003:出逢い
薄暗い森の中を進んでいた少年は不意に強い気配に歩みを止めた。
先ほどまでのひそやかなそれではない、あきらかな『気配』。
ハッと振り向こうとしたその瞬間、がっちりと手首を掴まれた。
「ピコラの森に立ち入るとは、どこの小坊主か、」
そこには、大弓を携えた漆黒の髪の男の姿があった。
「ほう、その瞳。お主、闇人か。」
少年の顔を見た男は珍しい、と呟く。
「ヤミビト?」
少年は手を掴まれたまま聞き返した。
聞き返された男は右目を細めて見定めるように少年を見る。
小汚い衣、あきらかに手作りと分かる作りの悪い弓、少々やせ過ぎと思われる身体つき。
なるほど、と心の中で呟く。
「知りたくば、付いてまいれ。」
男は掴んでいた少年の手を離し、少年を一瞥するとさらに森の奥へと進んでいく。
少年は突然拘束を解かれたこと、当然覚悟した罵りや憎悪を含んだ言葉がなかったこと、
何よりも『ついてこい』と言われたことに驚いて立ち尽くした。
男の姿が木々の向こうへ消えようとしている。
少年は迷わず駈け出した。
男を追って森の奥に進むと、遠くに翡翠の水をたたえる泉が見えた。
絡み合っていた木々が手を解き、そこだけ輝く宝石のように陽光に満ちている。
薄暗い森に慣れていた少年はその光の美しさに目を細めた。
「こちらに参れ」
男は一度も振り向くことなく、歩みを緩めることもなく泉のほとりにたつ森小屋の中に消えた。
少年は逡巡し、意を決して扉に手をかける。
この扉を開けることは、己の運命に続く路を開くことのように思えた。