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鍛冶5

「肉を探す前にやることがある。川で拾った剣を作り直すことだ」


 肉は大事だ。しかし初志を忘れてはいけない。このスライムが落とした錆びだらけの剣を元の形に戻すこと。それが最初の目標だったはずだ


「……わかったよー」 


 ミリアは露骨に不機嫌だった。

 昨日肉食えなかったからな。

 俺が炎を出して、ミリアがハンマーを振るう。

 武器の修理は作るよりも容易らしい。もっとも、追加の魔力刻印を入れるとなるとずいぶんと勝手が変わるらしいが。

 剣に金属がまとわりつく、これで俺の武器が完成……するはずだった。


「なぜ錆びている?」


 ミリアの機嫌は悪いが、それで手を抜くような子では無い。

 実際ミリアも困惑しながら、剣を見ている。


「ミリア、火を変えてみるぞ」

「また太陽だすの!?」

「流石にアレは止めておく」


 またブラックホールを作ってしまうとは面倒だからな。

 それに俺たちには優秀な火力がもう一つある。


 ミリアの瞳が琥珀のように輝いている。耳の少し上から角が生えている。

 神竜のネックレスの効果だ。効果範囲は全体なのでミリアもドラゴンみたいな状態になっている。


 スライムを蒸発させるドラゴンの炎なら、きっと強い武器が出来る。


「ほのお~~」


 口に魔力をため込み一気にはき出す。剣と金属を一瞬で溶かす。そこにミリアがハンマーを振り下ろす。


 剣そのものが発光し目が眩む。

 目が眩んでいる合間に、鍛冶は終了していた。

 そこには白銀のように煌めく剣があった。

 俺は剣を手に取ると異様に軽かった。そこに存在しているのは幻影かなにかと思わせるような軽さだ。


「魔力刻印にはドラゴンソードって表記されてるよ

 武器の特徴だと、竜の加護を得るのと、元々の武器に付いてたよくわかんない魔力刻印に、金属に付いてた魔力刻印、あと攻撃力52%上昇があるみたい」


 竜の炎で鍛え上げたから武器が変質してしまったのだろうか?

 神竜のネックレス同様ずっと持っていたらドラゴンになってしまいそうだな。


「伝説の武器ってガイドブックには書いてあるよ。ミリアは、伝説の鍛冶士?」

「この島出たらドラゴンソードの量産をするか? 金持ちになれるぞ」

「それよりお肉食べたい」

「同感だな。では、これから森の散策に行くぞ」


 ダンジョンのモンスターも殺せた。森の方がたぶん難易度も低いだろう。それに武器や神竜のネックレスによる補正もある。そう簡単には負けないはずだ。


 海岸線をずっと歩いて行くと断崖絶壁の代わりに森が続いている場所がある。

 ドラゴンソードと受肉剣の二刀流で森の中に入っていく。

 森の中は日本での森林とさして変わらないように思う。木々の見た目はほとんど変わらない。しかし見た目に惑わされてはいけない。嘘みたいな速度で泳ぐ魚、ドレッドノート級なスライムと蛇、総じておかしい島だ。

 ここだっておかしい場所に違いない。


「でも特におかしい所は無いな」


 今の所動物の鳴き声も聞こえてこない。

 鳥の鳴き声ぐらい聞こえても良い物だが、それすらも聞こえない。聞こえてくるのは俺とミリアの足音と、草の揺れ動く音。

 静か過ぎて気味が悪いと言えば気味が悪い。


「なぁ……」


 ミリアに呼びかけたが、ミリアは返事をしなかった。酷く怯えた様子で、俺の腕に抱きついてきた。


「ご主人様、この森匂う」


 そうか、俺とミリアでは感じている物が違う。俺は魔力と視力で脅威を感じないからモンスターが居ないと判断していた。

 ミリアはモンスターの匂いでこの森にモンスターが居ると判断している。視力も魔力も約にたたないな。


「直感だと、注意した方が良いと思うが」


 直感スキルはこういうときには約に立たない。未踏の地において警戒するのは当然。問題はどこに注視すべきかだ。


「どこにいるか解るか?」


 ミリアは首を横に振る。

 この森ごと吹き飛ばす……選択肢としてはありだろうが、本来の目的である食糧の調達は不可能になるな。


「その匂いでどんなモンスターかは?」

「幻影熊、周囲の景色に溶け込んで、襲ってくる強いモンスターだよ」


 熊か、二メートル以上の大きさはあるだろう。

 なら深く考える必要など無かった。


「ミリアうるさかったらごめん」


 ミリアが耳をふさいだのを確認する。どうやらロップ族も耳をふさぐ時の姿は変わらないらしい。

 俺は大声で叫んだ。

 ミリアが特に反応していないところを見ると、どうやら聞こえないらしい。

 元からミリアに聞かせる気は無いし、その幻影熊にだって聞こえないだろう。

 俺が欲しかったのは音の反射だ。


 コウモリが同じようにして物の場所を認識している。コウモリに出来る事などバリツで出来て当然だ。


 俺の前方十メートルの所に目では見えない物体が存在したので、受肉剣で切りつける。

 何も無かった場所に大きな爪を持った全長3メートル以上の大熊が出てくる。

 熊の拳を手で受け止める。受肉剣が致命傷になっていない。素手ならば一撃で仕留められるはずなので、受肉剣にダメージのマイナス補正があるのだろう。

 ドラゴンソードで切りつければ致命傷を与えられるだろうが、今度は肉が出ない。


 ならば、やることは一つだ。


 俺は受肉剣を熊に切りつける。

 熊は断末魔をあげながら倒れた。


 俺は受肉剣で切りつける際に、そこから派生する未来を全てこの瞬間に収束させた。


 つまりは一回の攻撃で何十回も攻撃するのに等しい。

 さて、肉だ。魚から作りあげる謎の肉では無い。正真正銘本物の肉だ。


「ご主人様……」


 ミリアはくさい物でも見た時の表情で俺を見た。


「どうした?」

「熊だよ? 別に剣なんか使わなくても元からお肉だよ。それに解体だって得意だもん」


 受肉剣を使う事その物が無駄って事か。


 じゃあこの剣何に使うの? 


 火葬された熊の遺骨の上に漫画肉が一つだけのっている。


「熊を骨にするってご主人様は一体何をしたの? またバリツなの!?」

「バリツを何だと思ってるんだよ…」


 バリツはあくまで肉体の力を極限まで引き出す拳法であって、他者にまで影響を与える魔法とは別物だ。


 もっとも、俺ならバリツで同じような事もできる。

 今回の事象は他の世界の可能性を引っ張ってきたのが原因だ。

 可能性を大きく取り過ぎた結果。ドラゴンソードで切りつける可能性まで、持ってきてしまったのだろう。


 ドラゴンソードで斬ると焼けるとは、注意して使わないと今後も問題が出そうだ。


「とりあえず肉は手に入ったぞ」

「ご主人様はそれで満足なの?」

「まさか?」


 俺はまた大声で叫び、熊を探し始めた。




 結局その後もう一匹熊を見つけバリツで倒した。

 最強クラスのモンスターが居る島で苦戦したのがスライムだけ、これなら最強のドラゴン、次元喰らいも簡単に倒せるかも知れない。


「おっにく~おっにく~にくにくおっにく~♪」


 ミリアが自作の肉の歌を歌っている

 当然夕飯は肉だ。肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。


「ご主人様、焼き加減バッチリ!」


 ミリアは俺に熊肉が盛られた皿を俺に渡す。皿も鍛冶で作った物で、遭難初日に比べると、ずいぶん生活レベルが上がり感慨深い物がある。


「いただきます」


 俺はミリアに告げて、熊肉を食す。

 臭みもあるし固いが、間違いなく肉だった。


「でもやっぱり塩とコショウが欲しいな。ミリアは海水から塩を作れないのか?」

「海水を天日干ししたけど、苦いのしか出来なかったよ。ご主人様はこういうときこそバリツを使うべきじゃないの?」

「だからバリツを……」


 何だと思っているんだ。と言おうとしたが、ミリアの言うことは一理あった。いや、一理どころでは無い。バリツの神髄をここでは語っている。


 バリツとは肉体を極限まで使いこなす拳法だ。ならば舌も鍛えなければ成らない。それなのに俺は塩だの、コショウだのと調味料を使って、美味しくしようとしていた。


 バリツならば味覚をきわめて、どんな物を食べても美味しく感じなければならない。しかも味覚は五感の一つだ。今まで自分は感覚を極めてきたと思っていたが、味覚を極めてはいなかった。


「ご主人様?」

「俺は、バリツ失格だ」

「あの、ご主人様? 本当にどうしたの」

「俺は自らの力を驕っていたよ」


 五感の一つも完全に使いこなせないとは、俺はバリツ失格だ。




 ミリア日記

 名前 幻影熊

 全長 ミリア三人分ぐらい

 特徴 姿を消せる。でも匂いも残るし、ご主人様にもバレバレ。

 メモ1 幻影熊だけど、蟹爪熊の特徴も混じってた。やっぱりこの島の生物はすごい。

 メモ2 久々のお肉はとってもおいしかったです

 メモ3 ご主人様がおかしくなるのは、もう気にしない……


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