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第10駅 列車を歩く

 ある日。

 建ち並ぶ煙突と田園風景の中を歩いていた。

 俺と真奈とフィフィ、三人での初めての遠出だった。

 母さんに屋敷から見送られての出発だった。

 いや違うな、心配だったのか、村道まで行ったところでさようなら。

 ……と思ったけど、かなり心配だったのだろう、結局村の終わりまで見送られて、ようやく帰ってくれた母さん。


 さて、この旅立ちの経緯はというと、

 オートマタの体を手に入れたおかげで、真奈は剥きだしだった魔力を機械の器に閉じ込めることができるようになった。

 そして俺も魔除けのペンダントを手に入れた。

 例えジスターが俺たちを狙ったとしても、特級以上の探索魔術あるいは魔法具を用いない限り発見はされないらしい。

 ま、もう二年も経ったんだし、どうせジスターは来ないだろうけど。


 とにかく村の外へ出るにはいい頃合いだった。

 そこで、


「武術も身に付けたことだし、今度駅島へ冒険の練習に連れてってあげようと思う。そうね、まず装備品を買ってらっしゃい。知り合いの店を紹介するから」


 と、言われたので、買い出しにフレア村を出たのが発端だった。

 初めてのお使い、そんなところ。


 現在、王国列車の農業車両から、一つ前の研究車両に向かってひたすら歩いている。

 歩く、歩く、ひたすら歩く、転移装置はある程度の権限を持った大人でないと使えないのだ。

 質のいい装備品や魔法具を手に入れるのなら、研究車両の技研街が一番である。

 一両の全長は十キロ超、けっこう大変だ。


 すた、すた、すた。

 ガシャン、ガシャン、ガシャン。

 てく、てく、てく。


 一時間後。

 大きな城塞っぽい建物……車両間関所を目の前にしたところで、ふとフィフィが立ち止まった。

 最近、ちょっとだけ伸びてきた彼女の短髪がそよ風に揺れた。

 珍しく難しい顔である。


「実は、さっきから思ってたんだけどね」

「何を思う、フィフィ?」

「うずうずしてるの……」

「む、腹痛か? でも、立ち止まるなよ。ほら、早く」

「急がないと、夕暮れまでにお家に帰れませんよ、フィフィさん」

「ううーん……」


 むむう、と顎に指を添え、フィフィは興味深そうに真奈のことを見上げた。

 困惑したように真奈のメインカメラがぽつんぽつんと点滅。

 ちなみにこの面子だと真奈が一番でかく、俺たちと倍近く身長差がある。

 まるで親子みたいな、……いやちょっと違うか。


 とまどったのだろう、カチャカチャと真奈が頬をかいた。

 指の関節からシリンダーやらが覗き、少しのロマンを提供してくれる。


「どうしたのですか、フィフィさん。そんなに見つめられると、私、恥ずかしいですよ」

「カッコいいなあ……」

「はい?」

「カッコいいなあ!」

「わあ!」


 いきなり大声を出したかと思うと、フィフィは真奈の背中に飛び乗って肩にちょこんと収まった。

 楽しげにカンカンと真奈の頭を叩き、


「いいなあ。こんなカッコいい体! 僕も欲しいよっ」

「そ、そうですか? かっこいいですかねえ……でも、私は可愛いと言ってくれた方が嬉しい……ごにょごにょ」


 もじもじと指先をいじくる真奈、がちゃがちゃとした乾いた音が鳴る。

 残念だけど、可愛いくはないなあ。

 フィフィは真奈の頭をぐりぐり回しながら、またむちゃくちゃ言い始めた。


「ねえねえ変形してよ! マナ!」

「へ、変形!? む、無理です……ごめんなさい」

「嘘だあ! 何だか変形できそうな体じゃない。やってよ、やってよう!」

「ご、ごめんなさい。実は私、こう見えても正統派なんです……ごめんなさい」

「おい、やめろってフィフィ。あんまり真奈を困らせるな。さっさとそこから降りろ」


 まあでも、フィフィが彼女に興味を持つのは分からないでもない。

 ロボットな真奈はちょっとカッコいいのだ。

 フィフィみたいな子供に受けるのは無理もなく、俺も実は肩に乗ってみたいくらいだったりで……。


 フィフィはつまらなさそうに口をとがらせると、猫みたいな身のこなしで真奈から降りた。


「あーぁ、変形できないのかあ、つまんないの~。僕だったら絶対に変形機能付けてもらうのになあ!」

「フィフィさん、生身の体の方が良いと思いますよ? ええ、きっとそうですとも」

「そうかなー。魔術を使わなくても頑丈だし、いいと思うけどなあ!」


 さすがフィフィ、脳みそ筋肉は言うことが違うねえ!

 だけどお前は黙ってれば可愛いんだから、あんまり変なことを言わないで欲しくもある。


「真奈の言うとおり。フィフィ、お前は今のままでいいよ。ほれほれ」


 ぷにっともち肌のほっぺたをつっつく。

 機械になると、見事な柔肌が台無しだからな、それはもったいない。

 フィフィはくすぐったそうにして笑った。


「やめてようトッくん。こっそばゆいよ!」

「ご両親から貰った体だ、大切にしたまえ。機械の体になりたいとかいう罰当たりには、おしおきだっ」

「ふあ! っ……ひゃぁあ! や、やめてぇ、くすぐったい。ひゃん」


 調子に乗って、こちょこちょと脇をくすぐる。


「ひいぃん。ひゃあぁっ」


 うん、これは貴重な発見である。

 脇が弱いのか、あのフィフィが甲高い女の子っぽい声を出すんだ。

 あ、これは面白いかもしれない。

 と、さらに調子に乗ったら間違って胸を触ってしまって……、

 バシン!


「ぐわっ」

「ばーかばーか、トッくんのスケベ、アホ! ふんだっ、行こうマナ!」

「あ、……はい。でも、トレインさん、吹っ飛びましたよ?」

「大丈夫大丈夫、手加減したから!」


 手加減ってお前、振り向きざまにいきなりぶん殴られたぞ。

 なんだかめちゃくちゃ惨めな気分、道端の用水路に転がり泥だらけである。


  ◆ ◆ ◆


 車両間関所の中に入ってそこで昼食をとる。

 車両と車両の間にある隔壁の中は、街道を歩く者にとって憩いの場。

 そんな場所で、真奈の図体は目立ち、人々の注目を一身に集めていた。

 車霊体だとはバレていなさそうだけど、ダンジョンのオートマタと勘違いされてしまって面倒くさい。


「うっ、うわあ! オートマタだ! ダンジョンから出てきたのか!」

「みんな、逃げろ!」


 と、散々である。

 まるで蜂の巣をつついたみたいだった。

 まあ、おかげで食堂が貸切状態になったのだけど。


 テーブルに窮屈そうについた真奈は、申し訳なさそうに背中を丸めていた。

 いや、角ばらせていた、とでも言うべきか。

 機械の体である彼女は、感情を態度で示すのは難しいのかも。


「トレインさん。私、怖いですかね……」

「大丈夫、ちょっと人より角ばってるけど、たったそれだけのこと。問題ない、とんがってるくらいが個性的なのさ」


 ただ、しいて言うなら、せめてボディカラーを黒ずんだ灰色から、ピンクっぽくした方がよかったのかもしれない。

 まあ、それでもいかついけれど。


 真奈はガシャリと肩を落とした。


「はあ、もう少し丸みを帯びたボディにしてもらいたいです……」

「ええ!? そのゴツゴツがカッコいいのにさあ。大丈夫、マナはゴツゴツしてた方が魅力的だよ! 肩に大砲でも乗っけたらどう?」

「ええ、大砲!? い、いやですよ! そ、そんなの恐ろしすぎます……っ」

「あははっ、かっこよくなると思うんだけどなあ!」


 フィフィはハムスターみたいにパンを頬張りながら、満面の笑顔を浮かべていた。

 肩に大砲はどうかと思うけど、この顔は嘘を言ってないな。


 もちろん真奈のメインカメラはしょんぼりと輝きを潜ませた。


「もうちょっと、ほんのもう少しだけ、可愛いボディが欲しい」

「母さんの美的センスはおかしいからね。仕方ないよ真奈」

「リリーザさんにもう少し美的センスがあれば……」

「仕方ないさ、人には持って生まれたものがある。どうしようもない問題だ」

「そうですねえ」


 と、母さんの噂をしていると、どこかから、「へっくしょん」と、くしゃみが聞こえたような気がした。


  ◆ ◆ ◆


 関所を出ると、景色がガラッと変わる。

 田んぼや畑がなくなって、石造りの街道が現れたのである。

 どうやら山地を切り出して整備された場所らしい。

 山肌を削り出した石の道が、グネグネ延びている。


 へえ、荒々しいが石畳の絵なんか芸術的で綺麗な景色。

 と、思いつつ、道の手すりから身を乗り出して、轟々と流れる河流などを見下ろす。

 真奈も同じ感想を抱いた様子。


「わあ、綺麗ですねえ。あっ、あそこに鳥さんが。ふふ、自然って感じがしますね」

「はは、そろそろ行こうか。あとフィフィ、街道から転げ落ちないように。斜面が急だからね」

「わ、分かってるやい!」


 本当に分かってるのだろうか?

 景色こそ雄大だけど、結構危ない雰囲気だぞここは。


 とりあえず岩肌には排気用の煙突と、ぽっかり口を開けるダンジョンの穴が複数確認できる……。

 そうそう、これは国列車の仕様。

 今でこそダンジョンは魔物の住処だけど、元々は古代人が整備用に空けていたものだ。

 煙突もまたしかり、エネルギーを得た後の老廃物を煙にして排出している。


 俺たちは研究車両の技研街を目指して、山岳街道を進んだ。

 途中、何度か魔物と遭遇したけど、武術を習っておいてよかった。

 戦闘用に鍛えた魔術のおかげで、苦戦することはまずない。

 もっとも強い魔物は車両深くにいるから、表に出てくるようなやつは大したことないって母さんは言ってたけれど。

 こうしてさらに進むこと一時間、俺たちはようやく技研街に到着した。


 さっそく街に入ろうと思ったところ。

 街門警備のおっさんに、小首を傾げられてしまい、


「おや、子供たちだけで農業車両からとは驚いた。……で、そっちのいかつい兄ちゃんはなんなんだい?」


 いかつい兄ちゃん……真奈のことである。

 あまりにも目立つから、街道の露天商でマントを購入したのだが、やっぱりそれでも異様だ。

 怪しげな大男と思われても仕方がない風貌だった。


「い、いかつい兄ちゃん……ぐす、私は全然いかつくないのに……ぐすっ」


 真奈はショックを受けたようで、半泣きの声を漏らしていた。

 するとおっさんはたまげたなあ! と声を上げる。


「うわっ、見かけによらず可愛らしい声してんのなあ! な、泣くなよ、俺が悪かった」

「え、可愛らしい? わあ、ありがとうございます!」


 とまあ、こんな感じで街の中に入ったわけである。

 しかし思ったけど、真奈も案外分かりやすいやつなんだよな……。

 生前の面影がちょくちょく見られるようになって、ちょっと微笑ましい俺だった。


 さて、街の中。

 目的地はというと、母さんに紹介された武具屋である。

 そう、例のコネというやつでね、父さんには及ばない永遠の二番手だけど、それでも凄腕技術者って人の店を目指す。

 彼はマッドでオタクな人らしく、おまけに母さんには頭が上がらないというオマケつきなので、すごい武器を格安で提供してくれるそうな。

 それは楽しみだなあ、と俺たちは活気あふれる街を進んでいった。


 石畳できっちり舗装された、どこかおしゃれな感じの街並みを歩く。

 蒸気機関のリフト? みたいなのが建物の間を行ったり来たりで、おお、すごい。

 農業車両に比べて、研究車両は都会の匂いがプンプン。

 だからかな、居心地が悪いような、そんな気が。

 俺たちの服装って田舎臭いのか、道行く貴婦人やら紳士やらがじろじろ見てくる。


「うわあ、もしかして俺たち、おのぼりさんって感じかな?」

「トッくん、おのぼりさんって?」

「田舎から都会にやってきた人ってこと。とくにフィフィは泥臭いからね! こりゃ大変だ」

「うわ~! トッくんがまた僕にいじわるするっ! バーカ! トッくんの方が泥んこのくせに!」

「あわわ、二人とも喧嘩しないでください、ね?」


 おっと、別にいじわるしてるつもりはないんだけど。

 さっき山岳街道でフィフィに殺されかけたから仕返ししてるだけさ。

 危うく川に転げ落ちて土左衛門になるとこだった。


 やいのやいのしながら、街の中を進む俺たち。

 そして街の裏路地に入って、さらに地下階段を下りてから上って、出てきたら下水道に隔てられた怪しげな建物に着いた。

 建物自体は立派で母さんの屋敷より少しでかい。

 しかし日当たりが悪く、じめじめしてる。

 地面にキノコが生えてるんだから相当だな。

 おまけにオートマタの残骸が、建物の前で大量に積まれていた。

 そんな不気味なもののおかげで、誰もこの辺には寄ってこない。

 黒い鳥がオートマタの亡骸に巣を作ってガアガア鳴き、怪しい雰囲気の演出に一役買っていた。


「おっ、着いたな。しかしまともな雰囲気じゃないな」

「ねえ、あの看板、なんて読むの?」


 フィフィがガタガタに傾いた店先の看板を指差した。

 筆記体っぽく書かれているので、彼女には読めなかった様子。


「えーっと、グラーチェ工房って書いてるのかな? 汚い字だから読みにくいけど……」

「ふーん、グラーチェさんっていう人の店なんだね。じゃあ、さっそく入ってみよう!」


 というわけでさっそく店の中に入ってみた。

 ギギイ、と建付けが悪くて軋む扉を開けると、


「へえ、いらっしゃ…………ちっ、なんだガキか。冷やかしならお断りだよ、さっさと帰んな!」


 店に入ったらカウンターに頬杖をつく不遜な豚みたいな男と出くわした。

 そいつはさっそく舌打ちして、地獄に落ちろ! とでも言わんばかりの悪態を吐いたのだった。

 ぶにい、と頬杖をついた顔が歪んでいる。

 気難しいのか、会って早々怒ってるみたい。


 とりあえずグラーチェさんに八歳の子供らしい屈託ないスマイルを提供してみる。


「グラーチェさん、こんにちは。お初にお目にかかります。僕、リリーザ・レイルロードの息子のトレインと申します。以後お見知りおきを」


 ご機嫌取りに母さんが偉い人相手にやってた挨拶を真似してみる。

 胸に手を当てて、腰を深々ーと曲げて頭を下げるやつ。

 さすがにおほほほと笑ったりはしないが、効果はどれほどか。


 すると、グラーチェさんは頬杖をつくのを止めて、頬の脂肪をブルンと歪ませて笑った。

 ニチャア、とした笑顔は栄養過多の肥えた豚みたいだった。


「へえ、坊主。お前、リリーザさんの息子かあ……なるほど、確かに髪の色はそっくりだ。顔立ちは、博士似ってところだな。へえ、へえ……」

「はい、母さんにここを頼れと言われたので、お邪魔した次第です」

「小せえくせに口は達者で、礼儀正しいな。お前、本当にあのリリーザさんの息子か?」

「ええ、いかにも。僕は――」

「ねえねえ、見てみてトッくん。面白い武器見つけたよ! ほら~」

「ああ、いけませんよ、フィフィさん。店のものを勝手に持ち出しちゃ……」


 あ、フィフィのやつ、壁に掛けられていたハルバートを持ち出しやがった。

 よくもまあ、身の丈以上もある得物を取り回せるもんだ。

 っていかんいかん、感心している場合じゃないな。

 ごにょごにょっと彼女へ耳打ち。


「こ、こら、フィフィ。さっさと元の場所に戻せって……あの人、ちょっと気難しそうなんだ。変なことして怒らすなよ」

「ええ、何でさ。豚さんみたいで可愛いと思うけどなあ!」


 うわ、声が大きいって。

 確かに豚みたいな人だけどさあ!

 あと、人を指差すのも失礼だから止めような。


 するとグラーチェさんは頬を引くつかせ、脂肪の塊をぶるるんっと揺らした。

 二重あごの脂肪を、びよーんびよーんとしきりに指先で伸ばし、苛立っているのがよく分かる。

 カウンターの木の板に脂ぎった汗がじわあっと染みていった。


「へえっ、へえー、そっちのガキは躾がなってないようだな! ちっ、弟か? まったく、こっちはリリーザさんに似てるな」

「すみません。ちょっとこの子、アホなんです。許してやってください」

「お、弟じゃないやい! 僕の方がお姉さんなんだぞ! まったく失礼しちゃうよ!」

「フィフィ~、お前の方が失礼だからなあ、ちょっと黙ろう」

「ぷ……っ。でも弟って、確かにそうかもしれませんね」

「あっ、マナまで笑った! くそう、なんだかすごく悔しいぞ!」


 と、やり合っていると、

 グラーチェさんは呆れた様子で俺に向かって顎をしゃくった。


「うるさいガキだ! ちっ……もういい。赤茶の坊主、用ってのはなんだ? わざわざ車両を渡って来たんだろ……言えよ」


 どうやらグラーチェさんはフィフィを無視することに決めたらしい。

 うん、それが懸命だと思う。

 フィフィの相手は真奈にしてもらうとして、


「えっとですね。武器や装備を売ってもらおうと思ってですね」

「へえ、ガキのお使いでねえ。しかしリリーザさんほどの剣士が装備の調達を他人に頼むとは思えんが?」

「いや、僕たちの装備です」

「え? お前たちの装備なのか!? はっはっは、冗談きついよ。まだチビっこいガキじゃねえか。笑かさないでくれよ。へえ、へえ、へえ」

「いえいえ、それが本気なんですよ。ほら、ちゃんとお金だって持ってきましたし……!」


 とてとてとカウンターに寄り、よいしょとお金の入った袋を乗せる。

 グラーチェさんは中の硬貨を数え始めて、すぐにハンッと鼻を鳴らした。

 ブヒイって音が聞こえてきそうで、かなり豚みたいな仕草だった。

 いや、いかんいかん、失礼だな。


「ハッ、馬鹿にして。これじゃあ、全然足りない! やっぱり冷やかしだったな。帰れ帰れ」

「で、でも母さんは、グラーチェは私に頭が上がらないの! だから愛らしいスマイルでお願いしたら、大丈夫! って言ってましたよ」


 と言って、愛らしいスマイルを浮かべるが、グラーチェさんは取り合ってくれない。


「へえっ! まったくあの人らしく迷惑なことだ。でも今は本人がいないから、恐れるに足らない。ガキに技術の安売りするほど、俺は落ちぶれちゃいないぜ。ほら帰った帰った!」


 うわ、話にならないなあこの人。

 でも、言ってることはそりゃそうである。

 母さんのコネで何となると思ったけど、案外そうでないのかも。

 と、さすがに迷惑だろうし別の店でも探そうかと思ったその時。

 バーンと入り口の扉が開いて、


「グラ~チェ~ッ! あなた、私の息子に物を売れないっていうの?」


 えっと、なぜか母さんが出てきたぞ。

 これぞモンペ! って感じの登場の仕方だった。


「う、うわ! リリーザさん? なんでここに?」

「なんでって、そんなの当たり前でしょ。可愛い可愛い息子の初めての遠出、心配でこっそり付いてきてたってわけよう! 悪い!?」


 そういえば、食堂で母さんのくしゃみっぽいものが聞こえたような。

 なんだ、付いてきてたのか。

 初めてのお使いだったから、心配だったのかな。


 母さんの登場に、グラーチェさんはすっかり涙目であった。


「うっ、最悪だ。本人がまさか来てたとは……っ」

「グラーチェ。あなた、私を裏切ったこと忘れてないでしょうね……おかげで私はあいつに――」

「あー、分かった。分かったよ姐さん、了解だ。武器を売る。うん、だからそう睨まないでくれ」


 ちょっと心配性な母さんのおかげで、俺たちは無事に武器を手に入れることに成功した。

 こうして俺たちは冒険の準備を整えたのだった。

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