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第23駅 魔界列車にて

 三番線壱号国、魔界列車。

 主要種族は魔族、公用語は三番線語。

 面積は王国列車の十倍以上にもなる。

 一方、人口密度は王国列車の千分の一しかなくて、魔族よりも魔獣の方が多いくらい。

 街も少なく、車両間にまたがるように車両間街が数か所あるだけ。

 ……と、そんなことを俺たちの車霊体さん、えっと真奈が教えてくれた。

 なんだろ、この世界について詳しくて便利なのはいいけれど、そろそろこいつの正体が気になってきたな。


 さて行こうか、と意気込んだ俺たち。

 人が少ない分、自然と魔物が幅を利かせている。

 道中は襲い掛かるそいつらを撃ったり切ったりの、中々ハードな展開だった。

 攻撃役はフィフィ、俺は中距離からのサポートに回って、コークスさんと真奈は応援役……真奈は戦おうと思えば戦えるが、燃費が悪いから。

 しかしなんだ、フィフィはいよいよ強くて驚いてしまうぞ。

 母さんの剣はまだ大きめだけど、嵐のごとく魔物をぶった切るその姿は中々さまになっていた。


「よーし、トッくんに負けないぞ! 武術では、負けないからね! とりゃー!」

「どうしたんだフィフィのやつ? 妙に意識されてるな、俺」


 ……暴走列車の件以降、俺を見るフィフィの目が変わった気がする。

 そういえばもうすぐ九歳か、時間の流れを感じてしまうな。


 道中は危険だったけど大怪我をすることもなく、魔界列車に乗車してから数時間が経過した。

 靄のかかっている遠くの人骨みたいな煙突兼マストと破れた帆、それをフィフィが、「大きいなあ」などと口を開けて見上げていた。

 それにしても、何かを払しょくするように一心不乱に戦っていたな、こいつ。

 陽炎の剣には、魔物の血液が大量に付着していて恐ろしや。


 真奈はというと、泥に足を取られて転んでいて、こっちはこっちで心配になる。

 ここ最近の急激な冷えと湿気のせいで、金属の体が傷んだり錆びたりして、調子が悪いらしい。


 ふと、俺は壊れた洗濯機のように身震いした。

 そろそろ日が落ちて寒く、身に纏っていた獣の皮が結露し始めていた。

 鼻をすすり、ぬかるんだ地面に目を落とすと、冷たげな夕日がガラス片のように反射していた。


 コークスさんは目を細めて、「今日の寝床はあそこだな」と、群生している枯れ木の方に視線を流す。

 目をやると、どんよりとした霧に覆われた沼地の奥、そこに洞窟が暗い口を開けていた。

 人里まで、まだ四十カルメトロ――新大阪から京都くらい――はあるから、一日目にしてさっそく野宿か。

 亀の甲羅のようなそこに、べちゃべちゃと足音を鳴らしながら俺たちは向かった。

 途中で俺が泥ガエルを、フィフィが泥ヘビを数匹捕まえて、それらを夕飯に洞窟へ転がりこんだ。


 さっそくコークスさんが枯れ木に炎魔術で火をくべ、そこに木の枝を通したカエルとヘビを投げ入れて岩肌にもたれかかった。

 伸びた爪が邪魔なのか鋭い牙で爪を噛み切りながらで、はたと金色の瞳をこっちに向けた。

 ペッと爪を吐き捨てて、


「これから天涯孤独とかいうおかしな運天士野郎を探すんだったか。となると、目指すは先頭車両だな」

「魔界列車には転移用の改札はなさそうだから、当面は歩きですね」

「あったとしても整備されてないだろうし使えないだろ。……ま、魔界列車が広いと言っても、駅大陸ほどじゃない。親父さんの情報でも集めながら、のんびり行こうや」


 コークスさんは火の中から、焼けたカエルを取り出して、かじり始めた。

 なんだか食欲のなくなる咀嚼音を立てながら、ほらよ、と皮が黒く焦げたヘビを俺にわたす。

 ヘビ類は見た目こそ悪いが、味は……まあまあ。

 一緒にモグモグやり始めると、コークスさんは話を続けた。


「さて、ロローク嬢の話の件だが……。ちょうど落ち着いたところだし話しちまおう」

「あ、暴走列車のせいで忘れていた! コークスさん、あなたはロロークさんから何を聞いたんですか?」


 魔宝石を腹の動力炉に放り込んでいる真奈と、母さんの剣を磨いていたフィフィも、コクリと頷きあって興味津々。

 コークスさんは、咀嚼するのを止めると、神妙な面持ちとなった。


 それからしばらくコークスさんの話は続いた。

 なるほど、どうやら……妙なことになってしまっているらしい。


「――というわけだ。つまり、俺たち支局職員の知らないところで、本局の上層部は〝極秘業務〟を開始しようとしているみたいだ。ロローク嬢はそれに反対した、だから殺されちまったんだろう」

「極秘業務?」

「ロローク嬢が言うには確か……〝新型車両計画〟だったか。なんでも既存の国列車とは一線を画する超特急だとよ」

「新型車両か。普段だったら胸が躍るけど……」

「なんにせよ、終点の楽園には何かがあるってことだな。はは、おもしれーじゃねえか」


 新型車両計画――ジスターはそのために、真奈を連れ去ろうとしていたのか?

 分からないことはまだまだあるが、ロロークさんはその計画に反対して殺された……。

 なんで反対したのか、本人が死んだ今となっては分からない。

 ちくしょう、殺す必要まではなかったはずなのに、酷い奴らだ。


 悔しさと無力さに苛まれていると、コークスさんが続けた。


「おいおい、落ち込んでいる場合か。途中下車せずに、前へ進むって決めた以上、くよくよしてる余裕なんてねえぞ。マナを守るんだろ? お前はてめえの母ちゃんの分までやるしかねえんだ」

「いや、違う。母さんは死んでない、どこかで元気にやっているはず」

「確かにロローク嬢はお前の母ちゃんを逃がしてやったみたいだが……生きている可能性は低い」

「でも、やっぱり俺は……」

「やめろ。ロローク嬢が言うには、運天士の中に一人、裏切り者がいるらしい。つまり、お前の母ちゃんは、ジスターと天衣無縫、そしてもう一人の運天士を敵に回したことになる。残念だが、そういうことだ」

「そんな……っ」


 俺は思わず、手にしていたヘビの丸焼きを落としてしまった。

 一方コークスさんは、真奈の抗議の視線から逃れるように、カエルへがっついた。

 パチパチと火の子が飛び散るたき火の中で、カエルの腹が膨らみ、風船みたいに割れた。


 でも……俺はそれでも母さんが生きていると信じたい。

 それになんだろう、ロロークさんの言葉には違和感がある。

 なんでロロークさんは、〝裏切り者〟なんて表現を使ったのだろうか?


  ◆ ◆ ◆


 魔界列車に来てから、二週間が経った。

 野宿が九割、宿泊が一割、そんな感じの旅になっている。

 現在地は前から二両目、ちょうど幽霊船編成のど真ん中だった。


 枯れ木の湿地帯を進んでいると、サイ型の魔物をぶった切るフィフィを横目に、コークスさんが耳打ちしてきた。

 途中の街で彼が買ってくれた魔導機関大全を読むのを止め、俺は首を傾げた。


「おい、トレイン」

「……どうしたんですか? 魔物の退治なら、フィフィがやってくれてますよ。読書の邪魔です」

「いや、そうじゃなくてだ。どうするんだ、あれをよ」


 後ろの方にて転び、泥んこになっている真奈を、コークスさんが指差した。

 いよいよ機械が傷んで調子が悪く、そんな光景を見つめる彼は、はだけた胸元をぼりぼりとかきながら呆れた様子だった。

 街で買った民族衣装とツナギの中間みたいな服を着ていれば、ああ、この人は整備士なんだなと思う。


「あれはいけねえ。……ええと、マナとか言ったな。にわかには信じがたいが車霊体で、オートマタにぶちこんでいるんだったか?」

「色々事情があってですね。説明すると長いです」

「はは、じゃあ置いとこう。で、あのオートマタ、あのまま放っておくと魔界の気候にやられてガラクタ一直線だぞ?」

「それは大変。そろそろ真奈にもあなたのことを認めてもらわないと……」


 真奈は相変わらずコークスさんが苦手だった。

 機械いじりはお手の物の彼なんだから、整備してもらえばいいのに。


「ははん、相変わらず俺は嫌われてるな」

「笑い事じゃないですよ。変な意地張っててもしょうがなのに、ほんと真奈も馬鹿だ」

「ま、変な意地と言えばだ、あっちのチビ剣士もそうだな。お前に対して、対抗意識を燃やしてやがる……。クックック、大変だな~トレイン?」


 コークスさんは荒れるフィフィの様子を楽しげに見つめ、俺の背中をバシン! と叩いた。

 イテテ、まったく他人事だと思ってさ。

 ……でも確かに、最近フィフィは俺と距離を置いてるのは感じてる。

 真奈も真奈で心配だし、ちょっと胃が痛くなってきたぞ、こいつは。


 コークスさんは、こっちの心配事なんてどこ吹く風で、俺の頭をポンポン叩くと、先を行き始めた。

 あ、フィフィが魔物を倒したのか。


「トレイン、先を急ぐぞ。おいおい、そう睨むなって、マナのことは俺が何とかしてやる。だからお前もせいぜい魔導機関の勉強をして、俺の優秀な助手になってくれよ」

「……頑張ります。って、整備士になるつもりはないけれど」

「いんや、お前には才能がある。本に書いていないことがあれば、俺が教えてやるしな

。なんにせよ、魔導機関はアールド古代文明の肝心要だ。きっちり押さえておいて損はない、頑張れ少年」

「鉄道に関わるなら、避けては通れないってことですね」


 俺もコークスさんの後に続いた。

 この分だと、しばらく武術をやってる暇はなさそうだ。

 当面の目標は真奈の整備ができるようになること、よし頑張らないと。


 さらに一週間が経った。

 運天士がいる所までそろそろとなり、それに今日は久しぶりに宿で泊まれそうだった。

 場所は一両目と二両目の間にあるそこそこ大きな名もなき街。

 ええと、肝心な宿はというと、……うん、期待はしてなかったけど、雨風をしのげるなら文句ないね。

 ……いや、せめて腐った木の柱くらいは土魔術で補強しておこう。


 と、ところどころひび割れた地面にしゃがんだところ。


「あわわ、脚が……っ」


 ここずっと、恐れていた事態が起きてしまったみたい。

 異常な湿気と酷く寒冷な気候はオートマタには厳しかった、ボロ宿の前で真奈の脚がもげたのだ。

 そう、ぽろっと。

 股関節の部分は体重が乗るし、その上歩いてばかりだったので、金属疲労が限界を迎えたのだろう。

 もう半年近く、整備をロクにしてなかったのも要因か。


 コークスさんは額に手を当てると、よいしょ、と、もげた足を抱え切断部を覗き込んだ。


「あ~あ~、言わんこっちゃねえなマナさんよ。これじゃ歩けないぞ。とうとう大っ嫌いな俺に整備される時が来ちまったか?」

「うぅ、足がもげてしまいましたぁ。トレインさん、何とかしてください~」

「さり気なくコークスさんを無視したな。……いや、本業の人に頼みなよ。ほら、俺じゃ溶接くらいしかできないし、それに他にも色々ガタが来てるだろ」

「でも、コークスさんは私やトレインさんに意地悪しますし……嫌いです」

「いやいや、確かにコークスさんは口が悪いし、見た目も野蛮だけど……」


 ちらりとコークスさんの方を見ると、褒めてもないのに笑っていた。

 鋭い牙が覗き、真奈がうぅ、と泣きそうになる。

 なんだか、面倒くさくなってきた。


「と、とにかく、コークスさんは悪い人じゃないって! 凄腕の整備士なんだから、頼っとけって。な、フィフィもそう思うだろ?」

「ふんだ、しーらない。どうせ僕は頭が悪いですよーだ」

「うわ、こいつもあからさまに機嫌が悪いな」


 こっちはこっちで面倒くさいぞ。

 フィフィめ、何をそんなに拗ねているのか。


 とりあえず真奈を何とか言い聞かせて、俺たちは宿に入った。

 部屋に入ると俺はベッドに腰掛け、コークスさんは半ば無理矢理、真奈の改修を始めた。

 あいつも最初は嫌がっていたみたいだけど、コークスさんが何か吹き込むと大人しくなってびっくり。


 何があったのか、真奈は嬉々とした様子でこっちに手を振っている。

 すると腕も、ぽろっともげた。

 なるほど、本当にもうボロッボロッなんだな。


「トレインさーん、コークスさんが可愛い体に改良してくれるらしいですよ! 楽しみに待っててくださいね。……って、ああ、腕が」

「可愛い体……コークスさん、すごいですね。そんなことまで出来るんですか?」

「オートマタも列車もでかさが違うだけで魔導機関で動いてる点は同じだ。この型番だったら楽勝だな」


 コークスさんは背中を向けたまま、魔術で溶接機やらの工作器具を作り出していた。

 何かを確認するように、ハンマーで真奈の体を叩いて、クックックと笑う姿は怪しい限り。


「まずは軽量化か、図体がでかすぎるんだお前は。金属の質が悪い以上、軽くして各部位の負荷を減らさないとな。……いったんバラすぞ」

「あの……、お手柔らかに」

「ははは、もうちょっと女らしい体型にしてやるよ。トレインさんに振り向いてもらえるくらいに、だ」

「もう、そんな冗談……あの、本当にできます、か?」

「任せろ!」


 何だよ、急に仲がいいぞ。

 いや、いがみ合っているよりかはいい、それにしても意外と真奈も現金なもんだ。


 苦笑していると、コークスさんがこちらに手招き。


「おうトレイン、お前も近くで見とけ。オートマタいじりも案外勉強になるんだ。それが趣味だった整備士仲間も結構いたからな」

「なるほど、本を読むだけじゃ十分じゃないですもんね。……あ、フィフィ、お前も一緒にどう?」


 固いベッドから立ち上がり、部屋の隅っこで母さんの剣を磨いているフィフィを誘う。

 けどあいつは、こっちを見ようともせずに、イライラとした様子で剣を布でゴシゴシやるばかり。

 おいおい、そんな力任せにすると、逆に剣が傷みそうなんだけど……。


「ふんだっ。どうせ、僕には分かんないもん。そっちは勝手に魔導機関の勉強でもしてたら? 僕はお外で剣を振ってくるからっ」


 フィフィはそれだけ言うと口をつぐみ、窓から飛び降りて街の方へ走ってった。

 ここは二階なのに、相変わらずの破天荒さに舌を巻く。

 しかし困ったな、あいつは俺の何が気に入らないんだろうか。


 仕方ないので、一人でコークスさんの隣に座って作業を見守ることに。

 だけど集中できず、なんだかこっちまでイライラしていると、隣のおっさんは真奈をバラしつつ怪しげに笑っていた。

 画的にスプラッタな光景で、思わず喉の奥から変な声が出ちまった。


「な、なにを笑ってるんですか?」

「いんや? 女の嫉妬はこええなって思っただけだ」

「嫉妬ってフィフィのこと?」

「ほっときゃいいんだ。あのガキ、見たところ白魔術が得意な純白体質だろ。ああいうのは機械をいじったりするのは苦手だ。実際、整備には黒魔術を使うしな」

「フィフィが嫉妬? そんなことあるわけ……」

「あれだ、列車が暴走した時に何も出来なかったのが悔しかったんだろうよ。で、あいつの目の前でお前は見事に列車を止めちまったと。そりゃ、複雑だろうよ」


 コークスさんにズバズバ言われていると、逆にモヤモヤした気分になってきた。

 今まで仲良くやってきたのに、一緒に運天士になろうと思って頑張ってきたはずなのに、なんだろうなこの気持ち。

 列車を止めたのだって、フィフィを守る意味だってあったのに、嫌われてたんじゃ世話がない。


 と、コークスさんの作業をぼんやり眺めていると、


「おら、トレインぼさっとしてるな。今から俺が設計図をかいてやるから、指示通りに部品を加工してくれ。面倒な内部機構はこっちが仕込むから、お前は余った金属片から部品の加工だ」

「部品の加工って、いきなり大役ですね」

「いんや、お前に足りないのはどうやって脈を仕込むかっていう魔導機関の知識くらいだろ。魔術の精密さ自体は、お前の方が上だ。だから部品の成形は任せる。なに、適材適所ってやつだ」


 コークスさんはそれだけ言うと、一階の受付から黄ばんだ巻き紙を持ってきて床に広げた。

 カリカリと黒炭の棒で設計図を描いてく。


 こうして、コークスさんと俺による真奈の大幅なアップグレード作業が始まった。

 母さんとの修行は役に立った、黒魔術における仕込み技術は奥義で間違いなかったから。

 物体に特別な動作を命令させたいなら、そういうプログラムを組んだ魔脈を仕込む、それはコークスさんのやっている作業も同じこと。

 もっとも、その仕込み方ってのは、千差万別で勉強あるのみ。

 それでもコークスさんがいると理解が早い、実際に目で見て、肌で感じ、技術を盗む、これほど有意義な修行はなかった。


 何時間経っただろう、窓の外は真っ暗になっていた。

 ヒビの入った壁から隙間風と共に、月の子守唄のような鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 だんだん改修作業が楽しくなっていたところ、コークスさんがふいに話しかけてきた。

 うわ、アチッ、あの、火花がこっちに飛んでるんですけど。

 いや、そんなことよりもだ、部屋中がかなり焦げ臭くて、気づいたら床もそこらが焦げている……。

 これはやってしまった、きっと宿主に怒られてしまう。

 色々焦っていると、ふいにコークスさんが俺の頭に拳骨をくれた。


「おい、聞いてんのか?」

「イタッ、殴った」

「おめーがボケッとしてるからだ。あのガキが帰ってきてねえぞ。さすがに夜も遅い、ちょっと心配だな」

「……あ、改修に集中してて忘れてた! フィフィ、飛び出したっきりだ」

「こりゃいけねえな。作業の続きはこっちに任せて、お前はちょっと外まで探して来いよ。いいだろマナ?」

「ええ、フィフィさんが心配ですね。私のことは後回しでいいんで、トレインさんお願いします」


 フィフィのやつ、まったく心配かけさせてくれる。

 毛皮を被ると、俺は扉の方に向かった。

 するとコークスさん。


「でかすぎる才能ってのは、他人を追い詰めることもある。フィフィのガキにとって、お前はどうだろうな」

「えっと、何言ってるんですか? フィフィは母さんかそれ以上の剣士になる、俺はそう思ってます。才能で言えば、フィフィだって負けてないんだ。俺に嫉妬する必要なんてない」

「それ、本人に言うんじゃねーぞ」

「……っ。い、行ってきます」


 なんなんだ、せっかく楽しく真奈をきれいにしてやってたのに、気分が悪くなってしまった。

 俺は街灯も何もない街の中を走ってった。

 夜も遅いし、人はもう外にはいない、とにかく走って探すしかなさそうだ。

 凍り始めた地面に何度か滑って転び、ちょっと虚しくなった。


 必死に探したけど、とうとう俺はフィフィを見つけることはできなかった。

 仕方なく戻って、真奈の改修作業に戻る。

 結局、あいつが戻ってきたのは、明け方になってからだった。

 心配させやがって! と言いたかったけれど、駄目。

 真奈の改修も終盤に差し掛かっていたこともあり、気が付いたら部屋の隅っこで母さんの剣を磨いているフィフィがいて、その小さな背中に俺は寂しい気持ちになってしまっていた。

 魔物を切って来たのだろうか、血の匂いを纏うそいつに掛ける言葉が見つからなかった。


 妹みたいに無邪気だったあいつを遠い昔のように感じていると、フィフィが妙にすました態度でこっちを向いた。


「心配かけてごめんね、トッくん。でもね僕、考えたんだ。……君の背中を追いかけるのはやめるって。そういうことだから」

「あれ、もしかして機嫌治った、のか?」

「ううん、全然気分は晴れないよ? だって、トッくんはマナにかかりっきりで、僕のことなんて知らないみたいだしさ。でも、そんな君にも僕は勝てないから、だからムカムカしてるんだよ」


 んん、微妙だけど、どうやらいつもの調子には戻ってるみたい、なのか?

 少しだけホッとしてると、コークスさんが横から口を挟んできた。


「クックック、ガキとはいえ女の嫉妬は大変だ。なあ、トレイン」

「トッくん、とにかく僕は運天士になるために、君を越えてみせる。これは、本気だからねっ。僕は馬鹿だから、剣を振って自分の道を探すんだから」


 いや、やっぱり前までと違うっぽい。

 どうやら、暴走列車の一件が俺に対するフィフィのライバル心を芽生えさせてしまったらしい。

 これは、喜んでいいのだろうか? ううん、俺としては寂しい。


「ったく、トレイン。ぼさっとしてるな、マナを仕上げるぞ」


 フィフィのことが気になるものの、真奈を放っておくわけにはいかなかった。

 広げた設計図のもと、俺はコークスさんの隣に座った。


 それからしばらく、真奈はスレンダーになって、そして小型化して生まれ変わった、そうだなマナツーとでも名付けておこう。

 身長は俺より頭一つ大きいくらいかな。

 前ほど力持ちではなくなったけど、関節の動きとか、燃費とかが見直されて性能は全体的に向上した。

 あと、コークスさんと俺の趣味で、液体金属製の控えめな胸が形成された。

 この胸の部分だけは、俺が魔術でこさえた特別性。

 形状維持のために魔力を常に消費するから燃費は悪い、けどロマンは大事だ。

 それに女の子には、胸が必須だし。

 生前のあいつの、控えめだけどたしかにそこにあったものを再現して、少し故郷を思い出す。


 目の前で真奈がぴょんぴょん飛び跳ねているけど、前と違って床が抜けるなんてことはなかった。

 これは、進歩だね。


「わあ、身軽になって動きやすいです! それに、前よりずいぶん女の子らしくなって、可愛いですねえ。えへへ、コークスさんにトレインさん、ありがとうございます」

「トレインのおかげで見た目はかなり人間に近いな」

「運動性だってコークスさんのおかげで、向上してますよ」


 こうして、真奈の新しい服を購入して、魔界列車の先頭車両に足を踏み入れた俺たちだった。

 この車両に、親父ことシュトロハイム博士を知っているだろう、運天士がいる。

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