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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無題シリーズ

無題9

作者: 中原恵一

仮題「イモリくん」


 あるところにイモリくんという変な子がいた。


 イモリくん、見た目は別に普通だった。

 

 しかし彼は実にナマイキな小学生である。

 イモリくんは先生がどんなに靴を履けと言っても履かず、裸足で廊下を歩き回り、授業中も鶏のように頭をぶるんぶるん振っているので、クラスで浮いていた。

 なにせ先生に殴られても蹴られても痛くもかゆくない顔をしているのだ、たいそう反抗的なガキに見えたであろう。

 ぎょろっと出目金のように飛び出した目がおもしろくて、みんな彼にイモリくんという綽名をつけた。

 普段から奇矯な言動と行動で知られたイモリくんは、いじめっ子の格好のターゲットだった。


 いじめっ子はためしにイモリくんの歩く道に画鋲をばらまいてみた。

 

 結果は、なんと無反応。

 イモリくんは足に突き刺さった画鋲を、ひょいと片足をもちあげて一本一本抜いて捨てただけだった。

 これにはいじめっ子たちもぎょっとしたようだった。


 またある時、いじめっ子たちは図画工作の授業中にハサミを使って切り絵を作っていたイモリくんにわざとぶつかってみた。


 結果、同じく無反応。

 ぐさり、と手に貫通したはさみをイモリくんは何の気なしに抜き取っただけだった。

 だらだらと血が流れ出ても、痛そうにはしているが至って冷静だった。

 実際何日かたって、傷跡もなくなるぐらい完全に治ってしまっていた。


 やがてクラスでは「イモリくんは人間じゃないんじゃないか」という噂が流れた。

 実際今までの出来事も人間離れしていた。まるで本物のイモリのようだ。


 いじめっ子たちはイモリくんに我慢ならなかった。

 もっと徹底的に苦しめなくてはいけない。


 そう考えたいじめっ子たちは、ある日、遊具で遊んでいたイモリくんを高いところから突き落した。

 これにはさすがのイモリくんも足の骨が折れてしまったらしく、運動場の砂場を片足を引きずりながら家へと帰っていった。


 これでしばらく学校には来られない、そう思っていたいじめっ子たちに朗報が入った。

 イモリ君が帰り道に交通事故に遭ったそうなのだ。

 それはもうひどい有様だったらしく、ゼンシンをキョウダしてフクザツコッセツしたそうだ。


 いじめっ子たちはフクザツコッセツが一体何だか分からなかったが、なんだか強そうな響きだったのでイモリくんは二度と生きて帰って来ないだろうと安心した。


 しかしなんのことはない。

 一週間後、イモリくんはけろっとした顔で戻ってきた。

 別にケガなんてどこにもなかった。

 あの時引きずっていた片足も完治していて、普通に歩いていた。


 驚異的過ぎるイモリくんの再生能力にいじめっ子たちはすっかりまいってしまい、気味悪がって誰も彼に話しかけなくなった。


 しかしイモリくんは相変わらず我関せず、という感じで黙っていることが多く、ミステリアスだった。

大体イモリくんのプライベートは謎に包まれていた。

 みんなイモリくんの家がどこにあるのかとか、イモリくんが普段何をしているのか、とかそういうことを知らなかった。


 ある時イモリくんに興味を持った女の子がいた。

 仮に彼女をA子としよう。

 A子はいじめっ子たちにあれだけ干されても屈しないイモリくんに感動して、彼が好きになってしまった。


 当然周りは止めたし、A子自身も怖い感じがしていたがそれが逆にスリルにとって代わって彼女はますます彼が好きになった。


 やがてA子とイモリくんは休み時間ずっと二人でいたり、放課後一緒に帰ったりするようになった。

 よもやあのイモリくんに彼女ができるとは。


 クラスメートのみんなはまたもやイモリくんに驚愕した。


 しかし当のイモリくんは全然違うことを考えていた。


 ある日、イモリくんはA子と一緒に近くの公園に来ていた。

 A子はまだ、イモリくんの口から告白のことばを聞いていなかったので、嘘でもいいから「好きだ」と言ってほしかった。


 やがて夕日の差す丘で、A子とイモリくんはお互いに見つめ合った。

 しかしイモリくんは無表情で、ぼうっとA子ではない何かに虚ろな視線を向けるのみだった。


 今日もダメか、A子が諦めかけたその時、イモリくんはこんなことを言った。


「俺今から首斬るから、俺の代わりに記録とって」


 そして胸元からおもむろにナイフを取り出して、自分の首を思い切り掻ききった。

 血飛沫が辺りに飛び散り、A子は血だらけになりながら震えあがってその場から逃げてしまった。


 実は、イモリくんには長年の疑問があった。

 彼はそもそも自分が凄まじい再生能力を持っていることを知っていた。

 しかしそれがどれほどのものなのか、試せる範囲で試していきたいと考えていた。

 今までの記録では、ハサミが貫通しても、交通事故に遭っても死なない。

 じゃあ、首を切り落としてしまったら、頭がもげたらどうなるのか?

 純粋に、あくまで一人の小学生として純粋に疑問に思った結果、イモリくんはそれを行動に移した。


 イモリくんは自分の意識が続くかぎり頭部をめったざしにして、ばたん、と前のめりに崩れ落ちた。

 イモリくんは絶命したかに思えた。


 しかし一週間後、イモリくんはやっぱり生き返った。

 首が新しく生えてきたのだ。


 A子はイモリくんが学校に来たその日から不登校になった。

 いじめっ子たちは、イモリくんがよもや自分で首を切るとは思わなかったが、その異様さに恐怖を覚えた。


 登校してきたイモリくんは確かにイモリくんの顔をしていたが、性格や言動が今までと全く違っていた。社交的になって、今までのように気持ち悪いイモリくんではなかった。

 首を切っても死なない代わり、頭が生え変わって別人になってしまったらしい。


 最初は怖がられていたが、真実を知らないクラスメートたちは次第にイモリくんと打ち解けて、みんな幸せになった。


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