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潜水

 俊郎はモーリスの死体を見つめていた。

やがてその死体を青い光が包み込み、消える事を願って。

もしくは「やるなぁ、チャンプ!」とモーリスが頭を抑えながら起き上がる事を祈って。

ただ呆然とモーリスの死体を見つめ続けた。

しかしモーリスの死体はリスポーンされる事もなく、起き上がる事もなくただ血の匂いを放つばかりだった。

ファン ファン ファン ファン ファン

「ひっ!?」

と、倉庫内にけたたましいサイレンが鳴り響くと同時に倉庫内の電灯が一斉に灯った。

『違法行為が発生しました 違法行為が発生しました 従業員は直ちに作業を中止し 指示に従ってください』

サイレンと同時に流れる機械的な音声。

俊郎も何度か聞いた事がある、違法行為摘発警報。

住民の仕事場での暴力行為、器物破損、その他反社会的行為とみなされる事象が起こった時に流れる放送。

監査員が判断して流す場合と監視用のセンサーに引っ掛かった場合の二つのパターンがある。

恐らく作業時間外の倉庫で起こった発砲音に反応したのだろう。もういくらもたたないうちに警備員かガードロボが駆けつける事になる。

俊郎は呆然としながら摘発放送時のマニュアルに従う。

銃を床に置き、膝をついて両手を頭の後ろで組み……。

と、突然組んだ腕を後ろから掴まれた。

警備員?いくらなんでも早すぎる。そう思って振り返った俊郎の目に無骨なガスマスクが映った。

「……ハギ……さん?」

「立って下さい」

フードにガスマスクで素顔を隠した人物はあの時と同じくぐもった声で言った。

素顔が見えないのではっきりしないが、自分の腕を掴んだ手袋をはめた手から僅かに覗く人口皮膚から間違いないと感じた。

「ズラかりますよ」

「ズラ……?」

直後に腕が引っこ抜けるかという力で引っ張られた。

「いっ痛っ!?」

気が付けばハギの肩の上に荷物のごとく抱え上げられていた。

ハギはぐん、としゃがみこんで溜めを作り、一気に跳躍した。

「うぐぇっ!?」

内臓が下に引っ張られる感覚と共に目の前の地面が急速な勢いで遠ざかる。

カツン

加重が収まるとハギは高く積み上げられているコンテナの上に立っていた。先程までの地面は遥か下方に見える。

自分を背負った状態で一体何メートル跳躍したのかと俊郎が戦慄する間もなくハギはコンテナの上で加速し、天井付近に設置されている巨大な換気扇に突っ込む。

「あわーー!」

「喋ると舌噛みますよ」

冷静な言葉と共に破壊的な音が響き渡り。換気扇のファンがハギの一蹴りで吹っ飛ぶ。

巨大な脱出口と化した換気扇の中を通り、工場の外に向けてまた跳躍する。

内臓が浮き上がるような感覚と共に落下し、コンクリートの地面にずん!と着地した。

「んぶっぷ」

俊郎は着地の衝撃で胃の中身が逆流しそうになるが必死に堪える。最悪の乗り心地だ。

そのままハギは俊郎を地面に降ろす事なく背負ったまま霧の中を走り始めた。

「ハ、ハギさんっ!?」

「何ですか」

「ど、どうするんですか!?」

「どうする、とは?」

「どこに逃げるんですか!?」

いくらハギの足が速くともこれから駆けつけてくる警備やガードロボから徒歩で逃げ切れるとはとても思えない。

「逃走経路は確保しています、安心して下さい、それより」

「け、経路って、あぐっ!?」

「喋ると舌を……言ったじゃないですか」

喋る間もハギの足は全く速度を落とすことなく海岸線を走る。


ファンファンファンファン


背後からは既にパトカーのサイレンが聞こえ始めている。

俊郎は焦る、逃走経路があると言ったがハギは海沿いを走るばかりで一向にどこにも辿り着く気配がない。

また舌を噛むのを覚悟でもう一度逃走経路について聞こうとした瞬間、ハギは急停止した。

どこかにたどり着いた様子はない、ハギの前には奈落のような海があるばかりだ。

「ど、どうし」


ガコン


質問する前に突如海面の蓋が開き、ぽっかりと穴が開いた。

「!?」

違う、海面に何か黒い物体が浮いており、それに付いている蓋が開いたのだ。

(……せ……潜水……!?)

そう、それは巨大な潜水艇だった。ずっと海岸に着けて潜んでいたらしい。

ただでさえ霧が出て視界が悪いところでこの黒い船体が黒い海で待機していては何にも気づかれない。

ハギはようやく俊郎を地面に下ろした。

「どうぞ、入って下さい」

「わ、わかっ……ま、待って、腰が抜け……」

地面に足をついた途端、腰が砕けてへたりこんでしまった。

「さあ、どうぞ、とっととどうぞ」

「ちょっ」

ドカッ

「アーーーッ!」

立ち上がれない俊郎をハギは迅速に潜水艇に蹴り込んだ後、素早く自分も飛び込んだ。

間髪入れず蓋が締まり、潜水艇は静かに黒い海に潜行して行った。


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