013:修行の日々
やっと登場人物が次々と出てきました☆
会話があるって書いてて楽しいですー。
「遅いっ」
「・・ッ!!」
ガキンッと鋼の交わる音が響き、同時にシエルの体は跳ね飛ばされた。
近くの大木の幹に背中を打ちつけ、その場に倒れこむ。
「まだまだだな、シエル。そんなんじゃすぐ殺られるぜ、」
シエルの鼻先に突きつけられる切先。跳ね飛ばされた衝撃で口の中が切れたのだろう、鉄のような血の匂いが口中に広がる。
全身の痛みをこらえて立ち上がろうとすると、無理すんな、と助け起こされた。
「ありがとう、カロル、」
シエルは跳ね飛ばされた剣を拾ってくれる後ろ姿に声をかける。
《カロル・アディーレ・エキタシオン・シューヴェ》剣と弓を極めし武王。
カロルに与えられた名は武の力を持つ者の中でも強大なものだ。
カロルはシエルより6つ年上の武の力を持つ兄弟子。
武の力を持つ者特有の体つきで、190センチに届こうかと言う身長にシエルの胴回りほどもある腕、芸術的とも思える筋肉が彼の体を覆っている。周囲を圧倒するほどの体格であるにもかかわらず身のこなしは俊敏で、あっという間に敵を追い詰める。
シエルは彼に憧れていた。強くなりたいと願うシエルの前に現れた圧倒的な強さを持つ兄弟子。
シエルの身長ほどもある大剣を軽々と操るかと思えば、その手から放たれる弓が的を外す事はない。武器を操るだけでなく体術にも長けており、素手での戦いでもその強さは群を抜いている。
「シエルは勘がいいから教え甲斐があるよ。」
カロルはシエルに剣を渡し、己の剣を鞘に戻すとシエルに微笑みかける。
最果ての村で生まれた、光を抱いた闇人。生まれた場所が違えばその類まれなる名の契約の下、惜しみない愛を与えられて育ったであろうに、と思うと6歳年下の少年が哀れでならない。愛されることに慣れていないのだろう、初めてレイに引き合わされたときは終始おどおどと視線も定まらず、何か言おうと口を開きかけても逡巡して口を噤んでしまう。何も気にすることなく、自分の思う通りにすればいいのだと、理解してもらうまでに半年を要した。
文句なしに美しい、と思う。陽の光に輝く銀色の髪と切れ長の銀色の瞳。すっきりとした頬のカーブにきれいに通った鼻筋。体の線はまだ細いがもう少し成長すれば逞しくなるだろうと思う。
こいつはさぞ女にモテるだろうな、と内心思う。
打ち合いで出来た頬のかすり傷でさえ、美しい顔を引き立てる装飾の一部に思える程だ。
「シエル、お前女にもてるだろう。」
「えっ?」
シエルにはカロルの言葉の意味が理解できずに戸惑った。最果ての村にいた頃は誰とも関わらず、いつも一人だった。村を出てすぐにレイと出会い、名を頂いてからはピコラの森の中にあるレイの小屋で兄弟子達と稽古に励む日々。
女性と会話をしたことさえない。
戸惑っているシエルの様子を見てカロルはハッとする。
「そうか、お前町遊びにも行ってないのか。まぁ、まだ12歳のガキにはまだ早いからな。
そのうち俺が教えてやるよ。」
楽しみにしとけ、とカロルは笑う。
「カロル、女遊びもほどほどにしなさい。いつも先生にそう言われているでしょうに、」
気配なくいつも突然姿を現すもう一人の兄弟子。
《フラム・アクア・ソル・シエール》 炎と水の大魔道、炎と水と言う両極をなす魔道を自在に操るシエルの兄弟子。魔道の力を持つ者は己の気配を消す事に長けている。
「なんだよ、フラムもその気になれば女の一人や二人、できるだろうに。」
「私は貴方のような遊び人ではないのです。女性は生涯一人で結構です。」
「おーおー、優等生だねぇ。俺は一人しかいないなんてまっぴらごめんだね。」
「カロルと付き合う女性が気の毒ですね。まぁこんな男に引っかかる側にも非があるんでしょうけど、」
棘のある言葉の応酬。シエルはぽかんと口を開けて二人を見守る。
「シエルっ飯食うぞっ!あー気分わりぃ。」
「シエル、こんな男といると毒されます。こっちにいらっしゃい。」
「あ・・あの・・」
二人の兄弟弟子との修行の日々。今まで一人で生きてきたシエルには何物にも代え難い幸せの日々。
自分がここにいるという、ただそれだけのことを認めてくれる人がいる。そんな些細な事がシエルにとっては何よりもうれしかった。
僕はここにいる。そして、ここで強くなる。
これで、第一章終了です。次話から第二章になりまーす。