プロローグ3
「おーい玲音、次はこの荷物だ!」
「わかりました。」
俺はそう言うと、店の店主である人から、荷物を受け取り、渡された荷物を店内に運ぶ。
店内に入ると、荷物を厨房に持っていき、食材等は冷蔵庫にしまう。
「ふぅ。」
後は、搬入した品物にチェックを入れた後、俺は一息ついた。
「よし!これで詰め込みは終わりだな。いやー助かったよ。ほい、今回のバイト代。」
そう言いながら、店主が上機嫌良く店内に入ってきた。
「ありがとうございます。」
店主から金のはいった封筒を受け取ると、俺は店主に深く頭を下げる。
「なぁ玲音、あの話は本当にいいのか?俺の店で働くって話を取りやめても。」
「はい。今の俺にはこれだけあれば十分ですから。」
そう言って、俺は持っていた封筒をひらひらさせる。
「まぁ、お前がそう言うんなら止めはしないがな。」
「ありがとうございます。それじゃこれで。」
「おう、気をつけてな。」
後ろから聞こえる店主の言葉を聞きながら、俺は店をあとにした。
「はぁ、疲れた。」
俺は、古びたアパートの一室に着くと、着替えもせずに備え付けのベットに寝転んだ。
「家を出て、もう9年かぁ。」
寝転びながら、俺はそう呟いた。
俺が家を出て、既に9年という月日が経っていた。
今や俺は17歳となり、一人ながらも、まあまあ楽しく過ごしてきた。
俺の力の幻想創造は、あれから指で数える程度しか使っていない。
この力がなくても、俺は生きていける事が分かった為だろう。
今、家はどうなっているのだろう?
家族は?
妹は?
「いや、もういいんだよな。そんな事。」
そうだ。もう俺は秋次という性を捨てたんだ。
今の俺は春風 玲音
家を飛び出した後、俺が出会った友達が付けてくれた名前、春風を今は名乗っている。
だから俺には関係ない
関係ないと思っているのに
「ッ・・・・・」
突然、胸が締め付けられるように痛くなる。
どれだけ忘れようとしても、時々家族の温もりを思い出してしまうのだ。
その都度、自分は家族という存在を捨てたのだと言い聞かせてきた。
「もう寝よう。」
時計を見ると時間はまだ夕方の五時を過ぎたあたりだが、家族を温もりを忘れるため、俺は寝ることにした。
眼を閉じ、意識をゆっくりと落としていく。
(もう9年になるのに、まだ俺は家族を求めるんだな・・・・)
家を出てから、俺は学校にも通わず、ただひっそりと生きてきた。
幻想創造の力を出来るだけ使わず、友達も作らずただひっそりと生きてきた。
(それでも、まだ俺は家族を求めるなら・・・)
そして、意識が落ちる直前
「親の・・・・・いない・・何処か・・知らない世界に・・・・・・行きたいなぁ・・・」
ずっと心に思っていた、本音を俺は口にした。
思えば、それがすべての始まりだったのかもしれない
俺がずっと閉じ込めていた想い
それが、幻想創造によって叶えられた時
物語は幕を開ける