001:第一章 12歳の旅立ち
小説は、出だしが一番難しいと思います・・・。
導入で皆さんの心をつかまないと読んでもらえないけど、
きちんと背景を書き込みたいというエゴもあったりして(汗)
まだ明けきらぬ村には誰もいない。朝靄にかすむ森を一瞥し、少年は振り向かずに歩きだした。もう二度とここへは戻らない。
晴れ晴れとした気持ちだった。これで何もかもから解放される。あれほどの憎悪を向けられていたのに、不思議と村を憎む気には
ならなかった。彼らは恐れていたのだ。あまりにも容姿の異なる存在を。
最果ての村。外界とのつながりがない世界。『異なる者』を受け入れることができない彼らは、隔離された世界で生かされている哀れな子羊、そう、思うことにした。
行くあてなどない、戻る場所もない。だが世界は果てもなく眼前に広がっている。
遙か彼方まで続く路。誰がいつ創ったのだろう。その途方もない歴史を語れる人はいるのだろうか。
この路はどこに続く路なのだろう、そんなことを考えながら歩いた。
目に映るのは遠くに広がる山の鮮やかな早春の緑。最果ての村は切り立った山間に育まれた村。
村へ通じる路は一本だけだったが、ごつごつした石が転がり草も生えぬ不毛の大地が延々と続く。
太陽をさえぎる木陰もなく、流れる清流も見当たらない。
日が高く昇る前に遠くに見える緑の山へ辿り着かなければ、と足を速めた。
生きるために必要な要素、誰に教えられることもなく本能的に”知っている”。
身を隠す場所がないのは致命的だ、と思った。
最果ての村では、争いごとはなかった。みなが助け合い、協力して農作物を作り、分け合う。
男たちは森に入り、狩りや釣りをする。もっぱら農作業は女子供の仕事だった。
村人は村の外の世界には興味がなく、否、恐れている、とも思えた。
だからこそ、少年の容姿に嫌悪したのだろう。
何故誰も、外へ目を向けなかったのだろう。外の世界はこんなにも広く、荒々しい。
”自由だ”と思った。
自由。
何ものにも拘束されず、己の選択がすべてを決める。
己の意志で路を選び、己の命をつなぐ。生かされるのではなく、”生きる”。
まだ見ぬ広い世界に胸躍る気がした。
太陽が真上に上るころ、少年は遠くに見えていた山の麓に辿り着いた。
ごつごつした石の路は山に近付くに連れて歩きやすい土に変わり、
やがて短い草の生える小道へと変わる。
山から流れ出た湧水が美しいせせらぎを作り、覗き込むと銀鱗をひるがえす小魚の姿が見える。
食料を求めてやってきた鳥が草陰から小魚を狙い、その鳥を狙って毛長の獣が潜む。
命あふれる光景に少年は自然と笑みがこぼれるのを抑えきれなかった。
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