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第8駅 黄金の特異体質

 屋敷に戻り数日。


 フィフィが女の子だって判明したけど、別に今までと関係は変わらない。

 まあ、ちょっとは意識するが……あっちは呑気なもんだ。

 とにかく、俺もフィフィもいつも通りさ。


 ただそれとは別に一つ変わったことがあって……。


「真奈。これ、何か分かる?」

「……? …………? ?」

「まあ、まだ無理だよね。よし、これはチョロカブだ」


 フィフィの家でとれる大根みたいな野菜。

 魔術で剣にもなるぞ。


「? ……!?」

「ちょ、ろ、か、ぶ」

「ちょろ……か、ぶ?」

「そう、いいねっ!」


 お日様が気持ちいい庭のベンチで、真奈とお話ししている俺。

 簡単な語学本を開いて、彼女に言葉を教えてやっていた。

 まだまだ二番線語はおぼつかないけどゆっくりやろう。


 しかし真奈は運がないというか、幸が薄いというか、とにかく可哀そうだった。

 前世の時も酷い病気だったが、こっちの世界じゃもっと悲惨。

 なんと体を失い、その上で記憶も失ってしまったのだ。


 俺の隣で銀色の球体が浮いていて、これが真奈なんだけど、どう見ても人魂。

 母さんは車霊体がどうのと言っていたけど……。

 ああ、可哀そうな真奈。


 俺のことをテッちゃんと呼んでくれた彼女はもういない。

 もっとも記憶が残っていたとしても、転生した俺のことなんて分かりようがないんだけど。

 何というか、虚しい。


 真奈のこと、何とかしてやりたいなあ。

 そう思っていると、フライパン持った母さんが屋敷の窓から身を乗り出し、カンカンカンとそいつを鳴らした。

 もう昼飯の時間だ。


「トレイン~。お昼よ、早く来なさ~い。えーとその子、マナちゃんも連れてねっ」

「うん、分かった~」

「…………」


 真奈は返事をしない。

 もちろん話せないんだけど、すごく精神的に参っているようなんだ。

 六年間も地下に閉じ込められてたんだもんな、そりゃそうだ。

 記憶もないし、体もない。

 今だって母さんがお昼を作ってくれたけど、それを食べることもできない。


 触れ合うこともできないし、励ますには言葉を掛けるしかなかった。


『げ、元気出せよ真奈。母さんはなあ、とってもいい人なんだ。だから何も心配しなくていいよ』


 とりあえず日本語で声を掛けてみる。


『はい……その、助けてくれてありがとうございました。……その、感謝しています、トレインさん』

『かしこまらなくてもトレインでいいよ……』

『いえ、命の恩人に……そんな失礼は……』


 くっ、これはきっつい。

 まさか真奈に敬語で話しかけられる日が来るとは。

 すぐにでも正体をバラしたい、でも本人に記憶がないんじゃなあ。

 はあ、すごい距離を感じる。

 あんなに生意気だった真奈、妹みたいな存在だったのに……。


 はたして、俺たちが元の関係に戻れる日は来るのだろうか。


  ◆ ◆ ◆


 テーブルを囲む三人。

 もっとも一人はふわふわ浮いてるけど。


 母さんはきちんと三人分ご飯を作っていた。

 でも、これじゃまるでお供え物。


「は~い、今日はアルユンユさんところの新鮮野菜切り刻み炒め! と、私が仕留めた魔物肉! 豚っぽかったから美味しいはずよ」


 アルユンユ、フィフィのファミリーネームだな。

 母さんはアルユンユ夫妻からよく野菜を調達してくる。

 うん、色鮮やかで美味しそうな料理である。

 さすがは農業が盛んな王国列車だ、食い物は美味い。

 だけど真奈が食べられないのに、俺だけ食うのはちょっと罪悪感。


「あら、手をつけないわね。どうした、食欲ないの?」

「だって、真奈が食べられないのにさあ……」

「ああそうね、マナちゃんは食べられないのか。でもこの子、車霊体でしょ。となると、ダンジョンで魔宝石を回収するしかないんだけど。けれど、そうなると面倒なことになるわねえ……」

「…………」

「かと言って、王族に石を貰うってのも無理だろうし。いくら私でも車霊体を所持してるってバレたら異端審問ものだわ……っ。うぅーん」

「……………………うっぅぅ」

「あっ、ごめんごめん。マナちゃんは悪くなーい。……って言っても伝わらないのかあ」

『ご、ごめんなさい……迷惑をかけて』


 真奈は泣きそうな声を上げてしょんぼりと輝きを潜ませた。

 申し訳なさそうに、光の大きさも小さくしてさ……。

 いたたまれなくて、食欲がなくなるなあ。


 しかし車霊体か……それってなんなのだろう。

 何度か聞いたけど、よく知らない単語である。

 真奈がそんなものになったってのはちょっと信じがたい。


「えーと母さん、車霊体ってなんなの?」

「そうねえ、車霊体っていうのは国列車の中枢をつかさどる精霊とか幽霊みたいなものよ。マナちゃんみたいなね」

「へえ……そんなすごい存在なんだ」

「車霊体がいなくなると国列車は走れなくなるからね。そうなったら最後、死の四番線に国ごと飲み込まれるとか何とか……」


 死の四番線か。

 小さいころに見た線路の下の闇空間。

 まさかそこに落ちるってことだろうか?

 そうなったら嫌だなあ。


「はは、まさかあ……作り話だよ、それ」

「ま、本当かどうかは分からないけれどね。とにかく車霊体は大切なの。だから冒険者は駅島のダンジョンに魔宝石を回収しにせっせと働くわ」

「それじゃ、母さんも普段はそうやって活躍してるってことだね」

「そういうこと。でもマナちゃんがいるんじゃ、これからは余分に魔宝石を回収しないと駄目ね。言い方を変えれば横領……不本意だけど仕方ないわ」

「お、横領……」


 すると母さんは神妙な面持ちになって、形のいい唇に人差し指を当てた。

 その声は俺に教えを説く時のもので、静かだけど耳に残った。

 しー……っと小声で、


「いーい、トレイン? マナちゃんのことは私たちの秘密。誰にもバレないようにしなきゃ駄目よ……。個人が持ってるって知れたら重罪だから」

「う、うん……分かったよ」


 重罪という嫌な響きに、喉がカラカラと渇いた。

 野菜炒めに手を伸ばすが、うわ、これ辛いなあ。


 しかし、真奈を守るのって想像以上に大変なことなのかも。

 すごく強くてかっこいい母さんに犯罪の片棒を担がせることになるとは……彼女のためとはいえ心苦しい。

 でも母さんは何で、赤の他人の彼女のためにそこまでしてくれるのだろう。

 陽炎の剣士と呼ばれ、七天士とすら対等に渡り合うすごい剣士なのに。


「ね、ねえ、母さん……真奈のこと負担に感じないの?」

「え、どういうこと?」

「だって、母さんにとって何のメリットにならないじゃないか。俺が助けたいっていうわがままでしょう?」


 すると母さんは真奈の方に目をやり少し考え、


「そうねえ、なんでかって言われると困っちゃうけれど……でも、あなたが必死になって助けた子だから?」

「ええ、それだけ?」

「そうよ。あ、それに、この家ってパパがいないでしょ! だから、家族は多い方が良いと思ってね! アッハッハ――って、言っておくけど、パパには逃げられたんじゃないからね。そこは勘違いしちゃ駄目よう?」

「あはは。母さんらしいね!」

「わ、笑わないでよう!」

「ぷっ……あはは……っ」

「あらやだ、マナちゃんまで!? あ、でも、やっと笑ったねえ! そうよ、子供は余計な心配しなくていいの! 私が守ってあげるからねっ。このリリーザ母さんがさ!」


 母さんは些細なことは気にするなと言わんばかりに、俺たちが感じていた不安を笑い飛ばしてくれた。

 なんだか、俺も真奈も元気になった気がした。

 きっと彼女が元に戻れる日は来るのだ、と、そう思えた。


  ◆ ◆ ◆


 数日後。

 今日も雲が速い、王国列車は終点目指して走ってる。


 さて、と。

 ボロボロになった魔脈が回復してきたので、サボっていた魔術の練習でもしようか。

 霊、火、水、風、土曜日と一週間も休めば、魔術も鈍る。


 善は急げということで庭に出た。

 ベンチでは母さんが真奈に言葉を教えてやっている。

 さて、俺も頑張ろう。


 とりあえず金属魔術で、金属棒を二本作り出した。

 この黒光りし、どっしりとした重厚感が堪らない。

 さて、この金属棒をどうしようか。

 普段ならこれで鉄道路線を作って遊ぶんだけど……。


 前回の戦いではバークアライドを仕留めきれなかった。

 何とか決定力のある攻撃魔術を習得しておきたいところ。

 ジスターだって俺を殺すだの言ってたし。


「強くならないとなあ……」


 金属弾にもっと威力を与える、何か上手いアイデアはないもんか。

 ……。

 …………あっ。

 何となく思いつくのは、リニアモーターだった。

 鉄道界の風雲児、最高速のいかしたやつ。

 リニアモーターによる射撃。

 これが実現できれば最高にクールだろうなあ。

 リニアモーターガン……ロマンあふれる武器である。

 が、実際に作るとなると問題は多い。


 手に持った鉄棒を見つめ思う。

 結構な重さだがそれでも一メートル足らず。


「これじゃ、長さが足りないな」


 ある程度魔力で加速力は補えるとしても、リニアモーターの性質上、発射装置の長さは長い方が良い。

 が、今でもずっしりしてるのに、そんな長い物体は武器になどできない。


「その上、鉄棒を磁石にしないと駄目か」


 金属棒ではなく磁石棒を作る、うーん、問題は山積みだ。

 どうしたもんか。


 別にリニアモーターにこだわらなければ、爆弾魔術とか暴風魔術とかそんなのが思いつく。

 けど、できれば列車と関係ない魔術はあまり使いたくない。

 だって魔脈がもったいない。

 組み換えれば済む問題だけど、いちいち元の魔術プログラムを覚えておくのも結構大変なのだ。

 自家用列車を作成して気ままに旅行がしたい、そんな夢がある。

 老後のことを考えていると、庭の池で魚がぴちゃんと跳ねる音が聞こえた。


 ……ま、焦ってもいいことはない。

 今はまだロマンの域を出ないが、いつか成長したらまた考えよう。

 急がば回れだ。


 気分転換に、鉄の棒を加工し地面に埋めて固定。

 そうやってレールを作り、さらに車輪を生成してその上で転がした。


 ゴロゴロゴロ、カラン。


 車輪は見事、軌間1067㎜レールの終わりまで転がり、魔力が切れて霧散。

 現状、精度のいいレールと車輪くらいなら作れるようになった。

 まあ、これらは種も仕掛けもない原始的な構造だから。

 あとはモーターなりなんなりで駆動系統を作成できれば、列車も作れるはず。


 そんな具合に魔術で遊んでいると、母さんと真奈がやってきて、


「トレイン、さっきから見てたらまた変な魔術で遊んでるわね」

「俺は研究熱心だから。ちょっと鉄道作成の実験をしてて」


 カツンとヒールを鳴らすと、母さんは眉間に少しだけしわを寄せた。

 俺の作った鉄道を見つめ、はあ、と溜め息。

 そして思案顔で、頬に手を当てうーんと考え込んだ後、


「ねえ、トレイン。母さん、ちょっと考えたんだけど――」

「こんにちは~!」


 んん、これはフィフィの声だな。

 相変わらず元気がいい。


 正門の方を見ると、大きく手を振るフィフィの姿があった。

 畑仕事の手伝いでもしてたのか、相変わらず泥だらけ。

 さすがは農家の娘さん。

 改めて顔立ちを見直すと可愛らしいのかも、お目めパッチリだし。

 髪を伸ばせば、普通に美少女と言われるのかもしれない。


 そんな風にフィフィを観察していると、母さんも彼女の方へ目をやり、うん! と頷いた。


「ちょうどいいところに来たわね。よし、決めたわ! トレイン、フィフィちゃんと庭で待ってなさい。ちょっと着替えてくるから」


 と言って、屋敷の中まで戻っていった。


 はて、どうしたのだろう。

 首を傾げて、真奈に事情を尋ねてみる。


「ねえ真奈、母さんどうしたの?」

「りりーざ、いってた、おしえる、ぶじゅつ、にわで」

「あ、そういうことか」


  ◆ ◆ ◆


 フィフィと庭で待っていると、母さんがやってきた。

 いつものワンピースドレスではなく、動きやすそうな革の衣装である。

 腰元には赤い剣。

 冒険者の時の姿だな。

 この格好の時の母さんはいつもより凛々しい雰囲気だ。

 赤茶の髪も日に照らされて、燃える炎みたい。


 母さんは腰のベルト辺りに手を当て、


「さてっ二人とも、そろそろあなたたちに武術を教えようと思います。この前の一件で私、考えて決めました」

「ええっ、武術教えてくれるの。で、でも、どういう風の吹き回し?」

「もう、六歳になったことだし、そろそろいいかなあって思ったのよ。……まあ、でも、フィフィちゃんの両親に頼み込まれたってのが大きいんだけどね」


 母さんは、あはは、と苦笑い。

 なるほど、奥さんもフィフィのやんちゃぶりには困ってたもんな。


 とにかくこの前の事件がいい方に転がった。

 あの母さんに武術を教えてもらえるんだから願ったりだ。


 フィフィも嬉しそうにわーいわーいと飛び跳ねていた。

 はは、こいつは純白体質の肉体派だものなあ、きっと俺なんかよりも上手くやるんだろう。


「わあ、おばさんに武術を教えてもらえるんだー! ママが言ってたよ、おばさんはすっごく強い冒険者なんだって!」

「フィフィちゃん。私はまだ、おばさんじゃないわ。そうね、今日からはあなたの師匠といったところかしら? うん、師匠、良い響きだわ!」

「は~い、師匠!」


 満足げにフィフィの頭を撫でた母さん、そしてこっちに向く。


「あ、そうそうトレイン。あなた、本気で運天士を目指してるの? ずっと子供の純粋な夢とばかり思っていたんだけど、えっと本気と思っていいのよね?」

「もちろんだよ、母さん。俺、本気で目指してるんだ! そのためなら、頑張る」


 天龍のおっさんにはショックを受けたけど、やっぱり夢は諦められない。

 生前じゃ叶えられなかったんだ。

 だからこの世界で運天士になりたい、その思いに変わりはない。


 母さんは一瞬、懐かしそうに目を細め、微笑んだ。


「ふふ、そっか……血は争えないものね。じゃあ、私も本気で教える! 二人とも覚悟するように、いいわね?」


 こうして俺は武術を教わることになった。

 運天士第三項武術、これは骨が折れそうだ。


  ◆ ◆ ◆


 庭裏の煙突森を背に、母さんはフィフィに手を差しだした。


「まずは教えの前に、握手をしましょう。はい、フィフィちゃん手だして」

「はい、師匠ー」


 ぎゅっと握手。


「あらま! これは綺麗な魔術線路をしてるのねえ。てっきりめちゃくちゃやってるのかと思ったけど……へえ、素直ないい霊脈だわ。余計な属性にも手を出してないし。これは鍛えがいがあるわねえ」

「え、そーお? 嬉しいなあ!」


 よく分からないけど母さんはフィフィの手を握り、何か感心した様子だった。


 しかし握手か……。

 そういや、銀色ローブの男ともそんなやり取りしたな。


 おっと、次は俺の番か。


「トレイン、握手よ。手だして」

「師匠と弟子だから、礼儀は大事ってこと?」

「そうよ。肌で触れ合えば、よほど格上でない限り相手の魔脈の張り方……つまり〝魔術線路〟が分かる。その結果、相手がどんな人間かもだいたい把握できて、お互い信頼してますよっていう挨拶になるのよ」


 ふーん、そういうもんなのか。

 魔脈の張り方……つまり今まで俺が魔術プログラムと呼んでたものは、こっちの人は魔術線路と呼ぶみたい。

 それにしても不思議な血管くらいにしか思ってなかったが、まさか魔脈で人となりまで分かるとは。


 なるほど、この世界の握手はかなり意味のあるものなんだ。

 となると、あの銀色ローブの男もそれなりに俺を信頼してくれたってことになるのか?

 いや、それはないか……。

 うん、ないない。


「ほーら、ぼけっとしてないで、手だしなさいな。あっ、それともキスがいいの? もう、甘えん坊な子ねえっ!」

「ええ!?」

「別に肌と肌が触れ合えばどこでもいいのよ。母さんは準備できてるわよ? それ、んん~」

「わ、いいよ! フィフィが見てるし、恥ずかしい! あ、握手っ!」


 しゃがんで唇を奪おうとしてきたので、慌てて握手した。

 まったくなんて母親だよ! と冷や汗を流していると……。


 うわ、母さんが威嚇する猫のようなすんごい険しい顔つきになった。


「えっ、トレイン。何この脈の張り方? あぁ、ひどい、めちゃくちゃな魔術線路。まさか六歳でここまでぐちゃぐちゃにするとは逆にすごいというか……」

「え、ええ……!?」

「土脈に風脈、霊脈と水脈、火脈……子供のうちから欲張りで汚い魔術線路をしてる。これじゃ、まともに魔術も使えなかったんじゃない? って、よく考えたらあんた、役に立たなさそうな変な魔術ばかり使ってたわね」


 きっと鉄道魔術のことを言ってるのだろう。

 さっき、呆れ顔で見てたし。


 鉄の棒を出す魔術に、車輪を転がす魔術。

 あとは虫かごを作ったり……うん、傍から見れば変な魔術かも。


 母さんは頭を抱えてうなだれた。

 これは重症だ、とでも言いたげである。


「と、とにかくこれじゃ話にならないから矯正しないと駄目ね。まだ子供だからマシだろうけど、数年は掛かりそう。もしかしたら運天士になれないかも、これじゃ」

「え、嘘だ! だって、これくらい普通だよ。ねえ、母さん?」

「普通なわけないでしょ。こんな散らかり放題の魔脈じゃロクに魔術も扱えないし、脈連携が命の武術だってできないわ」

「だ、大丈夫だよ! 脈を組み換えるから。そしたら普通に魔術も使えるし。ちょっとは汚いかもしれないけど、ふ、不便はないよ」


 そ、そうだ。

 さっき鉄道に車輪を転がしたから魔術プログラムを崩しちゃってたんだ。

 そう、普段から組み換えばかりやってるから元の綺麗な状態が分からなくなってただけ。

 えっと、そうだな、魔脈を普段の戦闘用魔術プログラムへ組み換えてっと……。


 その時、


「っ! トレイン! あんた何やってるの!」


 イテッ、手を思いっきり握られた。

 母さんはハッとした様子で、手を放した。


「あっと、ごめん。でも、さっき魔脈を移動させてたわね。それも矯正なんてもんじゃない速度で」

「え、普通でしょ? だって、そうしないと脈が足りなくなって色んな魔術は使えないし……」


 俺の弁解に、母さんは腕を組んで口元に手を当てた。

 なんだか怖い……。


 え、なんだろう、もしかして俺は本当に運天士になれないのか?

 こんなことになるんなら、余計な魔術なんて覚えるんじゃなかった。

 あれこれ浮気せず、フィフィみたいに一つの魔術を鍛えておくべきだったんだ。


 後悔し、そっと体内から虫かご用プログラムを解除した。

 さらば、虫かご。


 母さんの表情は相変わらず険しい。


「信じられない。バークアライドさんの言っていたことって、まさかこれのこと? それにこの子、線路延長も5000メトロは軽く超えているし……」

「えっと、母さん……もしかして俺、異常なの? 運天士になれないの?」

「ねえ、トレイン。あなたの体質って何? 分かるでしょ、正直に話して」


 母さんは俺のことを心配してくれているようだった。

 だから俺は正直に答えた。


「き、金色……」

「金……そう、分かったわ。どうやら、あなたは人と違う特異体質みたいね」


 母さんは思ったより、冷静だった。

 最初こそ血の気が失せたような顔だったけど、すぐにいつもの調子に戻ってくれた。


「そんな心配しないの。大丈夫、むしろそれは才能よ。弟子をとるなんて初めてだけど、ワクワクしてきた!」

「え、才能なの?」

「体質に合った魔術を極めていくのが普通だから、まあ邪道ではあるわね。けど、魔脈を組み換えて色々できるって、それはすごいことだと思うの」

「は、ははっ、才能なんだ。そっか、良かった~」

「よーし、面白くなってきたわね。これは中々鍛えがいがありそうっ。腕が鳴るわ!」


 やっぱり俺は人と少し体質が違うらしい。

 けど、問題はなさそうだったので、頑張ろうと思う。

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