005:運命の扉・2
「力とは、知ることなのだよ、少年。」
男は静かに続ける。そう、知らなければ、何も始まらない。『知』がなければ力の発動は起こり得ない。
「今一度問う。お主は、すべてを知る覚悟があるか、」
男の葡萄色の瞳と、少年の銀色の瞳がぶつかる。少年の瞳には一切の迷いがなかった。
もう、何も迷わないと決めた。僕を苦しめてきた人々が怯えた力を、僕は手に入れる。
辛い過去を振り切り、独りで生きていくために。
男は目を閉じて小さく頷くと再び口を開く。
「何よりも先に、まずすることがある、」
男はそう言って、じっと少年の目を見つめる。
「お主には、名前が必要だ。」
男と少年は森の中を歩いていた。
男は大弓を背に担ぎ、細身の剣を腰に帯びている。にび色のマントをはおり、大股で歩いていく。
少年は時に小走りになりながら男の後を追う。
「名はその者の全てとなる。」
歩を進めながら男は語る。それゆえに『名』を与えることが出来る存在は限られていて、それはそれは美しくも不思議な儀式なのだと言う。
「与えられる名によって力も変わる、と言われている。」
と男は続ける。『名を与える者』は相手の資質を見極め、名を摘み取るのだという。
どのくらい歩いただろう。すっかり日が傾き、夕暮れの炎が空をこがす頃になって、ようやく森を抜け、彼方に小さな明かりが見え始めた。
小さな町、なのだろうか、立ち上る細い煙。夜の食事の支度をしているのだろうか。遠いながら、人々の営みが見えるようだ。
「今宵はあの町で休もう、」 言って、男は歩を速めた。
宿は質素だが清潔で、小さな寝台が2つ、ゆらゆらと暖かな光をたたえるランプが1つ。
一日歩いた体を休めるには十分だった。
「お主は少々目立つ故、食事はここへ運ばせよう、」男は言い、部屋を出た。
『目立つ』と言う男の言葉が、少年には理解できなかった。髪や瞳の色が異なるから?否、それは最果ての村に限ってのこと。この町には、知識のない少年にも一目で解るほど、異なる種族があふれていた。
髪の色も、瞳の色もみな異なっている。それだけではない、ウサギや猫、犬やのような耳のある者、
背に翼のある者もいる。それなのに、目立つ、と言われた。
闇の力、とはどのような力なのだろう。
少年は窓の外の暮れ始めた空を見て思う。僕を導いてくれるあの男性は、一体何者なのだろう。
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