010:キミノナハ・2
今回は名を与える者目線です。
珍しい、と思った。自分が名を与えた者の中では、格段に珍しい。あの『混血』の時も少々驚いたが、今回それの比ではない。
ひと目でそれと分かる闇を纏っていながら、その名に光を頂くとはにわかに信じ難い。
光と闇を同時に頂くとは、と名を与える者は呟く。しかも、12年間も閉ざされていた。だが、『名』の契約は絶対で、偽ることも逃れることもできない。
もしや、12年間の空白は彼を覚醒させぬためのもの?いや、違う、と名を与える者は自問自答する。名を与える時に彼の過去に触れた。彼は己の意思で旅立ち、ここに来た。
長い間、『名』を与えて来たが、赤子ではない、意識ある者に名を与えるのはこれが初めてだ。ましてや、己の意思でここに来た者はこれまでなかった。
名を与える者は12年間の空白を埋めるため、本来であれば取得しているはずの『知識』をシエルに与えていた。時として、『無知』は残酷で凶暴な武器にもなるからだ。
膨大な知識の渦に飲み込まれ、気を失ったシエルにチラリと目をやり、名を与える者は再び思考の海に沈む。
光と闇は対になるもの。光が闇を作り、闇が光を輝かせる。
あのプライドの高い閃光王が、光を抱いた闇が誕生したと知ったらどう動くだろう?
ふと、名を与える者は思った。
今まで出会った人間の中でもっとも鮮烈な光を放つ麗しき光の王とも表される彼は、この闇をどう捉える?
フッ、と名を与える者は笑う。面白い。これは見ものだ。
気が遠くなるほどの年月、記憶に残らぬほど膨大な数の人間に名を与えてきた。
記憶に残っているのは、心を動かすほどの強大な力の持ち主の名だけ。
それがこの同じ時代に、3人もいる。俺の他の名を与える者達のところにもいるのだろうか?
時代を、世界を変えるほどの力を秘めた名を擁いた人間が。
久しぶりに、楽しみが出来た、と呟き、意識を失ったままのシエルに近づく。
名の契約。額にはっきりと現れた印、それは光の力を持つ事を示すクリスタル。
だがその色は闇を表す黒。黒水晶など、初めて見た。
それも、こんなに目立つ場所に、と名を与える者はシエルを抱き起こし、その顔を見て思う。そう言えば、《麗しき光の王》の印も確か額だったな、と思い出す。彼の虹色に輝く濁りのないクリスタルを見た時も少々驚いたが、とシエルの額の黒水晶に触れる。
「力は、使う者によってその姿を変える。お前の力、見せてもらおう。」
名を与える者はそう呟いて神殿の奥へシエルを連れ去った。
もうすぐ導入部分も終わりますー。
ポイント付けて頂いた方☆ありがとうございます☆
とってもうれしいです。これからも頑張ります。
次話はレイ目線です。