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One way Love  作者: 遙香
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008・運命の扉・5


 「よく眠れたようだな、」


 翌朝、窓から差し込む光に揺り起こされた少年は、己の居場所を掴めずにうろたえたが、

脳が覚醒するにつれ、己の身に起こった出来事を思い出した。


 「食事を済ませたら、すぐに出発だ。」




 ()は一つ所にとどまらず、根なし草のように大陸内を巡っているという。そんな()に出会うことは困難と思われたが、名を必要としている者がいると、向こうからひょっこり現れたりもする不思議な存在。


 準備されていた遅めの朝食をとりながら少年は思う。『名』とは何なのだろう。

最果ての村にいる時は、個を識別するためのものだと思っていた。だが、レイは違う、と言う。名が(フォルス)を与え、運命を呼び覚ますのだと言う。


 少年はふと、食べる手を止める。朝食(・・)がある事も、少年には初めての経験だった。いつも家族が目覚める前、まだ夜が明けぬ内に森へ行き、食糧を集めた。


 家族。


 思い出し、思考を止める。12歳の少年の考える事ではないのかもしれない。だが、家族とは何なのだろう。親は自分をヒトとは認めなかった。目を合わせることもなく、言葉を交わすこともない。ただ生きているだけ、ただ、同じ空間にいるだけ。

 でも、と一筋の希望にすがる。自分で食糧を手に入れられるようになるより以前、まだ身動きすら叶わぬ赤子だった時、自分はどうやって、生きていたのだろう?せめて、自分には記憶のない数年間だけでも、『愛』を与えられていたと、そう信じたい。


 「あの・・・」


 少年はレイを見た。すでにマントを羽織り、剣と弓を携えたレイは無精髭を生やしているが精悍な顔、戦士、と言うに値する鍛えられた体。

 言いかけて、少年は口ごもる。

感謝なのか、尊敬なのか、畏怖なのか、この気持ちを表現するだけの教養を持ち合わせていなかった。

様々な感情が渦巻く銀色の瞳を、レイは穏やかに見つめて次の言葉を待つ。

 

 「あ・・りがとう。」


 恥ずかしそうに俯いて、ぽつりとつぶやいた少年にレイはだまって微笑みかけた。

この子は、きっと大丈夫だ。

 








 レイに連れられて町を抜け、深い、深い森に入る。ピコラの森とは異なる、殺気にも似た静寂に包まれた森。獲物を狙う獣の類が赤い光を纏ってこちらを伺っているのが見える(・・・)。深く絡み合った木々が完全に陽光を遮り、辺りは闇に近い黒で満ちていた。


 その時は突然訪れた。


「少年よ、あれが名を与える者(ルーチェ)の神殿だ。」


 白い、巨大な神殿が『突然』目前に現れた。それは唐突で、少年は驚きを禁じえなかった。

深い森が作り出した闇の中で、仄白く、密やかな輝きを湛えた石造りの巨大な建造物。暗視が出来る少年にとって、そのような大きな物、ましてや輝きを湛える建物の存在を、見逃すはずがなかった。

 それなのに、それ(・・)は突然目の前に姿を現したのだ。

何故、と思うよりも先に、少年はその美しさに息をのむ。柱の一つ一つに施された細工は繊細で美しい。重厚でもあり儚くもある純白の石。恐る恐る柱に触れるとひんやりと冷たく、まるで命を持っているかのような波動が指先から伝わってきた。


 「恐れずまっすぐに進むがよい。運命の扉は、己でしか開けない。」


 レイに促され、少年は身長の数倍もある巨大な神殿の扉に手をかける。少し力を加えると、重厚な石造りの扉は音もなく開く。神殿の中は真っ暗で、少年は吸い込まれるように中に入った。

 少年が中に入るのを見届けたかのように扉は再び、元の位置に戻り、明り取りのない神殿は闇に包まれる。暗視が出来る少年にとって、真の闇の中に身を投じたのは初めてで、己の身体が闇に溶け出したのではないかと言う錯覚にとらわれた。(やみ)以外に何もない空間。どちらが足元で、どちらが頭上かさえも分からなくなる。中に浮いたような、不思議な感覚。すっぽりと闇に抱かれ、浮遊する。恐怖、と言うよりは安堵に近い穏やかな気持ちになった。

 少年は、いつものように暗視が出来るかと、目を凝らしてみたが、しまいに目を開いているのか、閉じているのかさえ分からなくなった。闇は少年の身体に染み込み、同化している。


 しばらくの間、闇に浮遊した後、『まっすぐに進め』と言ったレイの言葉を思い出した少年は己の意思で運命への一歩を歩みだした。

 この闇を抜けたら、どんな運命が、どんな未来が待っているのだろう。

現在(いま)が一番新しい未来と言うのなら、僕が歩いたこの道は、どんな過去を作るのだろう?

そんな事を考えながら、少年はまっすぐに、顔を上げて歩を進めた。

読んで下さっている方ありがとうございます。

小説を書かれる方は多分、最初に大筋のストーリーとか、登場人物とか、世界観とか作り込んでからかかれるんですよね。

私はいつまでたってもそれができず、起承転結とラスト一行の言葉だけ決めて、

後は書きながら世界を作っていくクセがあります。

 だからつじつまが合っているか・・・ときどき不安になります。


 おかしな所などありましたら、ぜひご指摘ください。

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