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没落貴族の冒険者、第三王女の執事になる  作者: 惑城鍵


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1/1

一話

「冒険者の俺が何で第三王女の執事なんてしないといけないんですか」


 二人しかいないギルドマスター室にセドリックの声が響き渡った。席に座る冒険者ギルドのギルドマスターのヨーナスは目を瞑りため息を吐いた。そのヨーナスを声の主、セドリックは見開いた目で見詰めていた。ヨーナスの正面にあるソファに座るセドリックは今にも立ち上がりそうである。


「落ち着け俺にも詳しいことは分からん。ただこの依頼は国からの断れんぞ」


 ヨーナスは目を開いた。


「いや無理です。王女の執事なんて万一無礼があったら即処刑ですよ。そもそも何で俺が執事しなきゃいけないんですか」


 セドリックは動揺した口調で言った。


「処刑は言い過ぎなきがするが、まあ国外追放ぐらいはあり得るだろうな」


 ヨーナスは笑った。それを見たセドリックの表情はより一層酷くなる。


「家は没落し、国外追放までなれば俺はどうやって生きていけばいいんですか」


「まあ脅しはこれぐらいにして、お前一応貴族の出だろ? 没落貴族とはいえ執事ぐらいいただろう」


「一人いましたけどそれがどうかしました?」


 セドリックは言った。


「小さい頃から執事を見ていたなら執事の真似事ぐらいできるだろう。よし問題ないな」


 ヨーナスは物事が解決したかのように言った。


 セドリックは「無理矢理」とヨーナスに必死に食い下がる。だがヨーナスは一枚の書類をセドリックに見せた。


「依頼は今日からだ。早く城へ行ってこい。この紙を見せれば城に入れてくれる」


ヨーナスは立ち上がるとセドリックのもとまで寄った。書類を無理矢理、セドリックの手に掴ませる。


「俺はまだ冒険者の仕事を続けたいんです」


 セドリックはヨーナスに懇願した。だがセドリックは扉の方を指差した。


「早くいけ。でないと俺の立場が危うくなる」




 セドリックは嫌々城へと来ていた。書類を見せると王国兵は城へと通した。その後使用人らしき男にとある部屋の前まで案内された。両開きの扉は王女の部屋だと一目で分かる装飾が施されていた。セドリックを案内した男はどこかへと消えていった。一人残されたセドリックは扉をノックした。


「依頼を受けてきました、セドリックといいます。扉を開けてもよろしいでしょか?」


 セドリックが部屋に向かって話しかけるとすぐに返事が返ってきた。


「入っていいよ」


 短めの返事。だがやけに馴れ馴れしかった。セドリックはその言葉と声に違和感を覚えた。セドリックは首を傾げながら扉を開いた。


 扉を開くとセドリックが借りている一室の三倍以上の空間が目に入った。高級品と思われる家具が部屋に並んでいる。そして扉側の向こう側の壁際に机と椅子があっだ。こちらに背中を向けて椅子を座っている女がいる。第三王女だ。ドレスに身をまとっている王女は椅子から立ち上がるとセドリックの方を向いた。その瞬間、セドリックは「アリーヌ」と声を漏らした。


 アリーヌはセドリックの冒険者仲間だ。一緒にパーティを組んだこともある。髪型は普段と違うが顔はアリーヌそっくりだった。第三王女はセドリックの方に歩み寄る。


「久々ねセドリック。わたしのことを覚えていたのね」


 第三王女ことアリーヌは友人に向けるような表情を取った。


「やはりアリーヌなのか。けど第三王女なんて知らなかったぞ」


 セドリックは戸惑いを表すかのように左手で頭部を掴んでいた。なぜ第三王女が冒険者業に就いていたのか見当もつかなかった。


「教えるはずなんてないでしょ。一応正体が発覚するのは避けて冒険者としての活動は国外に限定してたからね」


「確かにアリーヌとはこの国であったことなかったな。それでなんで俺がお前の執事をする必要があるんだ」


「執事が足りてないからよ」


 アリーヌは容易に嘘だと分かるような話し方で言った。セドリックは呆れた顔でアリーヌを睨みつける。


「王族が執事不足とか前代未聞だろ。本当の理由を教えろ」


 セドリックは言った。


 アリーヌは「笑うと「護衛をこなせる執事が欲しかったのよ。普通の執事はお茶を入れたり、マナーを教えてくれても護衛まではできないのよ。その点冒険者なら戦闘力は保証されているからね」と説明した。


「いや護衛ぐらい専門で雇えよ。俺はこの依頼辞退させてもらうからな」


 セドリックはアリーヌに背を向けた。扉の方へと歩き出す。


「いいの? あなたの家の復興?」


 アリーヌの声が聞こえるとセドリックの足は止まった。セドリックはアリーヌの方へと反転する。セドリックは困惑した顔でアリーヌと目を合わせていた。


「それは脅しかアリーヌ?」


 セドリックは尋ねた。アリーヌは微笑んで見せた。


「脅しじゃないわ。単に執事になったら復興の手伝いをしてあげるのよ」


「もし手伝わなければどうなる?」


 セドリックの問いにアリーヌは微笑んだまま答えた。


「特にないわよ。ただ没落した貴族が貴族でなくなるだけね」


「いや貴族の身分を取り上げる気満々じゃねえか」


「どうせほっといてもあなたの代であの家は終わりよ? 次の後継者であるあなたのお兄さんはかなり問題あるみたいだし」


「それはそうだが」セドリックは俯いた。アリーヌの足音が聞こえ、それはセドリックの横で止まった。


「家が滅ぶのはあなたも嫌でしょ?」とアリーヌはセドリックの耳元で囁いた。


 セドリックは何も答えられなかった。幼い頃から過ごしたホーロタージュ家が無くなるのは避けたい。ただ第三王女の執事が自分に務まるかは疑問だった。


 アリーヌはセドリックの肩に手を置くと「期間は一年だけだから」と言った。


「本当か?」とセドリックが聞き返した。


 アリーヌは「ええ」と答えた。


 セドリックは顔を上げアリーヌを見た。アリーヌは肩に手を置いたまま動かない。どちらが首を伸ばせばキスできそうな距離だ。だがセドリックの目はアリーヌに見惚れてはいない。覚悟を決めた眼差しでアリーヌを見ていた。


「わかった。この依頼受けよう」セドリックは言った。


「これで契約成立ね。あとアリーヌは偽名よ。王族としての名はバベットよ。あとほかの人がいるときは丁寧な言葉遣いでお願いね。執事さん」アリーヌは欲しかった武器を手に入れたような顔をしていた。


 セドリックは二歩下がると「分かりました。バベット様」と言ってから上半身を前に曲げ一礼した。右手は胸に添えられていた。


「流石に堅苦しいわね。二人でいるときは友達感覚でいいわ」


 セドリックは顔を上げた。バベットは困惑した顔でセドリックを見ていた。


「いえ、他の人にうっかり見つけられるとややこしいのでこの口調でいかせてもらいます」セドリックは口元を緩めからかったような表情を作った。


 バベットは「もうそれでいいわ」と右手をおでこに当て諦めたような仕草を見せる。

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