006:運命の扉・3
やっと、謎の男の素性があきらかに?!
少しずつ、運命の川が流れ始めました。
程なくして戻ってきた男は、寝台に腰かけて一つ大きく息を吐きだした。
いつの間にか外はすっかり暮れ、夜の闇に包まれている。
揺れるランプの炎が男と少年をやさしく照らす。揺れる炎は生き物のようでもあり、見つめていると穏やかな心地にさせる。
「あの・・・」
しばらくの沈黙の後、少年はおずおずと話しかける。
村にいたころは、誰かに話し掛けることなどあり得なかった。何をどう話していいか、わからない。
聞きたい事は山ほどあるが、どう切り出せばよいかわからなかった。逡巡していると、男は静かに語りだした。
「過去は、誰にでもあり、未来もまた然り。」
どのような賢人も愚民も、剣の達人も偉大な魔術師も、現在という時を生き、過去を紡ぎながら未来を目指す。現在が最も新しい未来、現在をどのように生きるかが未来を決めるのだ、と。
「お主にどのような過去があろうとも、それはすでに過ぎ去ったもの。未来を見すえ、現在を生きよ。」
男の葡萄色の目がランプの炎に照らされて妖しく輝く。
少年は初めて男の姿を正面から見つめた。薄暗い森の中では気付かなかったが、男のきちんとした身なりをしていた。村では見かける事のない、紋章の入った紫黒の上着は高貴な印象さえ受ける。
「そうだ、私の『名』をまだ言っていなかったね、」
男はそう言って微笑む。
レイ・ウィン・シュヴェールト・ロー。男は自分の名を告げ、フッ、と息を吐きだした。
「私の名は、風と雷の魔力と剣武の才を持つ者、と言う意味を持つ。」
本来相容れない筈の魔道 と武の力の双方を引き継ぐ名。
「私は武国アウルムの出身でね、あの国では私のような者は珍しいのだよ、」
男は揺れる炎を見つめながら言葉を紡ぐ。
武の力を持つ者が大半をしめるアウルム国において、レイのように魔道の力を持つ者は少ない。周囲から奇異の目で見られる事は、苦痛でもあり、誇りでもあった。力を持つ者は己と異なる力に対し、敬意を払う。
しかし、異なる力は互いに認め合いこそすれ、交わることはない。
「私は混血なのだよ。私のような者は極めて稀でね、」
レイは微笑み、君の抱いている気持が理解できぬわけではない、と続けた。
幼いころから好奇の目にさらされて生きていた。魔道の力を持つ母と、武の力を持つ父はなぜ交わったのだろう?いくら考えても答えは出ない。それなら己の道を貫くよりほかない。与えられた2つの力、極限まで高めてみせる。そう、誓った。
武国アウルムを出て海を渡り、唯一すべての国との国交を持つシルヴァラの地を踏んだ。
ここでは、『異なる事』が当たり前だった。幸い、混血であることは名乗らない限り、余程の使い手出ない限り見目にはわからない。今まで出会った人々は、レイの事を魔道の力を持つ者、としか見ていないだろう。
「でも、さっき目立つって、」
少年はずっと引っかかっていた疑問を口にした。人と違うことが当たり前、なら、目立つはずもない。
男が口を開こうとした時、ランプの光が大きくゆれ、暖かな食事が運ばれてきた。
「ひとまず、食事にしよう、」
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