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リース1

 翌日、森からの探索に帰ると変化があった。

 

 俺とミリアの洞窟でエルフのお姉さんが物色していた。


 つまり、三人目の生存者である。


 煌めく金髪を腰まで伸ばしている。前髪を一直線の姫カットで切りそろえていて、瞳は大きく少しだけツリ目。ドレスの上に鎧を着込んでいる。

 華奢な体でありながら、胸だけはやたら大きい。

 そしてなによりエルフ耳。


 無茶苦茶好みだった。そのまま告白したくなった。


「良かった! 漂流者さんだ!」


 ミリアがエルフのお姉さんに抱きついた。

 エルフのお姉さんは呆然としている。

 つまり抱きつくチャンスだ。


「生きててくれて良かった!」


 叫びながらエルフのお姉さんに抱きついた。

 是非ともおっぱいの感触を味わおうとしたが、鎧が俺とおっぱいの中を引き裂く。


「あの、すみませんが、私は漂流なんてしていません」


 それはつまり……


「現地住民と言う事ですね。良かった。俺たちはこのサバイバル生活から抜け出せるんだ!」


 さようなら、不便な生活、ごきげんよう、ギルドで日雇い仕事にいそしむ俺。


「だから、ちがいます。二人とも離れてください。いまから順番に説明します」



 俺とミリアを座らせて、エルフのお姉さんはこほんと咳払いをした。


「私の名前はリース ノグアラド、勇者をしています」

「つまり勇者様も遭難したんだね」

「違います。私は自分から率先してバーンランドに来ました。この島に居るエルダードラゴンや魔王を滅ぼすのが勇者の仕事ですからね」

「それでリースさんが俺たちの洞窟で何をしていたんだ?」

「魔王城の物色です」


 魔王城? この洞窟が? そりゃ俺の魔法を恐れて魔王と言う輩が日本に居た時はいたが……しかしこんな魔王城にいる魔王がゲームのラスボスだったらディスクへし折る。


「どうしたのですか? あれ? もしかして私、勇者として何かを間違えたでしょうか? 勇者というのは魔王城を物色しなければならないと聞いていたので物色したのですが」

「いや、まずここ魔王城じゃないから」


 ただの洞窟だし、まず俺もミリアも魔王じゃない。


「いいえ貴方は魔王です」


 リースは指さした。

 なぜかミリアを。


「ミリアなの?」


 助けを求めるようにミリアが俺を見てくる。俺だって状況を教えてもらいたい。


「貴女が首に付けている神竜のネックレスが証拠です」


 ミリアが骸骨を魔王と認識したのもこのネックレスがあったおかげだ。とは言え、こんなか弱い少女をそれだけで魔王と認識できる物なのだろうか。


「人違いじゃないか?」

「解っています。

 そうやって漂流してきたと言うのも、私に抱きついてきたのも、人違いだと言うのも、かよわいロップ族の平民に変身するのも、

 全て私を攪乱させるためであると言う事ぐらい。」

「ミリアは奴隷だよ」

「そこを訂正してどうするつもりだ?」


 過酷な奴隷生活だったはずなのに、ミリアは奴隷身分がちょっと好きすぎないか?


「ネックレスがそんなに欲しいならあげる」


 ミリアは首に掛けていた神竜のネックレスを外し勇者に投げつけた。

 洞窟にぼとりとネックレスが落ちる。


「金目当てのギルドのごろつき共と一緒にしないでください。勇者として魔王城は荒らさせていただきましたが、私の心はお金などでは動きません」


 リースが一瞬にしてミリアの喉元に剣を突き立てようとする。俺は脊髄反射的な動作で、剣先を指でつかんだ。


「まずは四天王ですか」


 ……どう数えても俺一人だ。


「一日待ってもらえないだろうか。勇者としても万全の状態で魔王と戦いたいだろ?」

「ご主人様!」


 俺の服をつかんでミリアは何かを必死に訴えかけてくる。


「そうやって逃げる気ですか?」

「こんな島のどこに逃げる場所がある?」

「またダンジョンにこもられても―――」


 お腹の鳴る音が響いた。

 位置から考えるにリースのだ。


「わ、私が、重要な事を喋っているときに腹を鳴らすなど、言語道断です!」

「いや、リースのだろ?」

「ち、ちがいます! 私はそんなはしたなくありません」


 リースは顔を真っ赤にしながら剣を力任せに振り回す。俺はそれをつかんで避ける。

 もう一度お腹が鳴る。


「い、いいでしょう。勇者としても少しぐらいは情けをかけましょう。

 だから決して私のお腹が空いている訳などではなく、あくまで勇者として、勇者的な行動を取ったまでですからね!」

「そんなにお腹の音が恥ずかしいか?」

「ちがいます! 私はまた明日ここに来ますので、殺される覚悟でもしておいてください」


 リースはそう言い終わると、洞窟の中にあったワインと保存食を持って出ていった。

 やっぱお腹すいてるよね……


「肉いるか?」

「お腹なんて空いていません!」


 リースはそのまま断崖絶壁を跳んでいった。


「ご主人様、ミリアのお墓は海のそばがいいです。先立つ不孝をお許しください」


 ミリアの眼が完全に死んでいた。


「大丈夫だってミリアを死なせたりはしない」

「一日で勇者様に勝てるほど強くなるなんて無理だよ……」


 ミリアが勝つのは不可能だ。リースは間違い無く強い。俺がミリアに入れ知恵したところで勝てる相手ではない。


「どうしてご主人様は勇者様を倒そうとしなかったの?」


 倒すだけなら簡単にできただろう。剣の動きが奇麗すぎて簡単に読める。

 どのぐらいの魔法を使うのかは解らないが、この島の生物を倒せるぐらいのレベルと考えるなら、バリツの敵ではない。


「ここに来たってことはここから出られる手段を持ってるって事だ」


 骸骨ならともかくリースはエルフだ。船か何かでこの島に来たと考えるのが自然だろう。

 ならリースをうまく誘導すれば、俺たちをバーンランドから連れ出してくれるかもしれない。

 その為にはリースに俺たちが魔王ではないと納得させ、かつ、俺たちが生きていなければならない。

 一応拷問すると言う選択肢もあるが絶対にやりたくない。人として当然だ。


「でも勇者様はミリア達を殺そうと」

「心配するな」

「でも、明日ミリアと勇者様が一対一で戦うんだよ。無理だよ」

「大丈夫だ。俺に策がある」

「ご主人様が奇襲するの?」

「そんなことはしない」


 それで勝ったとしてもリースがこちらに対して情報を提供してくれるとは思えない。あくまでも、対等に戦って勝たなければならない。


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