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第28駅 死んじゃえ ◆挿絵あり

 ギャーギャーうるさい。

 俺がトロッコを運転している後ろで、アルジェリカさんとユニセリアさんが喧嘩を始めていた。

 とは言っても、アルジェリカさんが一方的にまくし立ててるだけだけど。


「でえ、運天士! あんたなんであたしを罠にはめようとしたわけさっ」

「……っ」


 ユニセリアさんはだんまりを決め込んでいるみたい。

 殺されかけたらしいんで、アルジェリカさんの機嫌がさらに悪くなる。

 真奈が心配そうに二人の方をちらちらと見ているが、お前は迷宮の罠に気を配っていて欲しい。


 運転に集中できないな、これじゃ。

 これじゃあ気が散って仕方ないな、と俺はアルジェリカさんに事情を尋ねてみた。

 前は見たままでね。

 細かな注意は真奈に任せた。


「アルジェリカさん、何かあったんですか?」

「呆れるよ本当。こいつはねえ、わざと転移の罠に私をおびき出して、こっちを殺そうとしてきたんだ。でも、こいつったら間抜けだから、自分も一緒に転移しちまってんだから世話ないよ」

「それはまた酷い話だ」


 元からおかしな人だったけど、ユニセリアさんったら最悪だな。

 事情があれば助け船を出してやりたかったけど、これは彼女が普通に悪い。

 しばらくアルジェリカさんがユニセリアさんを叱りつけているのを耳にしながら俺は運転を続けた。

 うん、うるさい。


 トロッコが基地に着いた。

 寂れた坑道に隠された廃工場って感じの場所。

 ここから先、線路が分岐しているので真奈に行先を調べてもらうことに。

 線路の選定には、相当な集中と魔力を消費するようなので邪魔してはいけない。

 ずっと気を張っていたから疲れた。

 少し休もう。


 まだ喧嘩しているアルジェリカさんとユニセリアさんの間に俺は割って入っていった。

 基地内には、古代人が車両整備に利用していた施設がちらほらあって、はるか昔の整備士たちが寝泊まりしていた宿も形だけは残ってる。

 ユニセリアさんは部屋にあったボロボロのベッドに引きこもり、シーツの隙間からアルジェリカさんをジッと睨んでいた。


挿絵(By みてみん)


「もう、許してあげたらどうですか? アルジェリカさん」

「そうは言うけれどだね。こうさあ、反抗的な態度を取られたんじゃあね……」

「いつものことですよ。ね、ユニセリアさん?」


 引きこもりの幼女に笑いかけてやるが、駄目。

 ユニセリアさんは俺と目が合うと、猫に見つかったネズミみたいになってシーツに潜ってしまった。

 彼女がもぞもぞと動くたび、砂っぽい埃が舞って俺は咳き込んだ。


「げほげほっ。えっと、困ったな。今だって迷宮の奥深くに来てるわけだから……運天士にも協力してもらわないといけないのになあ」

「こいつには協調性ってもんがないよ。ったく、こっちは四番線の亡霊に変なことを吹き込まれた上に、帝国の連中がおかしな行動をしてるってんだからイライラしてるのに……。そこに来て運天士に殺されかけるんだから最悪だよ」


 アルジェリカさんは俺の頬をペチペチと叩くと、気だるそうに頭を抱えた。

 この人も大変なんだな。


 ……あ、またユニセリアさんと目が合った。

 今度はちょっと違うぞ。

 なんだろう、彼女は口の辺りをゴニョゴニョさせながら、何か言いたげにして神経質そうにまばたきを繰り返した。


「あの……どうかしたんですか?」

「……ん」

「えっと……」

「魔族の連中は変な輩が多いとは聞いていたけれど、その代表がこれとはねえ……」


 というか、いつも棺桶に引きこもってるのになんで今日に限って、棺桶から出てきて迷宮にまでやってきてるんだろう?

 ユニセリアさんだって、きっと何か考えがあるはずなのに……。

 と、こっちを警戒している? ユニセリアさんを観察していると、


「……こっ、これ……っ」


 うわっ、びっくりした。

 急に、立ち上がるもんなあ。

 って、あれ、手に何か持ってるな。

 これを俺に渡そうとしてくれているのか?


 ユニセリアさんの小さな手から、染みでごわごわになった小汚い紙切れを受け取った。


「これ、なんですか?」

「……わ、わわ、私の長所とか、書いてるのよ。えっと……自分の長所とか、自分で喋るの恥ずかしい、でしょ? だから……これで、私のことを知って欲しい」


 蚊が鳴いたような、か細い声でぼそぼそ何やら意味の分からないことを言われたような……。

 とりあえず紙切れを広げると、下手くそな字でユニセリアさんが自分で自分のことが可愛いと思う点を、書き綴っていた。

 これ、自分で描いたのだとしたら相当恥ずかしい気がするぞ。


「あの、ユニセリアさん? 意外と巨乳って、自分で書いたんですか? あの、これは非常に戸惑いますね……。な、なんで、こんなものを……。」


 するとユニセリアさんは崩れ落ちるように、座り込んでしまった。

 顔を手で覆って、めそめそ。

 かと思ったら、俺の方をちらちら見てくる。


「私、失恋、した」

「失恋……」

「……リニアード様に嫁がいた、なんて、何かの悪い夢だと思っていた、のに! なのに! 実際に! 見ちゃったのぉ、本物! あぁあぁ、私よりも大人の女性、だった。私には、勝ち目が、なかった! そうよね、私は魔族、だもの。いつまでたっても、ガキンチョみたいな見た目、だからね。そうよね、仕方ないわ。だから、リニアード様の分身みたいな、あなたのお嫁さんになって、自分の鬱憤を晴らそう、と思ったのよ。それって、リニアード様の嫁になっているのとほとんど同じだとは思わ、ない? 幸い、あなた、顔だけはあの方に似てるから、我慢してあげる。うふふ、ふふ」


 変なタイミングで息が詰まった変なしゃべり方だった。

 にしても困ったな、これ。

 頼むから、ちらちらとこっちを見ないで下さい……。


 俺はアルジェリカさんと示し合わせて、部屋を出ようと踵を返した。

 ここにいるとだ、埃がすごいし、ユニセリアさんの負のオーラに当てられて参ってしまう。


「……と、とりあえず……真奈のところに戻りましょうか? うん、そうしよう」

「いや~、頭のおかしい奴だとは思ってはいたけどね。これは呆れた! トレイン、相手するだけ無駄なのは分かってるね?」

「ユニセリアさん……あなた、よくそれで運天士になれましたね」


 やれやれ、と出口へ向かう。

 するとユニセリアさんは、待って! と言い、俺の裾を掴もうとしたけど失敗。

 バランスを崩して、またこけた。

 かなりやせていて、どう見ても頼りない。

 本当……これでよく運天士になれたものだ。


 いたたまれなくなった俺は、恐る恐るユニセリアさんへ手を差し伸ばした。

 握り返された彼女の手は、汗? で妙にネチョネチョしてた。

 とりあえず黒炭で汚れた、寝巻の汚れを払ってやる。

 妙にニヤニヤしてるユニセリアさんがまた気持ち悪かった。


「ウフフ、フフ、なんだかんだで世話、焼いてくれるんだ? いぢわる、な振りをして、優しい、のね? そうよね、私のパンツとか、ずっと洗って、くれてたもんね。それも手もみ、で。うふ、ふふ、そんなところ、もリニアード様、そっくり……」

「あなたは運天士の中でも、一番いっちゃってますね。あ、ほら、真奈のところへ行かないと。立てます?」

「ひひ……じゃあ、おんぶ、してよ。私、自分じゃ、動きたくない、から」


 アルジェリカさんが呆れ返って先に行ってしまったので、俺はユニセリアさんをおんぶして後についてった。


 戻ってきて、分岐した線路の前で真奈が悩んでいるのを見つめる俺。

 で、ユニセリアさんは俺から離れようとしなかった。

 ひっつき虫みたいに俺の背中にまとわりついてる、ちょうど髪の毛も緑色だし本当、虫みたい。


 アルジェリカさんはそんな調子のいいユニセリアさんをジトッとした目で見つめていた。

 胡坐をかき地面に転がっていた鉄屑をいじりながら、


「ようやくしゃべったかと思ったら、トレイン専用かい。あたしのことは無視かい」


 ケッと顔を歪めて、鉄屑をユニセリアさんに投げつける。

 ユニセリアさんは避けられず、頭にタンコブを作って涙目に。


 こ、ここは俺が通訳になってやらないと駄目だな。


「ああ、そう言えばユニセリアさんってどうして、アルジェリカさんを陥れようとしたんですか?」

「……だって帝国人だから……。だから殺そうとしたのよ、悪い?」


 蚊の鳴いたような声だけど、酷いこと言うなこの人……。


「殺すって、ずいぶんと極端な」

「だって、三番線の人間にとって、帝国は……仇なのよ」

「……ったく、あたしはとばっちりか」

「て、帝国人はみんな、死ねばいいの。死ね、死ね、死んじゃえ」


 話を聞けば、その昔、三番線で大規模な列車事故があったらしい。

 魔界列車以外の国列車は沈んで、ほとんどの魔族が死んだんだと。

 ユニセリアさんは、帝国列車の連中が三番線を廃線にしようと目論んだ出来事だったと言う。

 事故ではなく、事件だったのだと。

 と、そんなことを、死ねという言葉を何十回も織り交ぜながら語ってくれた。


 アルジェリカさんは、否定も肯定もしなかった。


「もう何年も前のことだよ。今となってはどうでもいいことさ。確かめようのないことだからね」


 つまらなさそうに目を伏せたアルジェリカさん。

 そうやって立ち上がり、停車していたトロッコに向かったところだった。


 整備用の線路奥からだ。

 何かが走る音が迫ってきた。

 列車の音……とは違うな。

 すごい速さで近づいてくる。


「いいや、それは違うともさあ、お嬢ちゃん……っ。生きている証拠がここにいるからなあ……っ」


 闇へ目を凝らすと同時、闇の中から低い男の声がぬるい風に乗って聞こえてきた。

 狭い鉄の回廊で、グワングワンとそれが響き渡ってる。


 次の瞬間、黒い狼型のオートマタが群れを成して回廊の闇を駆け抜け、アルジェリカさんの剣を弾き飛ばした。

 噛みつき、アルジェリカさんを食い殺そうとするんだからいきなり過ぎる。


 アルジェリカさんは腕に噛みついた機械狼を振り払うと蹴飛ばす。

 マントを破いて、ぼたぼた血を流した腕に巻きつけて止血した。


 いつの間にか、状況は俺たちが捕食されそうな展開に。

 彼女の剣は機械狼の一匹が口にくわえていて、そいつが襲い掛かるタイミングをうかがっている。

 機械狼は六匹、俺たちをあっという間に取り囲んでしまっていた。


 アルジェリカさんは舌打ち、ジリジリと後退して俺に背中を預けた。


「こいつは帝国の機動兵器<黒狼弐>じゃないか。空賊が運用していい代物じゃないはずだったと思うけどねえ……?」


 アルジェリカさんが暗闇の向こうを見据えると、そこから狼の毛皮をまとった老人が機械狼にまたがり現れた。


「お嬢ちゃんが知る必要はねえともさ。さて、依頼を片付けてしまおうか。野郎ども、配備に着け!」


 隻眼の老人の鋭い眼光が闇を一閃すると、黒い鎧……いや機械鎧を武装した兵士たちがぞろぞろと機械狼のそばに展開して俺たちを取り囲んだ。


 アルジェリカさんが、肩をすくめてヒュウと口笛を吹いた。

 おどけた後、老人を睨む。


「これはどういうつもりだい……? 空賊にあれこれ言うつもりはないけれど、同郷の人間とは思えない歓迎の仕方だ」

「お嬢ちゃんには悪いがねえ。そこのチビガキを始末しないといけないんでえね。亡霊が本格的に動き出した以上、魔界列車は完全に潰しちまわないとぉだ」


 腰のレールマグナムに手を掛けつつ、俺はユニセリアさんの方へ目をやった。

 彼女は真奈と共にトロッコの後ろに隠れて、こっそりと顔だけ出してこっちの様子をうかがっている。

 でも老人を見た途端、震えた声で小さく吠えるのだ。


「リニアード様の敵……っ。こ、殺さないと……っ。帝国人は殺さないと……っ」

「どうやら、ユニセリアさんと無関係じゃないってわけか。アルジェリカさん、ここ、突破できそうですか?」

「はんっ、やってみないと分からないねえ。ったく、亡霊とかかわったばかりに、とんだ事件に巻き込まれちまったよ」


 貧乏くじを引いた! と、アルジェリカさんが嘆いて足元の金網を蹴った。


 さて、どうする。

 アルジェリカさんは剣を奪われて、ユニセリアさんはどうせ当てにできない。

 で、相手は今まで潰してきた空賊のどれよりも強いだろう。

 この空賊、帝国とのパイプの強さがうかがえる。

 クオリティの高い工業製品を装備しているから手こずりそうかも。

 何にせよ、ここは俺がやるしかないみたいだな。


 敵へ集中を始めると、アルジェリカさんがボソッと呟いた。


「<天空の夜>首領……銀眼のウルフェンだ。白魔術主体の肉弾戦に注意しな。もっとも、周りの雑魚を蹴散らさないといけないわけだけど……」

「いや、この程度なら任せてください」


 レールユニットを使うまでもない。

 魔術プログラムを組み換えて、俺はしゃがんで地面に手を当てた。

 地面は金属、そして敵も金属の塊だ。

 この場一帯に電磁石変換脈を組み込んでやり、魔力を流し込めば、さあ、どうなる?


 敵の動きは止まった。

 まるでゴキブリホイホイ。

 うん、真奈の魔術を参考に真似てみたけど上手くいった。

 強力な磁力に兵士も狼も身動きが取れなくなったみたいだ。

 あと、真奈も。


「首領っ、足が地面に張り付いて、なぜか動けません!」

「……あの坊主、何かやったみたいだな?」


 老人が足の裏を、んん~? と確認し、俺の方を睨む。


 おや? あの老人は動けるらしい。

 機械装備をしていないのか、あるいは生身なのか。

 とりあえず、相手を近づかせないように、すれば十分戦え――うわっ!


「構えが隙だらけだなあっ!」


 この老人、めちゃくちゃ速い。

 フィフィの倍くらいか?


 反射的に右腕に金属の盾を生成、すぐにガード。

 鼓膜を打つ、痛烈な衝撃。

 腕がしびれるよう。

 歯を食いしばる。

 と、牽制の氷弾が視界を横切った。

 一瞬老人の注意が俺から逸れる。

 ホルダーに指を掛け、銃を弾くように取り出す。

 すぐに突き出された老人の太い腕をマグナムで撃ち抜いた。

 破れたホースみたいに血が噴出したのを確認し、俺は距離を置いた。


 老人は抉れた腕の肉に目を落とすと喉の奥で笑い、トロッコの後ろに隠れているユニセリアさんに視線を流した。


「ユニセリア、良い弟子を持ったなあ。まだ若いのに、黒魔術師として完成してる」


 アルジェリカさんならまだしも、ユニセリアさんの弟子になった覚えはない。


 で、本人はうわ言に夢中みたい。

 耳を塞いで、老人の言葉なんか聞いちゃいない。


「死んじゃえ、帝国人は死んでしまえ。みんな、死んじゃえ……っ」

「俺も嫌われたものだなあ。だがこのでかい依頼、こちらとしても失敗できないんだ。ここからは俺の固有魔術で狩らせてもらおうかあ……っ」

「チッ、噂は本当だったようだね……っ。いいかいトレイン? ここからは瞬きすら命取りだからね。あいつから目を離すんじゃないよっ」


 そんなの当たり前だろ……って、あの老人の固有魔術ってまさか。

 固有魔術――脈を鍛え続けて、やがて極めた人間だけが得ることの出来るそいつだけの魔術。


 瞬く間に、老人の筋肉という筋肉が川のように流動していく。

 この老人の場合はなるほど、出来上がったのは狼人間ってわけか。

 純粋な超肉体強化。


「よぉおし、俺の身体能力についてこれるかぁな?」


 俺はゴクリと喉を鳴らし、アルジェリカさんと巨体を誇る狼男と敵対した。


「アルジェリカさん、数秒だけ敵の注意をひいてください」

「……考えがあるとか?」

「ええ、少し」


 これはスピード対決になる。

 だけど、こちらが身体能力を競っても分は悪い。

 となると、さっき地面に仕込んだ電磁石を有効利用するのがいいだろう。

 そうと決まれば足先に集中、靴の裏を電磁石でコーティングさせた。

 そして後は地面に電磁石の道――リニアモーター経路を決定するだけ……。

 もっとも、設定した経路が役に立つかどうかはアルジェリカさん次第になるけれど。


 アルジェリカさんと目配せした次の瞬間、狼人間が弾丸のごとくこちらに突っ込んできた。

 敵はアルジェリカさんに任せて、地面に突いた手を起点に俺はリニアモーターを放射線状に伸ばした。

 よし、ここからは俺もリニアモーター軌道上限定で高速機動に対応できる。

 風脈と水脈を可能な限り足に寄りあわせ、起電力を最大出力に設定。

 準備完了。

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