 浮遊感。




 じゃらんと落ちる音。







 そして爆発。







 くらくらしながら俺は立ち上がる。


 ネックレスを派手に爆発させれば、リースだってネックレスが悪いと思ってくれるに違いない。


 爆発するタイミングを間違えると自分の胸を吹っ飛ばしかねなかった。

 そしてドラゴン化も解除される。


 こっちはミリアに爆発を合図にしてフライパンをアイテムとして使ってもらう。

アイテム効果はステータス変化を無効にするもので、ドラゴン化もなしにしてくれることは昨日実験で証明済み。

「おれはしょうきにもどった!」

 

 これでリースが納得してくれなければ、本気で殺し合うしかなくなってしまう。


「……どうやら本当にネックレスに操られていたみたいですね」

 リースは剣を置いた。




 助けてくれたお礼も兼ねて皆で肉を食べることになった。

 バチバチと焚き火の燃える音の中、遭難してしまったこと、島でネックレスを拾ったことを語った。


 異世界から来たと言う事は話さない。話がこんがらがる。


 なお、こんがらがった話をしていないのにミリアは俺の膝の上で寝てる。リースが怖いのか肉を食っているときもずっと俺の膝の上に居た。


「――まぁそう言うわけだ。ところでリースさんはどうやってこの島へ?」

「"船"に乗ってきたのですが――――遺産囲いに持っていかれました」

「遺産囲い? 盗賊団でもこの島にいるのか?」

「ドラゴン。この島に住むエルダードラゴンの一人」


 次元喰らい以外にもこの島にドラゴンが住んでるのかよ。


「遺産囲いはとにかく宝物を集めるのが好きなドラゴン。どうやら私の"船"も宝物として持っていかれてしまいました。ですが心配無用。この島にいる魔王とドラゴンを退治するまで私はこの島から出る気がありませんからね」


 つまりこの島から出る手段は今の所存在しないらしい。がっかりだ……

 どうやらそのガッカリが顔に出てしまったのか、リースが少しだけ不機嫌そうになる。


「どうしたのですか? もしや私より先にエルダードラゴンを殺そうとしているのですか? 渡しませんよ」


 楽しい勘違いだった。


「いや、そういうことでは無くて、島から早く脱出したかったので、リースの船に乗せてもらえないかなって思ったんだよ。……そうだ。ここから一番近い港町ってどこ?」


 別に船を使う理由は無い。今まで島から出られなかったのは、島の外がどうなってるか解らなかったからだ。近くに街があるならそこまで泳いで行けば良い。


「北に2000㎞も進めばポルテニアがありますが、どうかしましたか?」


 どうやら泳いでいくのは無理みたいだ。


「まさか泳ぐつもりですか?」

「走って行くよ。バリツを使えば水の上だって簡単に走れるのさ」

「……まだ魔王のままみたいですね。私がこの手で成敗します」


 また剣を握るリースを説得するのに十三分ほどかかりました。


 ミリア日記

 名前 フライパン

 効果 毒耐性 麻痺耐性 炎耐性 アイテム使用でステータス変化無効化。

 メモ1 炎耐性がついているから火の通りが悪くてフライパン失格。


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