one scene ~chinese cafe~ vol.4
「じゃあまたね」
あの日、その部屋の住人に「おやすみ」を言って玄関を出るとすぐに、携帯電話のメールを見た。
10分前に届いていたメールは彼女からの
「聞いてるの?」
だった。
先ほどまでいたその部屋で、一緒にいた相手に悟られることなく一度チェックしたメールを、ついでに再度確認してみる。
「最後に話したいんだけど」
が30分前。
「もう疲れた」
が1時間前。
その部屋へ入る直前に届き、携帯電話をサイレントモードにする前に見たメールの
「ねえ今どこ?」
が3時間前。
そして更にさかのぼり、返信をせずにいる「原因」と言える問題のメール
「あなたと女の子がさっき一緒に歩いてたって聞いたんだけど本当?」
は、5時間前だった。
僕は近くのコインパーキングに停めていた車へと歩いて行き、彼女からの連絡が今日はもう来ないで欲しいと願いながら、憂鬱な思いで携帯電話のサイレントモードを通常に戻した。
今までのパターンなら、それらしい言い訳のシナリオを考えて、すぐに布石としての何らかのリアクションをメールか電話によって打っておき、余裕が出来た頃に改めて彼女を納得させてみせるのだが・・・
今日は始めから言い訳を考えることも、することもせずにただ、待った。
それは彼女のリアクションを、ではない。
僕自身の「決心」が訪れることをだ・・・
彼女と「別れよう」とする自らの決心がつくのをただ、待ったんだ。
それから僕は自分の家への帰路を選ばずに、当て所なく車を走らせた。
海沿いにある大きな公園の駐車場に着き、あれから一度も鳴らなかった携帯電話の時間を見ると、彼女の最後のメールから1時間経っていた。
そして僕は、彼女に電話をした。
この世で一番大切な彼女に、別れるための電話を・・・
to be continued