007:運命の扉・4
各大陸に数名しかいないと言う、名を与える者『イーミャ』。
力を持って生まれた者達はみな、彼のもとへ向かう。だが、彼は時として、名を与えないこともあると言う。
名を与えない。つまりは、名を与えるに値せぬ者、という評価。名は力に忠実で、力がそのまま、名となって現れる。名を与えられなかった赤子の運命は察するに不幸だ。
生まれて初めて、温かな食事を腹一杯に食べ、少年はぼんやりと、想う。今まで生きてきた過去は消えない。消えない、忘れない、だから強くなれる。そう、思った。
レイが言ったように、『だからこそ、強くなる。』
「私が目立つ、と言った訳を知りたいのかね、少年よ。」
揺れるランプの炎が照らし出す少年の顔から新しい決意の種を見出したレイは、少年にかつての自分の姿を重ねていた。『特別』ならばとことん、『特別』になってやる。誰にも負けない強さを手に入れてやる、そう決意したあの頃を。
だがそれが、とても危険であることも、理解していた。強大な力は時として人の心を惑わせる。
レイはしばらくの間、言葉を探すように口を閉ざした。
少年が目立つ理由。だがそれを今、『名』を手に入れるよりも先に、告げるべきか否かとっさに判断出来ずに考え込む。
「お主の瞳は・・・」
意を決して言葉を紡ぎかけて言葉をのみ込む。急激な運命の変化に疲れたのだろう、少年は椅子に座ったまま、眠っていた。
眠ってしまえば、ただの子供。辛い過去を乗り越えて来た、強く、美しい子供だ。
レイはそっと少年を抱きかかえ、寝台に運ぶ。
生まれて初めて、やわらかな寝台で眠るであろう少年の、穏やかな寝顔をしばらく見つめてふっと息を吐きだした。幼子は何の不安も抱かずに眠ればいい。日が昇るまで、ゆっくりと。
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